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パラノイア

「最近誰かにつけられてる気がする」


 と突然切り出す久美。


「気のせいだ」


「気のせいじゃないんだって」


 食い下がるからには、本当の話なのかも知れない。


「仮にそれが気のせいじゃないとして俺にどうしてもらいたいんだよ」


「何とかしなさい」


 いつも思うがこいつは俺のことを召使かなんかだと思ってるんじゃないのか?


「いやだ、めんどくさい」


「ご飯の量増やしてあげようと思ったのに」


「それだけじゃな」


「しかたない、今なら一品追加で」


「もう一声」


「……な、なら、直々に食べさせてあげてもいいのよ?」


 召使の後は子供か。


「いらない、必要ない」


「そこまで言うことないじゃない」


 すこし涙目になる久美。


「ごめんごめん、まあその話俺で出来る範囲で協力するさ」


「流石は鏡」


 打って変わって笑顔になる、女ってやっぱり分からない。




「ってことがあってさ」


 最近、俺と博の和に腱が混じり食事を取り始めた。八方美人というスキルを生かし博は腱とすぐ打ち解け、俺もこのちょっとした環境の変化を楽しんでいる。


「ふーん、幼馴染ねぇ、美人?」


 腱にはまだ久美のことを話したことはなかったが、反応は予想道理のものだった。


「クラスのアイドルって感じ?」


 その問いには博が代わりに答えてくれたものの、俺の思っていたような答えではなかった。


「いいな~、うちの近所年下しかいないからそういうの新鮮で」


「隣の芝は青いって言うだろ? お前にとっては新鮮でも俺にとっては日常だ」


「そんなものかな?」


 どこか納得できないような顔で腱は頭を傾げる。


「さて、今日からその正体を探す必要がありそうなんだが」


「頑張れ、伊達男」


 最近は博は皮肉をよく言う気がする。


「ああ、モテル男は辛いよ」




「……おい」


「ん?」


「俺はお前の荷物もちをするために一緒に帰っているわけじゃないぞ」


 護衛と銘打たれた帰り道で、なぜか大量の買物袋を持たされた俺。


「いいじゃない、ついでよ」


「まさかこのために嘘をついたわけじゃないよな?」


「嘘じゃないわよ」


 むきになって言い返してくる、まったく本当なのか嘘なのか。


「ああ、そうかい」


 こんなことで貴重な放課後が浪費されていくのだけはカンベンだ。早く解決して帰りたいものだ。


「いつ頃からそんなふうに思ったんだ?」


「初めて気付いたのは、2週間ぐらい前かな? その日は帰りが遅くて、そんな時誰かに追われてる気がしたのよ」


「気のせいじゃないのか?」


「気のせいじゃないわよ、その日からほぼ毎日同じ気配がして、この前なんて人影まで見たんだから」


 パラノイアそんな言葉が頭によぎる。


「まあ何日かは一緒に帰ってやるが、その間に気配がしなかったらやめるからな」


「護衛がいれば追わないかもしれないでしょ」


「じゃあ意味がないんじゃないか?」


「少なくともその間だけは安心していられるわ」


「そうかい……」


 徒労に終わる気がして仕方ない。


「今日は何が食べたい?」


「今買っただろ? もう決まってるんじゃないのか?」


「買いだめしたから、ある程度自由が利くの」


「買いだめって……まさか」


「しばらくの間ずっと遅くなるみたいよ、あなたのご両親」


「……あの親には申し訳ないとか、そういう気持が無いのか」


 最近はずいぶんと両親が久美に甘えている。


「まあ私としては一向に構わないわ、鏡を餌付けできるし」


 確かに久美の料理の腕は他人嫌いの俺の姉すらも餌付けさせてしまうものがある、たしかに依存性のあるものなのかもしれない。しかし餌付けって俺はペットになった覚えは無いのだが。


「餌付けねぇ、まあ抜け出せなくなったらなったで将来的に困るな」


「別に困らないでしょ、だって……――――」


 その言葉に何か続けて何かつぶやく久美、何を言っているかは聞き取れないが。


「まあ、そん時は頼むわ」


 たしかに、当の本人がこういうのだから、しばらくこうして甘えているのも悪くは無いと思う。


「ま、まったく私に感謝しなさい」


 頬が赤くなっている所を見ると頼られることにあまり体制がないのかもしれない


「ああ、感謝してるよ……さて」


 買物袋を久美に押し付ける。


「どうしたの急に?」


「少し用事があるんだ、先行ってろよ、ここからならそう遠くないしな」


 納得できないような表情で荷物を受け取る久美。


「そう、じゃ先行ってるから」


「おう」


 さっきから感じていたものが間違えでは無いのなら、きっとこれは正しい選択だ。


「さてと、そこにいるんだろ」


 ベタな台詞に反応し駆け出す影、足にはそこそこ自信がある、あとはその影とやらとの体力勝負だ。





 縦横無尽に入り組んだ路地を駆ける影、次第に全容がつかめてくる。男だしかもうちの制服を着ている。


「だいぶペースが落ちてきたな」


 見失わない程度に後を追いかけ、相手の体力が落ちるのを待っていた。ようやくその機会が巡ってきた。


「っ!?」


 突然のこちらの加速に驚きの表情を浮かべる男、男も速さを上げるが体力を消費している以上なかなかスピードが上がらないといった所だ、一気に距離を詰める。


「捕まえたぞ、ったく男と追いかけっこする趣味はねえっていうのによ」


 服の襟を掴み行動を制限させる。


「はぁはぁ」


 息を荒げる男、どこかで見たような気がする。


「あっ、お前もしかしてうちのクラスの……山崎?」


「山本だ」


 男改め山本は逃げるのを諦めその場に座り込む。


「まあいい、でその山本が何で久美をストーカーしているんだ?」


「ストーカーじゃない、ただ彼女のことが気になって……」


「俺のボキャブラリーの中で、その説明に該当する言葉は変態かストーカーぐらいなんだが」


「違うんだ、誤解だ、俺は久美さんに……こ、告白したいだけなんだ」


 そんな女々しい言葉にもどこか芯が通っているような錯覚を覚えさせるほど、山本は真剣な表情をしていた。


「それがどう追い掛け回すのと関係するんだ?」


「なかなか切り出せなくて、そんで言えそうなタイミングを待ってたんだよ」


「なんだ、じゃあ頑張れよ」


 襟を話して自由にしてやる。


「へっ?」


「どうした? 3回くらい確認したはずのパスポートがいざ出す時に無かった時みたいな顔して」


「例が長いよ、じゃなくて普通怒るものばかりだと思っててから」


「どうしてだよ頑張ってる奴を応援する、当然だろ?」


 その言葉にしばし無言になり、瞳を潤ませる山本。


「お前いい奴だなぁ」


「泣くな、それと手を掴むな気持悪い」


 ポケットから取り出したハンカチで涙を拭く山本。


「なら久美に気のせいだといっておくさ」


 パラノイアだって言ったら怒るかな、あいつ。

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