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お騒がせ女神の学園生活  作者: 一ノ瀬 和人
お騒がせ女神と体育祭
20/57

一介の魔工師

「莉奈~~。どこにいるか返事しろ~~」


 恵梨香は声を上げて莉奈の名前を叫ぶ。

 恵梨香と燈子は莉奈とはぐれた後、薄暗い廃工場の中を2人で探索していた。

 あれから2人は他の不良達とは遭遇していない。

 不良達がいそうな所を燈子が意図的に避けているのだが、そのことを恵梨香は知らなかった。

 現在は2人で工場の2階まで上がり、とある部屋を探索している。

 

「全く。莉奈の奴いつもはしっかりしてるのに、祐介のことになるとああなるんだからな」


 恵梨香はその場でため息を吐く。

 莉奈が祐介のこととなると後先考えなく動くことを恵梨香は知っている。

 口から出てしまったため息は、莉奈のことを止められなかった自分のことを責めるものであった。

 

「まぁ、莉奈ちゃんらしいじゃないか。私から見れば昔の莉奈ちゃんよりはましになったと思う」


「そうなんですか? 私は盲目な恋をする乙女にしか見えないんですけど」


「まぁ、見る人によってはそう思うのかな」


 燈子がそう考えるのは莉奈の成長を1番近くで見守ってきたからである。

 小さい頃の莉奈は祐介を様々な場所へと引っ張りまわし、そのたびに親達から祐介と共に怒られていた。

 その頃の莉奈達を見ていた燈子からすれば、魔法の使い方を覚えている分、今の莉奈はそこまで危なっかしく感じていない。

 

「私にとっては莉奈ちゃんよりも祐介のことが心配だ」


「祐介? あいつがどうかしたんですか?」


 燈子が心配しているのは祐介の方であった。

 不良達の正体を燈子は知っているので、それが余計に祐介に対する心配をかきたてる。

 

「祐介は魔法が使えないからな。それであいつらに立ち向かうことなんて不可能だ」


 祐介の体の中に多少魔力があることを燈子は知っている。

 それは幼少時にやった魔力保有の判定テストでA~Eの中でDランクが出ていた。

 だがその魔力を制御や運用するための鍛錬を祐介は行っていない。

 祐介が転生した事実を知らない燈子にとってみれば、魔法の勝負になると祐介が圧倒的に不利になると思っていた。

 

「無事に莉奈ちゃんと合流できているといいが‥‥」


 そう言うと燈子は胸ポケットから自然に煙草を取り出して口にくわえる。

 もう1度ポケットに手を入れ、ライターを取り出すと煙草に火をつけた。

 

「燈子さん、煙草はダメだって。さっきの奴らに見つかりますよ」


「大丈夫だよ。ここには別に煙草を吸ってても咎める奴はいない」


 そう言うと燈子は口から紫煙を吐き出す。

 物憂げな雰囲気を帯びた燈子の姿に恵梨香は見とれていた。

 

「それに話を聞きたい奴もいるしな」


「燈子さん?」


 燈子がもう1度紫煙を吐くとドアの外から声が聞こえてくる。

 その声は1人だけではなく、複数人の男性の声だった。

 

「いたぞ。侵入者だ」


「でも、義信さん達の言っていた人達とはちょっと違う気がするんですが‥‥」


「この際誰でもいい。早く捕まえないと俺達の首が飛ぶぞ」


 慌てた様子で制服を着た5人の男は燈子達を囲む。

 5人の男は全員MT(エムティー)を懐から取り出し、燈子達に向けた。

 

「燈子さん、これマジでやばいって」


 ひたすらあせる恵梨香に対して、燈子は落ち着いた様子を崩さない。

 再びポケットから煙草を取り出し、ライターの火を煙草につける。


「やっと来たか」


 2本目の煙草を口にくわえ、燈子は再び紫煙をはいた。

 煙草を吸っている燈子はつまらなそうな顔を男達に向ける。

 

「お前達には聞きたいことが山ほどあるんだ。まずは‥‥‥‥」


「どの口がほざいてるんだ? 女2人で俺達MT(エムティー)持ちの魔法師相手に何が出来る?」


 先頭に立つ男は的確なことを言っていた。

 通常5人の魔法師の卵対ただの中学生と駆け出しの魔工師では相手にならない。

 ただ先頭に立つ男の予想は少し外れていた。

 駆け出しの魔工師はただの魔工師ではないからである。

 

「こっちが質問してるのに話をさえぎるとはお前こそ何様だ? 年上に対して敬語も使えないとは関東魔法高等学校の品格も落ちたものだな」


「何だと? お前達が何故俺らの正体を知っている?」


「そんなのは簡単だ。お前達の制服を見れば、少なくとも関東魔法高等学校の生徒だってことはわかる」


 燈子がそう指摘すると、先頭の男はたじろぐ。

 

「全く。あそこの連中はまだ派閥争いとかいうくだらないことをしているのか。あきれてものも言えないな」


「お前は一体何者なんだ?」


 たじろぐ男を前に燈子は堂々と前に立つ。

 

