壁、越えられない壁
家を出てそのまま近くのプール施設へと向かった。室内プールは天候に関係なしで年中入ることができ、十二分に広い、入場用はそれほど高くないのだから驚きだ。
「それでは中でな、逃げるなよ」
5回ぐらい念を押され、ようやく着替え場に向かう。中に人はあまりいないように見える、確かに今日はいつもほどの暑さがない、おそらくそのためだろう。
「結構運がいいかもな」
すばやく着替えを終えると着替え場を出て、消毒やら何やらを済まし端のほうで小雪を待つ。女性は男性に比べて着替えが遅いとは聞くが予想以上に遅いかれこれ20分ほど立っただろうか。
「待たせたな」
そしてようやく本人の登場だ、水着は小学校とかで着る、……まあいわゆるスクール水着という奴だ。名札の後と思われる剝がしあとがうっすらと残っている。
「……」
「何だその微妙な顔は」
「いやなんていうかさ……」
水着のことはこの際さい、いいとしよう、それより問題は小学校のころ着ていた水着を着こなしてみせるそのスレンダーな体系、そうそれを例えるのならば……。
「なんつうか小雪って……着太りするタイプ何だな」
壁。
「しかし君はメガネフェチだろ、体系などどうでもいいだろ」
「いや確かに人間を見るときにはたいていそこに比重が行くが、体系がどうでもいいという意味ではない」
その言葉を聞くと同時に手を震わせながら小雪が眼鏡をはずした。
「この中で眼鏡が好きではない奴は出て行け」
どすの聞いた声で小雪がつぶやく。もちろん残る、当たり前だ。
「ふざけているのか! 眼鏡が好きなんだろ、なぜ体系が関係する、それでも貴様は眼鏡好きか! 眼鏡だけではだめなのか、体系がそんなに重要か? 答えは否のはずだ、そうでないなら貴様など大っ嫌いだ!」
「確かに眼鏡は好きだが、それとこれとは話が別だ」
「うっさいお前なんて大っ嫌いだ! 鏡のバァーーカ!」
「言わせてもらうが、俺はメガネフェチであるのと同時に一人の男だ」
「黙れお前なんて偽りのメガネフェチだ、いかにも眼鏡大好きぶりあがって畜生めぇぇぇ! 体系ばかり見あがって、それならメガネフェチなんて止めてしまえ! スターリンのようにッ!」
スターリンって誰だよ……。
「私だってな好き好んでこんな体系なわけじゃない、ただ人より太りずらい体質なだけなんだ。胸だってもっと大きかったほうがいいって何度も思った、おっぱい、ぷるーんぷるん! 私だって出来るものならああなりたいさ、しかしなることができない、そういう星の下に生まれたんだ、何がステータスだ、希少価値だ」
そこまで言い切り急に小雪は勢いがなくなる。
「すまない……いろいろ言ったが君はやはりメガネフェチだよ、よく知ってる。そうでもなきゃ今日までついてきてなんてくれなかった、感謝している。だからこそもっと眼鏡を、眼鏡をかけている私を見てほしい……」
そこまで言って総督に昇進した小雪は言葉を止めた。
「そうだな……俺も悪かった、お前(の眼鏡)だけを見るよ」
「鏡……」
そこまで言ってふと思ったが、眼鏡を水につけてもいいのだろうか?
「そのまま水の中に入っても大丈夫なのか? 眼鏡だめになるんじゃ」
「問題ない、私の眼鏡は耐水、耐熱、耐屈なのでな」
どうやら一番いい装備らしく問題はないようだ。
「それじゃ準備運動して入るか」
手足を伸ばし、一通り準備運動を終える。それから俺はプールの中へと入った、中は少し深めの設計になっている。プールサイドをつかみ小雪を見上げる。
「入らないのか?」
「あ、ああ入るさ……」
つま先を水につけては離す行動を何回かした後にようやく右足を入れた。そこから動きがなくなり、じれってく思い俺は強行手段に出た。
「ちょっと! まてッ!」
小雪の手をつかみ一気に水の中に引きずり込んだ。
「ぎゃぁぁあッ! おぼれる溺れ死ぬ!」
俺の体をつかみ沈まないように必死になる小雪、体のあちこちを引っかかれる。
「落ち着け、まずはプールサイドをつかめ」
息を荒げながらも何とかプールサイドをつかむ小雪。
「殺す気か!?」
「いやさ、じれったいもので」
小雪と少し距離をとる、また引っかかれたらたまらん。
「それを見る限りでは、まったく泳げないといったところか」
「……ああ」
さて泳げない人間にはどう教えたものか。
「まずは水に顔つけてみろ」
「バカにしているのか、そのくらい余裕だ」
「目も開けろよ」
こいつは何を言っているんだ、と言わんばかりに驚きを顔全体で表す小雪。
「貴様は何を言ってるんだ、私は魚じゃないんだぞ、そんなことできるか」
ほらね。
「いいから、まずはやってみろ。そうだな……俺の指がどうなってるか言えたら合格だ」
顔を引きつらせながらしぶしぶみずにかおをつける小雪、そして数秒後顔を水から引き離す。
