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彼女の眼鏡に恋をした  作者: 奈良都翼
踏み出す一歩
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踏み出す一歩その③

「ここら辺、だったはずだな」


 あの後山本に話を聞いて飛び出した、相手は2週間ほど前に久美に振られたやつだ。あいつが言っていたのは本当のことだった。山本が久美をストーカーし始めたのは3日前つまり俺はあいつがこうなったのも何割か俺に負がある。


「待てよ鏡」


 飛び出した俺についてきたのは腱そして如月先輩だった。


「あいつは……まあそうか」


 せめて情けない姿くらいは見せたくない、俺だって同じ立場なら思っただろう。


「さてせめて手がかりがあればいいんだが」


 ふと地面に目が行く。


「これは新食感グミ昨日久美に渡したやつだ」


「所々落ちてるな」


「ヘンゼルとグレーテルかよ」


「しかし助かった、これで見つけられる」




「よくも俺に恥をかかせてくれたな」


「なんのことよ」


 自分の中の弱い気持ちを押し殺して出した言葉は情けないほど震えていた。


「そんなにおびえて、やっぱり俺の目には間違えは無かったみたいだな」


 その男は顔を近づけてきた。確かにかっこいいと言われるような容姿なのだろうが、今の彼は私にとって魔物のように思えて仕方ない。


「鏡が助けに来るわ、鏡は強いんだからあんたたちなんかに絶対負けない」


「ああ知ってるよ、確かサッカー部の連中を半壊させたとかだろ」


 男は離れるとどこからかバットを取り出した。


「数もサッカー部以上だ、それにこれだってある」


 そこに居る男たちが全員何かしらを手にしていた。


「それにここに来るとも限らないだろう、それまでは楽しく遊ぼうぜ」


 男が手を伸ばす、怖い怖い怖い。


「助けて……鏡」




「ねえ」


 今日もお父さんは迎えに来るのは遅いだろう。泣くことしかできない。お母さんが居ないことは知っている。私は泣くことしかできないのだ。そんな時話しかけられた、いつも遅くまで残っている男の子だ。私かこの子、先にどちらが帰るかその日によってまちまちと言ったところだ。


「…………」


「ねえってば」


「なによ」


「何で泣いてるの?」


 いちいち言われなくても知っているし、自分のことを探られることはどことなくイライラした。


「泣いてなんかないもん」


「だったら、一緒に遊ばない」


 子供のころは意味のわからない会話が成立してしまうことがあるが、その言葉は子供だった私も意味がわからないものだった。


「いや」


「なんでさ」


「私はあんたのことが嫌い」


「なんで、僕たち話したこと無いのに」


「嫌いなものは嫌いなの」


「ん~……そうだ」


 何かひらめいたようにバック置き場に向かう。


「これ食べる?」


 おやつのビスケットの余りだった。


「本当はお父さんとお母さんに上げようと思ったんだけど、あげるだから仲直りしよう?」


「えっ! いいの?」


「うん」


 ビスケットはおいしくて、何で彼が嫌いだなんて言ったのか分からなくなってしまった。


「なんでうれしそうなの?」


 理不尽に嫌われ、きびすを返すように尻尾を振られそんな私に笑顔を向けている。


「だって誰かがうれしいのってうれしいでしょ?」 


 その子はとってもうれしそうで、こっちもうれしくなってきた。


「ありがとう、とってもおいしい」


「久美」


 父親が来た。そして今私を呼んでいる。


「ごめんね、明日は遊ぼうね」


「いいよ、またね」


 男の子は独りになってしまった。でも話していた間は当然のことだけど一人じゃなかった。


「ねえお父さん」


「なんだい」


「今度ご飯作ってあげるね」


「どうしたんだよ急に」


「だって誰かがうれしいのってうれしいでしょ?」




「そこまでにしとけ」


「来たか」


 彼が来た、私を助けるために。


「鏡っ」


「悪かったな待たせて」


「感動の再開のさなかすまないがこちらもかませ犬じゃない」


「いいや、やっぱりお前たちはかませ犬さ」


 痺れを切らした手下たちが飛び掛るそれも各自が武器を持っている。


「武器を持つと2段分強さが上がるとか聞いたことがあるな、でも二段上がったところで俺には……いや俺たちには及ばない」


 右から飛び掛る男の顔にけりが炸裂し、左から来る男に鋭い突きが決まる。


「仲間だって!?」


 左右には如月と腱がいた。


「卑怯とは言わせないぜ」


 前から攻撃をかけてきた男は大きなモーションで攻めてきた、それを軽々と避け顔面に一発それだけで沈んだ。


「かかってこいよ、まとめてな」


「くそっ」


 一斉に飛び掛る男たち、しかし鏡たちが反撃することはなかった、ただ避けるだけだった。


「当たらない」


「避けるだけかよ、口ほどにグハッ」


 しかし男たちは自分の過ちに気づいた。多すぎたのだ。3人に対してその数倍その数十倍その男たちが慣れているわけでもない武器を手に振り回すもちろん3人に当たるなんかよりずっと仲間に当たる確率のほうが大きい。そう3人が狙ったのは仲間同士(・・・・)のつぶしあい。


