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モノクロォム






 右手の人差し指は突き出されたまま、宙に浮いている。



 ――無いなぁ……。



 本棚の一番上から下まで目を走らせる。

 左上から、右下。

 右上から、左下。



 ――やっぱ無い。



 大学の図書館内にあるパソコンには検索機能がついていたはずだが、わざわざ調べるのも億劫だ。

 それに、ここは蔵書数も多くないし、簡単に見つかるだろう。


 そう思っていたのだが……。

 どうやら僕は捜し物がヘタらしい。様々な書体、様々なデザインの背表紙を眺め、軽く溜息。


 きちんとリストアップしてくるべきだな。

 僕は図書館を後にした。









「別れよう」



 久しぶりに外――落ち着いた雰囲気の喫茶店――で会った彼女は、オーダーを終え、二人分のコーヒーが運ばれてきて、他愛もない話の途中に不意にそう言った。


 黒髪で、背が低くて、大人しい彼女。初めて会ったのはいつだったか。



「最近、全然、会ってなかったし……もう、必要ないよね?」



 語尾にはお互いに、という意味が含まれているようで、勝手に同意を求めてくる。


 ああ、そうだ、確か今日みたいに僕が本を探していたら、彼女が一緒に探してくれたんだ。

 彼女は上手だったな、捜し物が。

 僕が眼鏡を探している時も、シャーペンを探している時も、すぐに見つけてくれた。


 どこにあるか、というのは大抵決まっているものらしい。彼女が言うには。


 残念ながら僕にはそれが分からないので、彼女が見つけてくれた時は決まって、見つかった物がぱっと色がついたみたいに見えたものだ。



「もう、行くね」



 どうして気がつかなかったのだろう。

 そう思えるほど、見つかったそれと周りの対比は激しい。



 ――よく見てないからでしょ。



 よく聞いた彼女の台詞に、僕は憤慨したものだ。



 ――ちゃんと探したよ。


 ――いいえ、探せてません。もっとよく見て!




 数ヶ月前まで、そうやって笑っていたな。


 彼女の背中を見ながら、そう思った。

 







 ネットで読みたい本を探した。

 あの賞を取ったな、そういえば同じ作者だったか……。

 春休みは長い。まあ、適当に借りて、読めなかったら読めなかったでいいか。


 今度はきちんと検索エンジンで存在を確認してから、図書館を訪れた。




「あ。あった」




 ここは、前も探したはずだった。

 いくら探しても無かったはず。

 それが今日は一分と経たない内に見つかった。


 お目当ての本は、ぱっとそれだけが輝いているように見えた。本棚に並ぶあの数々の本の中で、“見つけてください”とでも言うように。


 ――ああ、そうか。


 探そうとしていなかったのか。

 彼女に指摘されたことが今更のように解った。


 興味のかけらも無かったことが、彼女には分かっていたのか。探す気など、解る気など最初からないことが、分かっていたのか。



 ――ちゃんと見て。



 何度も何度も、彼女は言っていたのにな。



 本を借りて帰ろう。

 あと、眼鏡探そうかな。


 多分、パソコンの影になっているはずだ。






End

※お題:モノクロォム

NoaNoa.さま: http://id20.fm-p.jp/41/slangdog/




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