「人差し指と小指を立てていただ」
「ほら、やればできるだろ」
「当たり前だ、お前の考えていることなど簡単に読み取れる」
自慢げに壁……胸を張る小雪。
「ちょっとまて、俺の考えなんて読んでどうする。今大事なのは水の中で目を開けることだ」
「もっと大事なことがある、今何を考えた?」
「何のことだろうか、俺にはさっぱりだ」
ごまかしきれる気がしないのはいつものことだ。
「鏡、小さいのは好きか? 好きだよな?」
半ば脅迫じみた言葉と、黒々としたオーラを感じさせる視線の前に、俺はただ明後日の方向を見るしかなかった
「ウン、ボク、チイサイノダイスキ、サイコー」
「そうかそうかこの変態め、そんなに小さいのが好きか」
何ですか、この意味の分からん茶番は。
「サテ、ツヅキヲハジメマショウカ」
「ふっ、貴様の考えることなんて何度でも当ててやる」
自慢げに……考えるのを止めよう、そうしよう。
「いや、それじゃ意味ないから」
「それではお前は、私に水中で目を開けろというのか」
「今度は俺も潜ってやるから、がんばろうぜ」
少し考える動作をした後、苦渋の決断を下したように小雪は答えた。
「仕方ない……やればいいんだろ」
「いくぞ」
コクリと頷く小雪を確認して水中へ潜る。気泡が混じる中、小雪はゆっくりと閉じていた目を開いた。そしてこちらに視線を動かし口元を緩めた。
「どうだ、今度こそできたぞ」
「ああ上出来だ、じゃあ次は泳ぐ練習だ」
「ま、まだ早いんじゃ……」
「そんなこと言ってたら、いつまでも泳げないぞ」
「ううっ、……ちゃんと手を持ってろよ、絶対離すなよ」
親に自電車を押してもらっている小学生のようなことを言う小雪はそっと手を伸ばしてきた。
「おう、まかせろ」
そういって手を取る、小雪の手は思っていたものよりもずっと小さく、ほんのちょっと冷たかった。
「水に顔をつけて、足をばたつかせろ、あとは気合だ」
「最後のがよく分からないが、分かった」
顔を水につけ足をばたつかせゆっくり進む小雪。
「その調子だ」
さて離すなと言われた親の取る行動といえば、もちろん……。
「おっと手が滑った」
離すと同時に小雪の体がどんどん沈んでいく、足をばたつかせているので前には進むのだが……。
「ちょっとまずいな……」
あとを追って俺も潜る、手を取り何とか浮上させる。
「ぷはっ、殺す気か」
「いや悪い悪い」
俺の予想が正しければおそらく……。
「あ、また手が」
そして沈む小雪。
「泳げないんじゃなくて、浮かないんじゃ」
確かに脂肪の浮き輪ないですもんね。そんなことを思いながら小雪を引き上げる。
「何度も何度も、嫌がらせか。それと今考えたこと私に喧嘩売ってるのか」
「また手が滑るかもな~」
「ひっ、止めて離さないで」
形勢逆転、これはいい。
「そっか、浮かないのか……仕方ないよなそれじゃ」
「貴様、先ほどは反省したと……やめて離さないで、お願いだから」
こういうのもたまにはいいかもしれない、少しSの気持ちが分かってきた。
「へーそれが人に頼みごとする態度?」
「ううっ、……お願いですから離さないでください」
涙目で訴えてくる小雪。いつもこんなだったらもう少し可愛げがあるんだが、まあ仕方ないだろう。
「悪かったよ、冗談だ」
そういって小雪をプールサイドまで連れて行く。
「さて、ついたぞ上がれるか?」
「ううっ、もういや……おうちに帰る」
まだ可愛いモードを維持している、ちと効果が強すぎたようだ。
「だから悪かったって、もうしないから」
そのときプールの一角が目に留まった。
「ちょっと待ってろ」
そんな言葉も今の小雪には捉えられるものではなかっただろう。
「これがあれば泳げるはずだ」
貸し出し用のビート板を小雪に渡す、板だけに。
「本当だろうな? 嘘じゃないだろうな?」
「ああ、たぶんな」
ビート板を手に取ると奇妙な微笑を浮かべ小雪はプールサイドを蹴った。
「泳げる、私も泳げるぞ!」
足で水をけり前進していく小雪、楽しそうで何よりだ。
「はて、エネルギー切れ起こすまで待つか」
「……疲れた」
いつかのごとく予想より早く予想は当たった。
「まあ、なんだ飯にするか」
「そうしよう、しかしなるほどビート板か、なるほどなるほど」
「別にビート板じゃなくてもいいと思うがな、浮き輪とか」
そろとも板同士通ずるところがあるのだろうか?
「……ああ浮き輪にするよ、あいにく板と心を通わせる能力は持ってないのでな」
その言葉がいつもの小雪が戻ってきたと告げているとも思えた。
つるーぺたーぴったんこ♪
はっ! 失礼
さてしばらく二人に戯れてもらうとして
その後は海ですよ海!
いやーずっと男たちばかりでむさかったので正直楽しみです
よろしかったらご感想ください^^




