部活審査
「すまない、言い忘れていたよ」
昨日言い忘れたことを伝えに、生徒会長は教室まで足を運んでくれた。
「別にわざわざ来ていただかなくても」
生徒会長は笑いながら詫びを入れる、美しい黒髪と弾力のありそうな白い肌、そして眼鏡、世界遺産だといわれても何の違和感も無い、むしろ他の世界遺産を疑うレベル。
「仕事は放課後からだ、とりあえず終わったらすぐ来てくれ」
「分かりました」
気が付けば教室がざわついていた、確かに生徒会長が来て一生徒に用件を伝えて帰る、誰もが疑問に思うことだろう。ざわつくこともうなずける。
「おい、鏡まさか生徒会長と……」
「違う、俺が生徒会に入ったそれだけだ」
「ちょっと待て鏡、そんなこと初めて聞いたぞ」
博は驚きの表情を浮かべる。
「俺もはじめて言った」
「はぁ、お前が生徒会役員とは世も末だね」
「何が世も末だ、俺は至ってマジメな人間だ」
「冗談冗談、そっかお前が生徒会にねぇ、なんだよ生徒会長狙いか?」
「半分は」
がらりとドアが開く担任のお出ましだ、背はそれほど高くは無い、太ってもいない、少し髪が薄いがそれを言うと怒る、あとギャグが寒い。
「HR始めるぞ」
「遅いぞ、庶務」
腕を組んで生徒会長が立っている、その横に松戸と如月先輩も立っている。
「すいません、HRが長引いちゃって」
あのハゲ、配布物忘れて職員室に戻ったはいいが、なかなか戻ってこない挙句、級長が呼びに行ってたときにお茶を飲んでいやがったそうだ。
「まあいい、いまから風紀委員と合流して各部活を回るとしよう」
それから生徒会長たちとC棟2階大会議室へ向かった。
「すまない、遅れてしまったようだね」
25人くらいはいるだろうか? その中には当然久美の姿もあった。
「いまからグループを分ける、とりあえず昨日伝えておいた班ごとに集まってくれ」
ざわつきながらそれぞれが各班に集まっていく。
「先輩、俺はどこへ行けば?」
「ああ、生徒会メンバーで一班として回るんだ」
「なるほど」
全員がいつの間にかそれぞれの班に集まっていた。
「さて、では始めようか」
「あとは……サッカー部だけですね」
マジメな部活ばかりでスムーズに回り終えてしまった。
「サッカー部か……、あまりいい噂は聞かないな」
如月先輩がそう付け足す、ノーマルなままならホントかっこいい。
「ここだな」
気付くと小さなプレハブ小屋の前についていた。
「ふつう、サッカー部ならグラウンドなんじゃ?」
「今日は休養だからここに集合だそうだよ、活動黒板に書いてあったよ」
その疑問には生徒会長が答えてくれた。
「でも練習している所を見たことないんですけど……」
と松戸がつぶやく。
「とりあえず入るか」
会長が少しさび付いたドアノブをひねる。
「部活検査だ、お邪魔するよ」
ガタイのいい奴らがいっせいにガンを飛ばす。
「タバコのにおいがするね、あと汗臭い」
嗅覚のから得られる情報だけでもヤバイかんじがする。
「これはこれは、生徒会長いらっしゃい」
中でも体格のいいオールバックの男が前に出た。
「君は3年2組篠崎君だね、確か2回暴力沙汰で停学したことがある、君が部長だったかな?」
「そのとおり」
「しかし、タバコのにおいがするけど、誰か吸ってたりするのかい?」
急に辺りの空気が変る。
「そのことは黙っててもらえませんか?」
「残念ながら生徒会長としてできない相談だね」
「おいおい、これは要望じゃない命令だ」
コキコキと腕を鳴らしながら前に出る猛者たち。
「こんな奴らを倒す方法はあるのか?」
「ああ……あるぜ!」
と如月先輩。
「ええ! あるんですか!?」
「ああ……、たったひとつだけ残った策があるぜ」
「たったひとつ! それはいったい?」
「とっておきのヤツがな! あいつらの足を見てみろ! 練習をサボりすぎてたるんでいる! そこがつけめだ!」
