鑢鏡の挑戦その⑥
「よお、調子は……」
「最悪だ」
博の問いかけにはすぐに答えが出た。昨日の一軒のあと何もかも調子が狂ってしまった。特に久美なんか珍しく料理を大失敗し、とても甘い鮎の砂糖焼きなんていうとんでもないものをこしらえあがった。姉さんはそれを俺のせいだと言いがかりをつけ、3匹も食う羽目になった。吐き気と戦いながら、眠れない夜を迎えたのは言うまでもないだろう。
「それは災難だったな」
「うらやまけしからん奴だ、久美さんに飯を作ってもらえるなんて」
「幽霊!?」
目の前には山本がいた、ちゃんと足はあるようだ。
「死んでなかったのか?」
「勝手に殺すな」
顔には左右の頬に大きなシップを貼り付けている。見ているこっちが痛々しい気持ちになってくる。
「まあ冗談はさておき、博今日はどうする?」
「日程は午前に卓球とバレー午後にソフトボールだ、それは知ってるだろ?」
「確認ぐらいならしてある」
考えるのをやめはしたものの、一応今日のこと頭のどこかに置いておいた。
「それでどうするんだ?」
「まずは卓球から取っていく」
いきなり進言した言葉は、正直言って無謀とまで思えた。
「少し待ってくれ、俺が細かいことが苦手だってことくらい知ってるだろ? 卓球のボールなんて打とうものなら明後日の方向に飛んでいくぜ」
「知ってる、だからこそだ」
「じゃあどうするんだ」
ここまでいうからには何か考えがあるのだろう。
「取って置きの方法がある、そう……特訓だ」
「……は?」
博が何をしたいのかはっきり言って分からなかった。特訓といっても開始までそんなに時間があるわけではない。
「時間は30分もある十分だ」
「は、はぁ」
30分でどうこうなるようなものでもないと俺は思った、しかし博には何かしら考えがあるんだろう。
「分かった、やろう」
「んで山本」
「ああなんだ」
「バレーボールの第一試合の時間が卓球と若干かぶってる。その間任せてもいいか?」
「何をいまさら任せとけ、とはいっても俺正直言ってあんまり得意じゃないぞ」
何度も山本がた戦いを勝利に導いてくれている。今回も(顔面で)何とかしてくれるんじゃないのだろうか?
「いますごく嫌な考えが、頭をよぎったんだが」
「気のせいだ」
ひとまず俺と博は卓球場に向かったそこではすでに何人か先客がいて打ち始めていた。
「よかった、一箇所だけあいてるぞ」
貸し出し用のラケットとボールを受け取りその場所で練習を始めることにした。
「まずは打ってみろ」
ラケットでボールを軽く打つ博、それが俺の手に届く距離まで飛んでくる。
「オラッ!」
ラケットで弾かれたボールは博の頭の横を通過し、後で打ち合っている向かい側の奴のおでこにあたり高く舞い上がる。
「……なるほど予想以上だ」
あきれたような顔で博がこっちを見てくる。俺は後ろの人に詫びを入れながらボールを回収した。
「何とかなるのか」
「分からない、まあ何とかするつもりだ」
そう言うと博はこちら側に移りラケットをこちらにかざす。
「まずは持ち方からだ、ラケットの面が上に向いているそれじゃ相手のコートにも入らない」
言われたと通りにラケットを持ち替える。
「後力を入れすぎだ、そんなんでコントロールできるはずないだろ」
「十分抜いたつもりなんだが……」
その言葉に博の口元が緩む。
「だったらコントロールできそうか?」
「今はなんとも」
「そうか」
博は向こうのコートに戻り再びボールを打ってきた。今度は打ち方を意識して打ち返す。するとボールはきれいに相手のコートに触れそのまま飛んでいく。
「……できた」
「スピードも十分、後はもう少しコントロールを良くするだけだ」
転がっているボールを拾い上げると博はもう打ち出してくる。これなら30分でどうにかなりそうだ。
「くそ……どうすれば」
山本は後ろを振り返る。頼れる仲間はみんな目が死んでいた。それも仕方ない相手が圧倒的に強すぎる。
「鏡、博……早く来てくれ」
またあのボールが飛んでくる。そしてそれを誰一人それをとめられずに、ボールはコートに触れ飛んでいく。
「くそ俺が何とかしなくてきゃいけないのに」
やはり自分にできることは限られているようだ……その結論にため息がこぼれる。
「あぁ、分かってるさ」
コートの中央に構える。あいつらが来るまで俺が何とかしなくてはいけない。
「さぁ、来いッ!」
そしてまたボールは放たれた。
卓球とか分からない、バレーも正直理解できない
そんな私は一体どうなるのか?
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