鑢鏡の挑戦その②
昼食をはさみ午後の部へと球技大会は進んでいく。博の読み通りうちのクラスはサッカーを順当に勝ち進み準決勝まで駒を進めた。おそらくこのまま手を出さなくても優勝できるだろう。
博の言っていたバトミントンの秘策というのは自分自身のことだった、ダブルスにもかかわらずらくらくと一人で敵を惑わし点を取っていく、博はその圧倒的強さで決勝まで駒を進める。誰にでも得意分野があるものだ。
そして俺がどうにかしなくてはいけないのは、午後の競技であるドッチボールだ。これを取れば一日目は安泰といっても過言ではない。
「さて、やるか」
博はバトミントンの決勝に赴いているため、この競技に参加しているのは山本と俺それとほかのクラスメンバーが数人となっている。
よく知られているドッヂボールのルールと多少違うくらいなもので、基本外野は中の人間に当てても中に戻ることはできない、顔面へのヒットはセーフ、最後の一人が当てられたら初期外野の3人が中に入る。外野が3人内野は5人。と言った具合だ。
「鏡はどうする?」
山……田が話しかける。
「外野にするつもりだが」
「山田じゃない山本だ、じゃあ俺も外野」
こいつ心の中を読んだだとっ!? 新手のスタンド使いか!
という冗談めいた話はさておき、正直山本がどこにいようと今回は関係ない。こればかしは俺自身がどうにかしなくてはいけない。
「よし、余裕で決めてくぜ」
ゲームが開始し、始めに相手のチームにボールがわたる。何度かボールが行き来し2人が当てられ、ようやく俺の元へボールが来る。こういう時外野はただの傍観者だ、もどかしい気持ちでいっぱいになる。
「おっしゃぁっ、行くぜっ!」
俺の全力投球は相手に避ける暇を与えないほどのスピードで足へとぶつかる、その音が体育館中に広がりまわりのメンバーがこちらを見ている。ボールは勢いのままこちらに戻ってくる。ぶつかったやつの脚は赤いと言うよりは青く変色しているようにも見えるが、正直そんなことはどうでもいい。
「まずは1人だ」
相手チームのメンバーの顔は引きつり、もはや戦闘不能と言った具合だ。
「取って置きのダメ押しってやつだっ」
ボールは一人の肩をはじきその勢いのまま山本の下へと転がる。
「お願いだ、あいつにボールを渡さないでくれ」
「そう言われてもな……」
敵チームがなにやら山本に交渉を持ちかけているらしい。
「山本こっちにパスしろ」
「や、やめてくれえぇぇっ、頼む。……そうだあんたが俺たちに当てればいいじゃないか、避けないから」
「仕方ないな……」
山本のよろよろとした玉が相手に当たり敵陣地内に取り残される。
「何やってんだよ」
「次は俺だ、頼む」
そのボールを持って山元へと渡す敵チームのメンバー、一体何が起こっているんだ。
「ほらよ」
あくびの出そうなほどとろい玉は敵をまた一人仕留めた。あいつら避けるの下手だな。
「ありがてぇ、俺にも頼む」
その後も山本は次々と敵を沈め、一回戦目は軽く勝利を勝ち取った。
「俺にはさっぱりわからねぇ」
その後も何度か同じような展開が続き、俺たちは決勝まで駒を進めた。
「相手チーム、かなり強いって話だぜ」
「知らんね、叩き潰すまでだ」
相手は強そうな連中ばかりだ、アメフト部のクウォーターバックに、野球部のピッチャー、陸上部で砲丸投げをやってるやつまでいる。
「面白いじゃん、やってやるぜ」
試合が始まりボールが戦場の流れ弾よろしく行きかい内野連中は1分持たずに全員こっちの仲間入りをした。外野の3人は内野へと入る。
「いちょやりますか」
飛んできたボールをキャッチして見せると、相手は驚いたような表情を浮かべる。こんなの姉さんの動きに比べたらどうと言うことはない。
「ほーらよっ!」
