花は枯れて
少しだけ傾いた太陽が広い世界をオレンジ色に照らす。
どこまでも広い空の下、黄金の花が続く。
その花畑の中を行く二つの影が、不意に止まった。花が、風にふんわり揺れた。
「ねぇ」
くるりと少女は後ろを向いて、車椅子の少年に話しかける。
少年の表情は、今の陽光と同じようにどこか淋しげだった。
「どこでなら、死ねるって思う?」
太陽が厚い雲に隠されて、その光が彼らまで届かない。
あっという間に世界は陰り、花は揺らぐ。
彼女の周りのものは、ただ時間が過ぎるのを待っている。
「ここなら? こんな花がいっぱいの所なら?」
冗談なのかどうなのか、薄く笑う少女を見つめて、少年は彼女の問いかけに何の言葉もかけられずにいた。
どうして。
淡い夢のような芳香が、彼の鼻先を掠める。
彼女を縁どるように、黄金の花がぼんやりと、小首を傾げた様子で咲き乱れていた。
どうして、そんなことを考えるのだろう。
少女は彼の心中を知っていると言いたげな、曖昧な笑みを見せた。花を、そっと撫でた。
「花は咲いて、いつか枯れるの。きれいに咲いても、枯れるのよ」
淋しそうに、少女は告げた。
かなしい、言葉を。
「枯れたら、また咲くよ。また、次の季節に。枯れるのは、死ぬのは、この世界から消えることじゃ、ないんだから――」
気付けば、彼の口からそんな言葉が滑り出していた。
車椅子を少しだけ進ませ、少女に近付く。
少女はただ少年を見つめ、うっすらと笑みを返した。
雲が流れて、また陽が真っ直ぐ伸びる。
世界はまた呼吸をはじめ、吐息のような風が、花々にやわらかく吹いた。
全てが、美しい夢のように揺れて。