鑢鏡の挑戦その④
昨日投稿できなかったので(先週もできなかったのですが……)投稿します。
「いくぜ」
開始直後、腱は予想通り一人でボールを運んでくる。
「こい」
こちらも正面から待ち受ける、正直直接止める自信はない。
「ほらよッ!」
目の前で緩やかに舞い上げられたボールは俺の頭上を越えていく。そのボールに気を取られた刹那、腱は俺を抜き去り、気づいたころには抜かれていた。
「まだだッ、俺はこんなところで」
体勢を低くし、重心を安定させ再び走り腱を追う。腱がボールを持っている分、いくらかこちらのほうが早い。
「もう一度」
今度は他方に対応できるように大きく構える、ゴールまでの距離はそう遠くないここで抜かれたら正直厳しい。
「股ががら空きだぜ」
「しまッ!?」
大きく構えた分足元ががら空きだった、腱はそこにボールを通し再びゴールへと向かう。
「くそッ、俺じゃ止められないのか」
「鏡ッ!」
博に呼ばれ我に返った。仲間が何人もで腱を囲んでいる、誰もあきらめたわけじゃない。
「何度だってやってやる、俺は最後まであきらめないッ!」
疲れきっている足に鞭打ち、再び走り始めた。次々と仲間を抜いていく腱、しかし抜くたびに少しずつ大回りになり、それが俺がたどり着くまでの時間稼ぎになった。
「しつこいな」
「悪いな、負けるわけにはいかないんだ」
再び大きく構える、どこから来るかはまったくといっていいほど読めない。少しでも止められる確率の高い方法を取った。
「同じのが通じないのは知ってるよ、だけどな」
つま先に蹴られ中に浮くボール、それを足で華麗に動かし右へと蹴ろうとする。
「今度こそ」
「今度も無理だったようだな」
俺が左へと重心を移した瞬間、それを右足のつま先で引っ掛け左へと戻し、腱はそのまま抜きさる。
「俺のかちだ」
「ああ、負けたよ……勝負にはな」
後ろを振り返るまでもなく俺は走り出した。目指すのは相手のゴール。
「鏡、受け取れッ」
俺を抜くために左へと転がしたボールを博が蹴り上げる。博は再び俺が腱の前へ出ることを、俺は博が腱の流したボールを取ることを信じた。言葉には変えがたい信頼がなくてはできないことだ。
「しまったッ!?」
「でも試合には勝たせてもらう」
ボールを受け取り相手のゴールへと走り出す、腱はすでに体勢を直し走り始めている。次第に足音が近づいてくることに焦りを感じながら、その歩みを止めることはなかった。
「くッ、まだ遠い」
サッカーグラウンドの半分を過ぎたが、まだ距離があるもっと近づかなくてはゴールを決められない。腱はすでに真後ろにいた。
「あと少しなんだ、あと少し」
腱が俺の横につけた向こうも全力ということだ。
「この距離なら、いっけえぇぇぇッ!」
ボールを蹴る動作の一瞬のための時間で腱が俺を抜いた、そして蹴り上げたボールへと足を伸ばす。ボールと足がぶつかり、ボールは勢いが上に逃げ高く舞い上がった。
「まだだッ、届けえぇぇぇぇぇッ!!」
俺自身も脚に力を込め跳んだ、勢いを失いゆっくりと落ちるボールをヘディングで相手のボールに叩きつける。それはゴール直前で地面に接触し、バウンドしてゴールへと入った。
「やった……」
「「よっしゃぁぁぁッ!!」」
仲間の歓声が上がる。自陣地に戻った俺を仲間が囲む。
「やったな鏡」
「ああ」
軽く拳をぶつけ合う、後はPKで決めるだけだ。
「勝った気になるのはまだ早いぜ、鏡ッ!」
そんな時ボールはまだ動いていた、腱は走り再び俺たちの陣地の深部へと向かっている。
「まさか」
残り時間は10秒を切っていた、しかしまだ終わったわけではなかった。
「間に合えッ」
足に力を込めようとしたそのとき、力が抜けた。疲労でうまく動かず、腱を追うことができない。
「くそッ、あと少しだって言うのに、動けよ、動いてくれよ」
願いは虚しく、足は思うように動こうとはしなかった。
「シュゥゥゥゥッ!」
ボールは勢いよくゴールへと向かう、誰もが負けを確信した瞬間それは弾かれ地面へと転がった。
「いったい……何が……?」
「試合終了、同点のためPK戦を行う」
次第に何が起こったか分かった、ボールを弾いたのは一人の知人だった。
「山……谷」
「山……本……だ」
ボールは山本の顔面へとぶつかったのだ。赤くはれ上がり痛々しくみえる。
「お前……」
「お前たちが……がんばってると思ったらさ、……おちおち寝てもられなかった」
「後は任せろ、絶対勝ってみせる」
「あぁ……後は頼んだ……ぜ」
山本はその目をそっと閉じた、そして鼻から一筋の雫が流れ落ちた。
「山本おぉぉぉッ!!」
「鏡……、絶対勝とう、山本の死を無駄にしないためにも」
「博……、そうだな、悲しんでる場合じゃないここで勝つんだ、絶対に」
その後俺たちは3回、相手は腱の一回をPKで決め、俺たちは勝負に勝った。しかしそこには大きすぎる犠牲があったことは言うまでもないだけだろう。
「う、美しすぎます」
また同じ時にもう一滴の雫が流れたことをまだ鏡は知らなかった。
山本は犠牲となったのだ……
作者の自己満足の犠牲とな
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