生徒会長の謎その①
あれから3日、俺は生徒会室に脚を運び続けた。どうも部費の処理が忙しいらしい、俺自身の仕事といえばお茶を運んだり、頼まれたものを持ってくる程度、ホント申し訳ない気分がこみ上げてくる。
「今日も行くのか?」
博が尋ねる、よくよく考ええれば最近一緒に帰るも機会もめっきり減っている。
「ああ、部費の件が片付くまでは行こうと思ってる」
「生徒会も大変だね……、まあ、がんばれよ」
きっとこの言葉にはいろんな意味が含まれているのだろう。
「ああ、がんばるよ」
「如月君、部費の補正はどうだ」
「もう今ある分は終わった」
「音色そっちは?」
「もう少し時間を」
「まったく、剣道部と美術部は申請を出さないとはどういうつもりだ、仕方ない、行ってくる」
「会長それは俺が……」
「いや、いいほかのものの手伝いをしてやってくれ」
最近はいつもこの調子だ。
「先輩、何かできることは?」
「そうだなお茶でも持ってきてくれ、あとお菓子」
カリカリと手を休めず視線をおとしたまま答える如月先輩。
「松戸は?」
「じゃあ私もお茶で」
こっちも忙しそうにノートに何かを書き込んでいる、急いでいるのにしては驚くほど綺麗な字だ。
「了解」
こんな会話を何回繰り返したことだろうか、すっかりお茶入れは得意になった。しかしだからといって役に立っている実感が無い。
「ほんとダメダメだ」
「ひとまずひと段落着いた、みんなお疲れ」
時刻はすでに午後八時を回っていた。
「会長せめてその資料だけでも俺が……」
「いやいいよ、と言ったら君の気が治まらないかな? じゃあ職員室までついてきてくれ」
「分かりました」
「ついでだから鍵も返してくるとするか」
電気を消すとすでに廊下は真っ暗になっていた。
「じゃあ、俺はこれで」
と如月先輩。
「お疲れ様でした」
と松戸。
「では行こうか」
ちょっと待てこれって……生徒会長と二人っきり!
「…………」
「どうした庶務?」
二人の姿はもう見えない。
「い、今行きます」
お互いが無言のままただ坦々と歩いている。
「そういえば、鑢君何かお礼をする約束があったね」
初めに声を発したのは会長。
「お礼ですか?」
「言っただろ? それとは別に報酬を考えておこうと」
確かに言っていた。
「えっと……」
「別に今すぐ考えなくてもいいよ、決まったら言ってくれ、私にできることなら極力協力するよ」
という会話をしているうちに職員室の前についていた。
「さて、別に帰っても構わないよ」
「いいえ、待ってます」
一瞬覗かせた会長の横顔はどこか嬉しそうだった。
「そうかい」
というと職員室へと入っていった。
「報酬か……」
極力協力するね、やっぱり眼鏡モデルショー? 写真とかを撮るって言うのも捨てがたいな……。
「今の君の顔はだいぶ幸福そうだが、何を考えているのかな?」
「……となると、どっちにしろ眼鏡ショップへ一緒に行く必要が……って会長!」
「眼鏡ショップに一緒に行く必要がっていうのは、私とかい?」
「いや、その……お早いお帰りですね」
「かれこれ、5分くらいたってるよ、そんなに楽しい想像……いや妄想だったかい?」
「その報酬というかお礼というか……別に妄想してたわけじゃ」
「やっぱり君はからかいがいがあるな、デートっていうのかな? そういうの、なかなか楽しそうじゃないか」
そう言って微笑んで見せる会長。
「そうだな……外の世界っていうのも楽しいかもしれないな」
何か小言でつぶやいたがその全容までは捉えられなかった
「会長?」
「いや、何でもない」
何もなかったようにまた微笑む会長。
「暗いですし、送りますよ」
「じゃあ駐車場までいいかな?」
「送迎なんですか?」
「ああ、そうだ」
校舎を出ると星空が雲の間から顔を覗かせていた。
「さて、ここでいい、ありがとう」
黒いリムジン、まるで映画にでも出てきそうな車だ。そこからグラサンをかけた体格のいい男が出てくる、ますます映画っぽい。
「…………」
どこかの企業のご令嬢なのだろうか、それもかなりの大企業だ。このことで、ますます生徒会長の謎が深まった。車は走り去ってしまった、もう手を伸ばしても届かないほどに。
「あの男はいったい誰なのですか?」
その男はグラサンを外していた。息子によく似ていると言われるのもうなずけるほど、最近では子供も成長したため、見分けがますますつかなくなっている。
「生徒会の庶務だ、送ってもらったんだよ」
「そうですか」
男の名前は如月轟、如月修の父親だ。
「愚息は迷惑をかけていませんか?」
「いや彼はちゃんとしているよ、迷惑なんてかけていないさ」
「そうですか」
車は暗闇を切り、走り抜けていく。
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