鑢鏡は静かに暮らしたいその③
「ただいま」
結局あれからドMの相手で放課後を使い切ってしまった。
「おかえり」
久美がエプロン姿で現れる。
「何でいるんだよ」
「今日遅くなるからご飯作ってあげてっておばさんから頼まれて」
そういえばこの前遅くなるなら飯でも用意しておけよって講義したな、それでこれか。
「そうか、分かった」
両親は共働きでいつも母が早く帰ってきて料理を作っていた、それでも遅く帰るときがしばしばある。
「ご飯にする? お風呂にする? それともわざわざここまでやってくれた私のためにひざまずいて感謝の気持を述べる? というより述べろ」
「はいはい、ありがとうございます」
ひざまずきはしない。
「まったくこんな美少女の作ったものを口にできるなんて感謝しなさいよ、幼馴染ってだけで、ここまでしてもらえるんだから」
久美はクッキング部にいるため、たまにクッキーやらケーキやらをおそそわけしてくれる。それなりに顔立ちもいいためか男子の中でも人気が在る、そのため俺は見ず知らずのやつに因縁をつけられることがしばしば、まあ世間一般的に言えば理想の幼馴染とでも言うべきだろうか、眼鏡をかけていないのでどうでもいいが。
「それよりあんた、また眼鏡の数が増えたんじゃない? 少しは自重しなさいよ」
それと彼女は俺の秘密を知っている数少ない人間の一人だ。
「いいだろ、別にヒトの趣味にとやかく言うな」
「あっそ、とにかく冷めないうちにさっさと食べなさい、私への感謝で涙流しながら」
ご飯とシチューそれと簡単なサラダ、お好みでかけられるようにドレッシングと塩コショウが左に添えられている、それが二セット。
「なんだよ、先に食べてても良かったのに」
「ご飯なんて一人で食べても寂しいだけじゃない」
「そうか、じゃ頂きます」
シチューを口に入れてみる、野菜も食べやすくカットされていて、味も良く引き立っている。いつもの横暴な口調からは考えられないほど繊細な味だ。
「うん、うまい」
「そう、よかった……」
少し顔が赤い、おそらく料理を褒められて嬉しいのだろう。
「そういえば今日は帰りが遅かったのね、なんかあったの?」
「なんていうか……生徒会に……」
「生徒会? なんか悪いことでもしたの?」
「いや……、そうじゃなくて俺が生徒会に入ったんだよ」
「あんたが生徒会に!?」
ただでさえ大きな目をこれでもかというほど見開き、驚きの表情を示す久美。
「ああ、いろいろあってな」
「生徒会ねぇ、ってことは部活審査にあんたも出るってこと?」
霜月学園では年に一回不定期で部活審査が行われる。その部活が方針と合ったことをしているか、その結果次第では部費の削減や停部、へたをすれば廃部もありえる。
「あんたもってことはお前も出るのか?」
「そりゃ、風紀委員だもの」
部活審査は各クラスで決められた風紀委員と生徒会で行われる、勿論直前までそのことは伝えられず、部活に入っているものが自分の部活へ趣くことは無い。
「まあなんだ、それも当分先だろ?」
「明日よ、聞いてないの?」
「え?」
なにも聞いているはずが無い、聞いたとすれば変態な生徒会メンバーの紹介だけだ。
「私はメールで知らされたわ、明日あるって」
「なんだよ、加入早々一仕事かよ」
そのことで急いでメンバーを集めたのか、それで俺みたいな一般ピーポゥを。
「ま、明日は宜しくね、生徒会役員さん」
鑢鏡は静に暮らしたい、いや暮らしたかった。もうその願は過去のものになってしまったようだ。その願は一人の女性によって打ち砕かれた、せめて俺に1時間ほど時間を吹っ飛ばす能力が備わっていたのなら未来が変っていたかもしれない。
「おちそうさま、晩飯サンキューな」
だが……こんな時……忘れていけないのは…こんなヒドイ時にこそ……最悪のときにこそ! 『チャンス』というものは訪れるというとある漫画からの教訓だ……、「追い詰められた時」こそ……冷静に物事を対処し『チャンス』をものにするのだ
この鑢鏡いつだってそうやって来たのだ……今まで乗り越えられなかった物事など……。
「一度だって無いのだ!」
久美は白い目をこちらに向け、
「急にどうしたの?」
と言った、ほんとに俺どうかしてるよ。
感想よろしくお願いします。