勘違いの先に
結局その日は生徒会室には行かなかった。まだ明るいうちに電車に乗り、自転車を走らせ家に着いた。
着替える気力もなく、制服のままベットにダイブして、そのまま寝返りをうって、天井の鑑賞会を始めた。
何があったかに気付いたが、結局音色が何を言っていたのか、何故あんな行動をとったのか、俺をどう思っているのか、俺には分からなかった。
「もうやめた、疲れた」
そして考えるのをやめ、目を閉じた。今日はとても疲れた、3分もしないうちに自然と眠りに落ちていた。
「なによ、いるならいるって言いなさいよ」
目を開けると、少し眉間にしわを寄せた幼馴染がいた。
「そんな怒ってばっかりだと、すぐ年取るぞ」
「怒ってないわよ」
やはり怒っている。
「なんだよ、もう7時か」
「ホントあんた寝るのが好きなのね」
「眼鏡の次にな」
呆れたような目で俺を見る久美。
「ご飯出来てるわ、私に感謝しなさい」
「ああ、ありがと」
「まったく、私がいなかったらあんた今頃飢え死にしてるわよ」
戦時中ならまだしも、今の日本ではありえない話だ。
「さいですか」
聞き流しながら階段を下る。
「なあ、久美」
「なによ」
いつものように不機嫌そうな返事をする、昔はもっと可愛げがあったのだが。
「誰かのこと好きになったことあるか?」
ズトッ
何かがすべる音に振り返ると幼馴染が飛んでいた、そして重力に従いそのまま俺のほうへ突っ込んで……。
「ぐはっ!?」
久美の頭突きをみぞおちに食らったと思った次の瞬間には、何度も階段に頭を打ちつけ最後には壁に激突して止まった。体中が痛い。
「いってぇな、何やってんだよ」
「あ、あんたが変なこと聞いてくるからでしょ?」
俺じゃなきゃ死んでいたと思う、間違いなく。
「ったく、しかし重くなったな、少しは痩せろよ」
そして今久美に座布団にされている、いや布団か?
パシン
痛い。
「なあ、そんな怒るなよ」
サンドバックになることはどうにか間逃れたが、俺の頬には久美の手形がしっかり象られていた。
「知らない」
さっきから久美は食事に手をつけていなかった。
「食わないのかよ?」
「どうせ私は太ってるから、今度からは食事の量減らすことにするわ、もちろんあなたの分も」
「久美様、今のままで十二分に可愛いんでやせる必要なんてないです。だから……」
「あら、ありがとう。気持だけ貰っておくわ」
鬼、悪魔。
「それで、……何であんなこと聞いてきたの?」
「あんなことって?」
「その……誰か好きないなったことあるかって」
「別に聞いてみたかっただけ」
会長にはまだまだ通じないが、少しだけポーカーフェイスが上手くなった。
「……あるわ」
「へえ~、それでどうなったんだ?」
「まだ分かんない」
「ってことは現在進行形か」
「……うん」
「それでそいつのどこが好きになったんだ?」
「ど、どこを!? えっと……いわなきゃダメ?」
「別にいいけど、聞けるなら聞きたい」
「そ、そうね……つ、つよいところとか……やさしいところ? とか、か……かこいいところとか」
顔が次第に茹で上がっていき、今にも湯気が出そうだ。
「それに……それに……」
「もういいよ、ありがと」
「ど、どういたしまして」
「じゃあさ、誰かに告白されたことは?」
「ふふっ」
さっきとは打って変わって余裕のある表情を浮かべる久美。
「私は久美様よ、今まで何人の男に告白されたと思ってんの?」
「俺が聞いているんだが……」
「いいから当てて御覧なさい」
「3人?」
「馬鹿にしてるの?」
「3万人くらい?」
「それ市の人口より多いから」
「じゃあ30人くらい?」
「何で3にこだわってるの?」
「特に意味はない、で答えは?」
「まあ正確な数は数えてないけど、小中高あわせて100回以上は告白されたわ」
俺が知っていたのよりずっと多かった。
「貴様今まで何人の男を振ってきた」
「あなたは今までに捨てた手紙の数を覚えているの?」
「数えてない」
「しいて言うなら告白してきた奴ら全員よ」
「なんで?」
「好みじゃなかったし、それに……好きな人がいたから」
「なんだよ、小学校の頃からそいつが好きだったのかよ」
「そ、そうよ、私は一途なんだからね」
「じゃあさ、俺が告白されたとして、どうすればいいと思う?」
「振りなさい」
断言。
「振る……のか?」
「そうよ、他に好きな人とかいるでしょ?」
「いや、いない」
こちらも断言。
「で、でも気になる人くらいいるんでしょ?」
真っ先に浮かんだのはあの悪魔のような微笑、人間は恐怖や痛みを受けると、いつもより物事を覚えやすくなるというけど、もう完全に頭に刷り込まれているということだろう。
「いる……のか?」
「それなら振るべきよ、どっちも物にしようなんて甘いわ」
「そうんなものか?」
「そうよ」
「そうか」
心のどこかで納得できない所もあるが、確かに久美の言うとおりなのかもしれない。もう心の中では答えは決まっていた。
「あ、鏡君、なんで昨日来なかったの?」
HRのあと走って生徒会室に向かうと、そこには音色だけしかいなかった。何事もなかったような顔をして、いつものように犬小屋でくつろいでいる。
「少しいいか?」
「いいよ」
芋虫宜しく、にょきにょきと犬小屋から出てくる音色。
「昨日のことだが、俺はその……お前の期待に添える答えを持ち合わせていない」
「……」
音色はただ無言のままだった。
「なんていうか、ごめん」
「えっと昨日のあれは、挨拶みたいなものだよ?」
「挨拶?」
「イタリアとかフランスでは日常茶飯事って言うか、だから別に深い意味があるわけじゃないよ」
日常茶飯事なのかわしらないが、この口ぶりからしてあの行為意味があったわけではないのだろう。
「そうなのか、なんだ俺の早とちりか」
「ふふ、変なの」
あれこれ悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「しかしあんなことされたら、普通勘違いするだろ?」
「勘違いって?」
「だから……お前が俺のこと好きなのかな? って」
「勘違いじゃないよ、私は鏡君のこと好きだし」
またしても不意打ちだった。
「……は?」
「絶対諦めないんだから」
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