海! その③
「いいだろ、どこかで遊ぼうぜ」
探すこと2分ほどようやく視界に久美を捕らえた。なんかチャラい虫がついてるし、ナンパの仕方古いし。
「えっと……困ります」
「おっと手が滑ったぁぁあああッ!」
手がすべり飛んでいった缶ジュースは虫の顔にめり込み虫は動かなくなってしまった。
「ヘイ彼女、お茶しない」
缶ジュースをを顔から引っこ抜き、人生初のナンパというものをしてみることにした。
「古いようで新しいナンパの仕方ね」
「そりゃどーも」
安堵とため息を混ぜたようななんともいえない吐息を吐く久美。
「それで何であんたがここにいるのよ」
「生徒会で来てる、それだけ」
軽くしたから上へと視線を流す。フリルが多めのピンク色のホルターネック、つつましくも存在感を放つわけでもないそれにとてもフィットしている。
「へぇ~、似合うじゃん」
「そ、そうありがと」
もじもじとしながら礼を言う久美。
「まあなんだ、とりあえず姉さんたちのとこ行こうぜ」
「う、うん」
「子供かよ……」
戻ったときそこに誰もいなかった。
「みんなここにいるんじゃなかったの?」
「落ち着きがないようだな」
さてどうしたものか……。
「ひとまず探してきたら」
「しかしな……」
先ほどの一件といい久美を一人にするのは心もとない。
「と思えばちょうどいいところに」
その声に反応し、彼は砂山の陰へと身を隠してしまう。
「先輩……何してんすか?」
「くっ、なぜばれた」
いや普通にはみ出してるし。
「暇なら久美のこと見ててください、俺他の人探してくるんで」
「なぜ俺が……」
血が引き顔色が真っ青になる。そういや、この人女性恐怖症だったけな。
「いつも聞こうと思ってたんですけど、何で先輩は女性恐怖症に?」
「そんなことかそれは……断章で語られるんじゃないか? ……あれ俺今なんて言った?」
「さて? 聞こえなかったです。……とりあえず久美のこと見ててくださいね、変なの絡まれないように」
「は、早く帰ってこいよ」
涙目で訴えられるが……男がしても正直……。
「了解」
それはさておき昼時も近い早く皆を見つけなくてはな。
「おい音色」
「きょ、鏡君」
なぜかそわそわしい音色、まったく、どうしたのだろうか?
「何で逃げたんだよ」
「何でって……」
もじもじとこちらの表情を伺いながら数秒たってようやく口を開いた。
「昔から褒められることってなくて、なんか慣れなくて……うれしいって言うのかな? どうしたんだろ私、なんか変だな……」
「変じゃねえよ、それが普通だ」
そんな言葉が口からこぼれた、彼女がそんな普通な感情を抱くことがどこか愛おしく思えた。もともと感性のベクトルがずれていて、それが少しでも正しいほうに向くのならそれほどうれしいことはないだろう。
「……なんて言えばいいのか分んねぇけどさ、普通になれないんじゃない、普通じゃないんだ……だから普通になれる」
自分でも何を言っているのか分らなかったが、きっと俺自身伝えたい言葉を可能な限り伝えたと思う。
「変なの」
「ああ、変さ」
きっと音色も俺も、みんなどこか人と違ってる。誰一人同じ人間なんていない。
「さてもう飯の時間だ、パラソルのとこに戻ってろ」
「うん」
まずは一人目。
「姉さん」
「鏡君、何か用ですか?」
「もうすぐ昼時だ、飯にしよう」
「そうですね、鏡君のおごりで」
最後の一言を聞かなかったことにして指示する。
「とりあえず、パラソルのとこに戻ってて」
「了解です、鏡君のおごりですね」
やたらおごりにこだわる姉さん、なんで?
「姉さんの食費いちいち出してたら破産しちゃうよ、俺」
「それは大変ですね、鏡君のおごりで」
どうやら引く気はないらしい。こちらも同じだが。
「弟にたかるなんて最低だと思うな」
「そうですね、鏡君のおごりで」
「さりげなく自分が最低って認めちゃってますよ、痛い痛い、折れる止めて」
みしみしと右腕が悲鳴を上げる。
「はて? 誰が最低なんでしょうか?」
「姉さん最高! 愛してる、おごらせていただきます」
いつもこうして先に俺が引く、姉さんは卑怯だ。
「よくできました」
俺に拒否権というものはないらしい。
「まったくなんでいつもいつも……」
「それは鏡君が弱いからです」
「姉さんが強いという見解はないの?」
なるほどと頷き、微笑む姉さん。
「ところで腱は?」
「あら、先ほど戻ったはずなのですが、入れ違いになってしまったみたいですね」
これであとは小雪と響だ。
「では姉さんも戻りますね」
「じゃ、またあとで」
「鏡さん!」
未完成交響曲のような体で腰の辺りにしがみついてくる響。うん、うまいこと言った気がする。
「どうかしたの?」
「いやもうすぐ昼飯の時間だからな、呼びに来たんだ」
「そっか」
「ところで小雪……眼鏡のお姉ちゃん見なかったか?」
「確かさっき浮き輪付けて泳いでたような気がする」
「分ったありがとう、パラソルのとこに戻っててくれ」
「了解」
手を額にかざし敬礼すると、子供のように走り去っていく響。
「さて、小雪は……」
海を眺めると多くの人が泳ぐのが確認できる。これから探すのは骨が折れそうだ……。
「あの子、流されてないか?」
「ああ、確かに」
近くでつぶやく青年に釣られ、その視線をなぞる。
「骨は折れなかったが、骨が折れるよまったく」
そういって海の中に入る。人を避けながら深部を目指す、次第に人の密度は下がり足も海底につかなくなる。そして水を掻き分け数分ほどで浮き輪の横につける。
「よう、楽しそうだな」
「う、うぅ鏡……」
急に抱きつかれ身動きが取りづらくなる。
「少し落ち着け、まったく……」
少し距離をとってから浮き輪を押し始める。抵抗が半端なかったが、幼きころから姉さんに鍛えられているだけのことはあった。何度か息継ぎをしようやく足のつくところまで戻ってくる。
「歩きづらいんだが……」
小雪は首をプルプルとふるって決して離そうとしなかった。とりあえず俺は着気にしないようにしてパラソルまで戻ることにした。
断章はいつごろ書きあがるのだろうか?
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