ボールは低空飛行で相手の足を掠める。一気に二人を静めた。
「へいパス」
飛んできた玉をジャンプして取り次の狙いを定める。
「おりゃぁっ!」
今度は敵の腹に直撃し、相手がしゃがみこみ悶絶する。ボールはゆっくりとこちらに戻ってきてそれを山本が取った。
「山本こっちに投げろ」
「止めてくれよ、他のやつらみたいにお前が当ててくれ」
「……分かったよ、鏡俺が決めるそれでいいか?」
「別にかまわない」
なるほど今までの連中もこんなわけで山本に当てられていたのか。
「よし、ほらよ」
のろのろと投げられた球は相手の体に向かっていく、しかしそれは相手の手が止めてしまう。
「なんてな、騙されあがってバーカ」
「何ッ!?」
ボールはこちらに向かって投げられる。身構えていなかったため避けるのが精一杯だ。その行動で体制を崩してしまう。
「しまったっ!」
相手の外野へと渡ったボールは俺へと当てられる。そのままそのボールを相手が拾い形勢が逆転する。
「汚ねぇぞ!」
「騙されるほうが悪いんだよ」
ボールをすれすれで避けている山本そう長くは持ちそうにない。もう一人はすでに当てられている。
「くそっ」
「終わりだ」
「鏡……」
ボールは山本へと向かって飛んでいく勢いも強く、避けられそうにもない。負けを確信し地面へひざまずいてしまう。すまない俺の眼鏡たち……。
「後は頼んだぜ」
ボールは大きく音を立てはじき跳ぶ、山本の体はのけぞり地面へと倒れた。そしてボールはころころとこちらに向かってくる。
「負け……た」
「……まだ……だ」
倒れた山本がつぶやく。
「まだおわちゃいねぇぜ」
山本はよろよろと立ち上がる。そして赤いしずくがその鼻から零れ落ちる。
「顔面だとっ!」
山本は手で止めようともせず顔面でボールにぶつかった。そう顔面は……ノーカン!
「へへっ……やってやったぜ……」
「そんなこと思いついてもできることじゃねぇ、あいつの覚悟は……本物だ」
山本が繋いだこのボール俺がちゃんと受け取ったぜ。
「さて派手にやってやる!」
ボールが相手の腕へと直撃する、正直言って今までは若干力を抑えていた。しかしそんなものこいつらには必要ねぇ。
「痛てぇ痛ぇよぉぉっ」
「いいか……それは山本のぶんだ、手が青紫色に変色しているようだが、それは山本がやったと思え……」
俺はボールを拾うと力をこめる。
「そしてこれも山本のぶんだッ!」
相手の右の太ももにぶつかりそれもまたこちらに帰ってくる。
「わ、悪かった、謝るだから……」
「そう言ってまた騙すつもりか? それはもうできない」
「頼むよ」
「そしてつぎも山本のぶんだ、その次の次のも、その次の次の次のも、その次の次の次のも、次の! 次も! 山本のぶんだあああ――――ッ、これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!」
ボールは相手の顔面へとぶつかり帰ってくる。
「すまないな、ノーカウントだ」
ノックアウトされ、すでに聞こえてないようだ。敵はもうすでに戦意をそがれている。完全に勝った。
「山本……」
「へへっ、俺も役に立っただろ?」
「ああ、ありがとう」
ボロボロの山本、俺は肩を貸し保健室へと運んだ。これで二つ目、後はクラスの連中と博を信じるしかない。
「鏡っ!」
「博、どうだった?」
「俺のほうは大丈夫だったが、サッカーのほうが」
「どうかしたのか?」
「もうすでに2点入れられている、負けてるんだ」
「何っ!」
どうやら楽に一日目を終わらせてはくれないらしい。
「行くか」
「そうだな」
次はサッカーですねしっかり勉強しないと……
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