「別に。私は一介の魔工師さ」


「もういい、お前達も早くこいつらを‥‥」


 一陣の冷たい風に身震いした後、後ろを振り向いた男は驚愕する。

 彼の後ろにいた4人の男達は全員氷の石造とかしていた。

 

「申し訳ないが後ろにいた彼らには黙ってもらうことにしたよ」


「くそ‥‥‥‥なら俺が‥‥‥‥」


 男が体を動かそうとしても全く動く気配がない。

 それは足の先から指の先まで全てが凍りついていたからである。

 

「何で‥‥‥‥」


「お前達は魔法師としての鉄則も忘れたのか? MTエムティーは肌身離さず持ち歩くって」


 そういうと燈子は男に自分の腕時計を見せる。

 それは腕時計と見せかけたブレスレット型のMTエムティーだった。

 

「これは私が開発したMTエムティーなんだ。MTエムティーの機能の他にも腕時計の機能も携えてる」


 燈子は自分が持っているもの嬉々として語る。

 男はそれよりも燈子から感じる得体の知れない恐ろしさに身震いしていた。


「何だ? この魔法は? 見たことがない」


絶対零度アブソリュートゼロ。氷結魔法の中でも最上級の広域魔法だ」


絶対零度アブソリュートゼロ? そんなものどこで‥‥‥‥」


 男は自分の体が震えていることを自覚する。

 それは部屋の気温が寒いというからでなく、目の前の燈子に恐怖していた。


「昔の杵柄でな。関東魔法高校に通ってた時に親友からこの術式を教えてもらったので使ってみたが、私の腕もまだ錆びていないようだな」


 その話を聞いていた男は燈子の方を見て何かを思い出そうと必死に考えていた。

 関東魔法高等学校の赤髪と氷の魔法、男はある人物を思い浮かべていた。

 

「そういえば義信さんから昔赤髪の氷結魔法を使う女が生徒会役員にいたって聞いた。そいつは確か尊敬と畏怖の対象として氷の姫(クリスタルプリンセス)って名前がつけられていて‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 次の瞬間、男の右耳が冷たくなるのがわかった。

 それは氷の魔法のせいで男の耳が冷たくなったからだ。

 

「それ以上余計なことは話すな。お前はこっちの質問に答えてくれればいい」


 無表情で煙草を吸う燈子に男は恐れを抱いた。

 目の前の女性の正体を知ってしまった今となってはその圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかった。

 

「大丈夫だ。この魔法もちゃんと死なないように制御してある。お前も嘘をつかないで私の質問に答えてくれれば悪いようにはしない」


 恐れを抱いた男に選択肢はない。

 彼は自分が知っていることを燈子と恵梨香に告白した。








☆★☆★








「則之がそんなことに‥‥‥‥」


 廃工場の中を逃げているさなか、祐介は莉奈に全てのことを話した。

 日笠家の歴史と則之の過去と現在。

 莉奈は全ての話を聞き終えると、ゆっくりと祐介の手を握る。

 

「祐介はさ、あの時授業参観に来てた人が佳代さんだって知ってたの?」


「知ってた。でも、あの人が佳代さんだってことは知っていたけど、則之の母親だってことは知らなかったよ」


 落ち込んでいる莉奈に対して祐介は捕まれた手を優しく握り返す。

 

「則之がそんなことになってるなんて、私知らなかった」


「俺もだよ。何もわかってなかった」


 目の前の莉奈は自分のことを責める。

 祐介のことばかり考えていて、則之のことをないがしろにして今回の事件に気づかなかった自分のことを莉奈は悔やんでいた。

 

「ねぇ、祐介?」


「何だよ」


 莉奈はいつの間にか両手で祐介の手を握っていた。

 その手は暖かく、今の落ち込んでいる莉奈の表情とは対象的に映る。

 

「私達ってこれからどうすればいいのかな。則之に対してどう接すれば‥‥」


「そうだな。とりあえず文句の1つでも言わないとすまないよ」


 祐介は莉奈の顔の方に向き直る。

 

「『こんな夜遅くまでどこをほっつき歩いてるんだ』ってね」


 そう言うと祐介は莉奈に微笑みかける。

 あまりのいつも通りの祐介に振舞う祐介の様子に、莉奈はきょとんとしてしまう。


「明日は体育祭だろ。だからさ『お前を探して寝不足になったせいで徒競走で1位になれなかったらどうするんだ』っていってやるんだ。1位じゃなかったら俺は莉奈に練習量を3倍に増やされるのに」


 ぶつぶつと文句を言う祐介に対して莉奈は思わず笑ってしまう。

 祐介から見た莉奈の表情は先程までとは違い、少しだけ明るく見えた。


「ちなみに3位以下なら練習量は5倍に増やす予定なので覚悟しててね」


「聞いてないから。そんなこと」


「だって今決めたんだもん」


 祐介と莉奈の顔には先程とは違い、悲壮なものは漂っていない。

 莉奈と祐介はいつもの2人に戻っていた。

 

「じゃあ、余計に則之に怒らないといけないな」


「そうだね」


 2人は頷くと先程まで歩いた道を戻る。

 則之と義信達と決着をつけるために2人は先ほどいた部屋へと赴いた。


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