「そ……それでたった一つの策とは?」
「こっちも足を使うんだ」
そういうとバシと足を叩いてみせる。
「足だって! 足をどうやって!」
「逃げるんだよォ! 鑢――ッ!」
陸上部もビックリのスピードで逃げる如月先輩。
「えっ……」
もう姿すらも見えない。
「お、追え」
約10人くらいが後を追う、先輩の読み道理遅い、遅い……けど。
「仕方ない、残ったお前達だけでも」
後ろを振り返る、そこには女性が二人。
「鑢君、頼りにしてるよ」
「無理言わないで下さい」
10人減っても、残りはそれ以上いる。
「きっとか弱い私は……拘束されて人気の無い所にそして彼らの欲望のまま、あんなことや、こんなことを……ハァハァ」
松戸はなんかヤバイ顔をしている。
「ここは俺が何とかしなくては……」
「全く、頭まで筋肉の運動しかとりえの無いはずのお前達が、堕落したらただのゴミ以下の存在じゃないか、おっとゴミに失礼だね」
生徒会長が急に奴らを挑発し始める。
「ンだとゴラァ」
「ちょっと先輩何を?」
「言っていることも幼稚すぎて、ホント馬鹿丸出しだな」
「テメェ、クソメガネ前でろや、二度とその口聞けねえ用にしてやる」
プツン。
「おい……テメェ―ら、今生徒会長の眼鏡のことなんつった!」
「え?」
それから何があったか分からない、ただ気が付いたら俺の手が血に染まっていた。そして倒れているサッカー部の一同。
「え、いったいこんな偶然あるはずが……」
「偶然なんかじゃないよ、私はこれに賭けた、鑢君が切れて奴らに勝つことに」
生徒会長が肩に手を置く。
「そして勝った、実にかっこよかったよ」
生徒会長の行っていることがホントだとすれば、ここに散らばっているゴミは俺が散らかしたことに。
「俺なんてことを……」
「ちょっと妖しいが、正当防衛ってことを主張するつもりだ」
「なんか複雑な気分……」
がっかりした顔をする松戸。
「残念なことだが、部活がひとつ消えてしまうね、さあ、帰ろうか」
「ああ、酷い目にあった」
生徒会室には如月先輩の姿があった。
「先輩どこ行ってたんですか、ホント苦労したんですよ」
「おお、ご苦労」
お茶をすすりながら足を組んでいる所を見ると、かなり前に生徒会室へ戻っていたのだろう。
「どうやって逃げ切ったんですか」
「全員ぶっ飛ばした」
「どうやってですか?」
「まず走らせる、そうすれば足の速い遅いで人数がバラける、あとは一人一人殴って倒す、以上」
確かにいい方法だ、しかし少しはこっちのことも考えて欲しかった。
「で、助けに行こうと思ったときには、お前が阿修羅のごとき形相で奴らをぼこぼこにしてたからな、巻き込まれないように早急に退散したってわけだ」
「俺なんか言ってましたか?」
「『生徒会長の眼鏡がマスオさんみてェーだとォ?』って」
なんかもう……、そんなの俺じゃない。
「でも鑢君強いんだね、何かやってたの?」
「いや……何もやってない」
「それにしてはいい体つきをしているよ」
わき腹をつつかれる、くすぐったい。
「会長、くすぐったいです」
「おっと、すまない」
少し名残惜しそうに手を離す会長。
「でも、ほんとにサッカー部は廃部なるんですか?」
「しかたないさ、今までいろいろやってきた彼らに責任があるよ」
「でも全員が悪いわけでもないでしょ?」
「……ずいぶんと彼らの肩を持つね」
人差し指を胸につきたてられる。
「ひとつ警告だ、同情なんてものはいらない、君も生徒会の一員として客観的に物事を捉えたまえ」
言葉が鉛のように重い、次の一言が出てこない。
「すこし堅い話になってしまったね、今日は疲れただろう? ゆっくり休んでくれ」
そう言うと、生徒会長は微笑を残して生徒会室を出て行ってしまった。
宜しかったらコメントください。
お願いします。