鑢鏡の異変その②
「なんか最近エスカレートしてるよな」
「なにが?」
久美が作っていたのは晩ごはんだけだったはずが、今このとき作っているのは昼飯だった。
「だって晩飯だけだったじゃん、作ってたの」
「仕方ないでしょ、おば様たち旅行しに行ってるんだから」
両親は結婚25年の祝いがどうのこうのといって海外に一ヶ月旅行に行ってしまった。
「いいじゃない、私はあんたのためにこうしてるの結構好きなんだもの」
それとあの一軒久美は以来妙に優しくなった。
「まあ個人的にはありがたいんだが、迷惑じゃないか?」
「ぜんぜん、いいから食べましょ?」
「ああ、そうだな」
昼飯はそばだった、中央に山のように盛り上げられたそばそして露を入れるおわんが3つ。
「……3つ?」
「あれ聞いてないの?」
「何のことだよ?」
「帰ってくるのよ」
ピンポーン
「誰が?」
「出ててみればわかるんじゃないの?」
とりあえず玄関へと向かってみる。ドアを開けるまでにアラームは3回すでになっていた、相手は相当せっかち、それしか現時点じゃ分からない。
「はいはいどちらさま?」
「あら」
どこかで見たことがあるような、無いような女性。背は175以上はあるだろうか? かなりの長身だ。顔立ちは整っていて、大人のような薄い化粧を施している。
「鏡くん、お久しぶりです」
「……?」
「しかし……」
それは一瞬の出来事だった、先ほどまで目の前にいた女性は今、俺に関節技をかけている。
「この技のきれ……」
「隙が多くなりましたね、残念です。私はあなたをそんな風に育てた覚えは無いわ」
「姉さん」
間違えない。この技、身のこなし、今まで唯一俺が勝てなかった人、鑢千鶴俺の姉だ。
「姉さん、どうして……」
「鏡くん、今あなたの手は折れるに価する状況にあります、分かりますか?」
「…………」
「正直言って私はこの手をこのまま折っても一向に構わないのです。骨が折れたら、それは痛いでしょうね。つらいでしょうね。大変でしょうね。」
「はい……分かります」
姉さんの言いたいことは分かる、なんせ俺はこの人の弟だ。
「片手腕立て伏せ、500回。できないのならそんな腕はいりません、折ちゃいましょう」
「できます、やります、やらせていただきます」
一回、二回、三回…………。
「驚きましたよ、千鶴さんすごくきれいになって」
「久美ちゃんもすごいかわいくなって、でもまだ好きなんでしょ? あの子のこと」
「何の話だ」
なんとか終わった。
「あら終わったの、体力は衰えてないみたいね」
「ガールズトーク中、男子禁制あっちいけ」
「はいはい、俺はおとなしくメシ食って……」
無い、昼飯がない。
「あらごめんなさい、おいしいから全部食べちゃったわ」
「食欲は変わってないんだな、姉さん」
鑢千鶴、その名を聞いただけでここら辺の不良は震え上がる。無敗という伝説とともに突如消えた最強の風紀委員、その真相は……卒業しただけとまあしょぼい。その戦いぶりはヒール女子プロレスラーを想像させ、見た目もそれにそぐうものだった。それが……。
「少しはやせたのよ、どう?」
「少しどころじゃない、最初わかんなかったよ姉さんだって」
そう姉さんは昔太っていた。俺の知る間2年前までは、大学2年から向こうに家を借りてすんでいたはずだ、つまり痩せたとすればその間だ。
「しかしメシないのか久美」
「見てのとおり、まあおやつの時間まで我慢なさい」
「おやつがあるの!?」
俺より先に姉さんが反応した。
「ええ、ブラウニーが自信作ですよ」
「それは楽しみね」
満面の笑み、これも身内またはそれに順ずるものにしか見せないのだから不思議なものだ。
「はあ、腹減った」
大の他人嫌い、姉さんとまともに口を聞ける他人といえば俺の知る限りでは久美だけだ、餌付け……なんと恐ろしい。
「それより姉さんなんでこっちに? 学校はいいのか?」
「教育実習があるので帰ってきたのです」
「教育実習?」
「あら、聞いていないのですか? あなたの学校で」
「えっ……」
なんというか嵐の予感。
本作最強のキャラクター、鑢千鶴の登場です。
教育実習によって加速する変態ライフはどうなるのか?
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