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彼女の眼鏡に恋をした  作者: 奈良都翼
鑢鏡の異変
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鑢鏡の異変その③

「さて、冷えておいしくなってるわ、どうぞ」


「うまそう、いただたっ」


「鏡くん隙だらけですよ」


 再び関節をとられた。


「ああ、腕が折れたら不便でしょうね」


「そ、そうですね」


 姉さんにちょうど死角になる位置で手を伸ばす、一切れだけでも確保しなくては俺の身が持たたたっ。


「あら、手癖が悪いですよ」


 ぐいぐいと腕がきしめく、姉さんが力を入れているのだ。


「あと6センチほど動かしたら、ああ想像もしたくありません」


「姉さん、一切れ、一切れだけでったい腕が、腕が折れる」


「あと2センチ、姉さんは悲しいです、姉さんの言うことが分からないのですか?」


「分かります、片手腕立て伏せですよねやりますよ今すぐ500回」


「あら、誰が500って言ったの?」


「え……?」


「そうですね、ほんの1000回……口答えした罰です」


「俺口答えなんて」


「1500……」


「今すぐやります」


 一回、二回、三回……。


「おいしい、久美ちゃん天才ね」


「ありがとうございます」


 三十二回、三十三回、三十四回……。


「おかわりもあるんで、どんどん食べてください」


「ホント!? 食べるわ」


 百四十六回、百四十七回、百四十八回……。


「ん~食べた食べた」


「相変わらずの見事な食べっぷりですね」


 二百九十七回、二百九十八回、二百九十九回……。


「少し出かけましょう」


「ショッピングですか? いいですね」


 四百二十五回、四百二十六回、四百二十七回……。


「行ってきます」


「ちゃんと1500回やるのよ」


 五百七十四回、五百七十五回、五百七十六回……。




「ただいま」


「帰ったわよ」


 千……四百……九十……八回、千……四百……九十……九回、千……五百……回。


「はあっ、終わった、俺の……ブラウニーは……?」


 体を引きずるように皿へと近づく、そこには……あった。


「いた……だきます」


 何でだろう涙が出てくるほどうまい、やっぱり久美は天才だ。


「なに泣いてんのよ」


「久美……俺なんかの幼馴染でありがとう、大好きだ」


「なななななっ、なに言ってんのよ」


「ふふっ、青春ね~」


 にやりと笑ってこちらを見る姉さん、小雪がかわいく思えるほど寒気を覚える。


「くさいわ、シャワー浴びてきなさい」


「ちょうど俺も入りたいと思っていたところなんだ」


 汗がうっとうしい、早く開放されたい。




「姉さんにも困ったものだぜ」


 レバーをひねりお湯を止める。


「ふう、どうなんだろ教育実習って」


 ドアを開けると姉さんと目が合った。


「…………」


「あら、あらあらあら」


 恥じらいなんてものすらなくじろじろと体の隅から隅まで見る姉さん……って。


「なななななっ、何してんだよ姉さん」


「今の鏡君隙だらけですよ」


「俺が聞きたいのはそんなことじゃない!」


「ああ感想? 62点まだまだね大胸筋はいい感じだけど、三角筋から……」


「それでもない、何でここにいるんだ」


「鏡君の筋肉をウォッチングするのと、お仕置きです」


 寒気がする。


「姉さんは悲しいです、鏡君がメガネフェチ(へんたい)になっていただなんて」


「ってことは俺の部屋に入ったてことか」


「ええ」


 さすがは姉さん、俺にできないことを平然とやってのけるそこにあきれる、呆然とする。


「姉さんには趣味をとやかく言われたくないね、だって姉さんも筋肉フェチ(へんたい)だろ」


 姉さんは昔からジョジョや北斗の拳など、普通の女の子ならいやがるものを好み、そしてその矛先は俺へと向かったのだ。


「それを言われると……、でも隙があったことには変わりありません」


 すると姉さんはどこからか眼鏡を取り出した黒縁の名前はノワール、それが姉さんの手でみしみしといってバキッなんて音がなろう暁には……。


「なっ! 何をするんだァ――――ッゆるさんッ!」


 俺は怒りで我を忘れ、姉さんに飛びかかった、裸で。


「無駄です、私には勝てませんよ鏡君」


 俺の拳は軽々と姉さんに避けられその勢いも加わったカウンターを顔面に食らった。


「か……かなわない…………」


 で……でも負けられない・・・もしこのケンカで負けたらこれから一生姉さんの影でオドオドと生活しなくてはならない! な・・・・・・何よりもノワールの名誉を取りもどすため戦わなくてはならない!


「うおおあああっ」


 俺だってこの2年間漠然と生きてきたわけじゃない、いくつもの修羅場をくぐってきた。俺はもう姉さんの知っている俺ではない。


「何度やったところで」


 右ストレートを気づかれない程度に左に避けやすく放つ、そしてその死角から左側に……。


「確かにいい戦い方ですが、私には勝てません」


 何かの衝撃が走った。頭がくらくらして、めまいがする。


「何があったか分からないといったようですね、教えてあげます。あなたは右ストレートで私の左側の視界を奪ったつもりでしょうが、それは同時にあなたの死角にもなる」


「いったい……何……が」


「あなたの右腕、私の左腕、そしてあなたの視界その三点が重なるように動き、あなたのあごをかすりました。痛みも少ないから何があったか分からないでしょうけど」


「…………」


「聞こえてませんか」




「はっ」


 いつの間にか俺は自分のベットに寝かされていた、そしてその脇には姉さんが座っていた。


「あら、お目覚めね」


「姉さん・・・…」


 ようやく気づいた、……俺はまたこの人に負けたのだ。


「あなたの力を試すために、少し怒らせてみました」


 そう言うと姉さんは片目を閉じて舌を出した。


「でも二年間何もしなかったわけじゃなかったんですね、偉いぞ」


 俺の頭をなでる姉さんの手は暖かくて、優しくて、ワシャワシャと俺の髪を絡ませた、姉さん本当はやさしいのだ。


「やっぱ姉さんはつえーよ、敵わねえ」


「ふふ、でも不合格です。自ら一回も私に触れられなかったでしょ? なのでペナルティを課します」


「ペナルティ?」


「教育自習中あなたが隙を見せてるところを見かけたたび、そのたびに眼鏡を一組づつ壊します」


 やっぱり鬼だ。


「……まじ」


「ああ、それと教育自習中球技大会があったはずですね」


「まあ」


「球技大会中男子の競技すべてで優勝しなさい」


「……むり」


 あいにく俺の体はひとつしかない。


「ちなみにひとつの競技で優勝を逃すたびに10組づつ眼鏡を壊していきます」


「やります、やって見せます、必ず」


 こうして俺の無謀な挑戦が始まった。

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