「やめろ仲間に当たグゥ」


「おっと手がお留守だぜ」


 そんな混乱をこの3人の猛者が見逃すはずが無い、武器を使えば仲間に当たるかもしれない、その思いで動けなくなった男たちはまったくの無防備、そしてあっけなく次々に仲間がやられていく。そして彼らがとる行動は、武器を捨て素手で殴ることだった。そしてそれは彼らが同じ土俵で戦うことを意味した。三人が得意とする土俵で。


「ずぶの素人だな、俺が今までどんな修羅場をくぐってきたか分かっちゃ無い」


「こいつら化け物か」


「化け物か、いいねほめ言葉だ」


 小魚の群れが大きな魚に食われるように、男たちは次々と倒れていく。


「こいつらっ、ふざけるなこんなこと」


「あるんだよ、このグズ野郎ぉぉぉぉぉ」


 鏡に蹴り飛ばされた一人の男は久美の近くで大将ぶる男の足元で倒れた。


「そ、それ以上動くなこいつが可愛かったらな」


「やっぱりこれ以上ないほどの愚図だ、お前」


「威勢いいのもそこまでさ、やっちまえお前ら」


 再び武器を取る男たち。殴る蹴るならばある程度耐えられるが、武器を持った男たちの攻撃を耐えることができるとは到底思えない。


「鑢、どうする?」


「っち、おい俺だけ殴るんじゃだめなのか?」


「だめに決まってんだろうよ、共犯だからなそいつらも」


「だとよ、すまない」


「俺たちの好きで付き合ってんだかまわないさ」


「だな、あんな可愛いお嬢ちゃんに怪我させるのは悪いしな」


 握られた3人の拳はそっと開かれた。


「……踏み出す一歩か」


「!?」


「鑢これが俺の一歩さ」


「なんだお前、っく」


 その影の薄さを利用し大将へと近づき一撃を放ったのは紛れも無く山本だった。


「貴様」


「久美さんに触れさせるものか」


 山本は大将を押さえつける。それを解こうと暴れるが山本も本気だった、死んでも放さないそんな覚悟を彼は秘めていた。


「山本、そのまま1分いや30秒持っててくれよ」


「ぐっ、たのむうっ」


 開いた拳は再び握られた。


「離れろっ」


「嫌だ、俺はもう見ているだけなんて嫌なんだ」


 何度も何度も殴られ、崩れ落ちそうになっても踏ん張って山本は耐えた。それは今までの自分との決別を意味した。


「これでどうだ」


 大将は落ちている武器を手に取りそれで山本を殴り始めた。


「ぐぅっ」


「離れろぉっ」


 力込め叩きつける一撃は山本に届く前に止まった、止められた。


「ったぁ、しびれる、痛いね」


 素手でそれを鏡がとめた。


「何だよ、何なんだよ、お前はぁっ」


「俺か? 俺は鑢鏡こいつの幼馴染さ、文句あるかこの野郎オォォォォォ」


 鏡渾身のヘットバットは大将をそのまま沈めた。


「山本、よくやったな」


「終わった……のか?」


 山本は崩れ落ちた、終わったのだ。


「ああ、終わったよ全部な」


「そうか……」


 満身創痍の体で山本は言った


「鑢、俺……変われたかな?」 


「ああ、お前はもう一歩を踏み出した」


 山本は小さく笑うと久美のほうを見た。


「久美さん……、俺あなたのことが好きです」


「……ごめんなさい」


 山本はうつむき笑った、そして泣いていた。


「ごめんなさい突然変なこと、ありがとうございました」


「…………」


 鏡はそっと山本の肩をたたくと肩を貸した。


「先輩、腱」


「分かってる」


「おう」


「久美2人と帰れ、俺は少し用ができた」


「う、うん」




「山本」


「気休めならよせ、むしろ笑ってやってくれ」


 公園のベンチそこで話していた。


「下の名前教えてくれよ、名前覚えるのは得意じゃないがお前の名前は覚える価値がある」


「太郎だ、山本太郎」


「やっぱ地味だなお前」


「うるさい」


「振られるって分かってたのか?」


「まあな」


 こいつの動きを見ていれば分かったことだった。


「久美さん昔から好きな人がいるんだってさ」


「俺も聞いたさ、まったく誰なんだろうな」


「天然かそれ」


 呆れ顔で山本は聞く。


「どういう意味だよ?」


「いやなんでも」


 『はぁ』とため息をつくと山本は俺を少し睨んで笑った。


「よしカラオケでも行こうぜ」


「どうしてそうなった」


「俺得意なんだよ地味だがこれだけは自慢できる」


「なんだそれ」


「行こうか」


「そうするか、失恋祝いだ」


「祝うな馬鹿」


 こうしてまた一人友達(バカ)が増えた。

三日目頑張りました

宜しかったらご感想お願いします^^

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