松戸唱
「昨日、話してみたんでしょ?」
「まあな」
放課後開催された第一回作戦会議。
「で、どうだった?」
「話してみたところ、一概に響が悪いってわけじゃないと思う」
「今、響って言った?」
「言ったけど」
「まさか…妹に手を出そうとか思ってないわよね」
怒りを込め睨み付けられる。
「出すはずねぇだろ」
「……ホント?」
「ったりめえだ」
「つまり響ちゃんが可愛くないってこと? 私のかわいい妹へ対する冒??」
今まで見せたことのない松戸の怒りのオーラをふつふつと感じる……。
「じゅ、十分可愛いよ」
「やっぱり手を出すきね、そうはさせないわ」
今度は殺気。
「出さないって言ってんだろ」
「やっぱり響ちゃんが可愛くないって言うのね」
「十二分に可愛いですよ、でも決して手は出しません」
「手は出さなくても、写真とか記憶とかでハアハア言ってるんでしょ、お見通しよ」
「するか、んなこと」
「いいえありえないわ、響ちゃんの可愛さに心動かされない人間なんてどこにもいないんだから」
その後彼女を説得するのに多くの時間を浪費したことは言うまでもないだろう。
「つまり私たちがいけないってこと?」
「俺の考えでは、心当たりはないのか?」
考える動作をしてすぐに首を横に振る。
「そうか……、確か姉がいるって言ったよな?」
「えぇ」
「その人が問題なのかもしれない」
「お姉ちゃんが……うん十分ありえる」
呆れたような納得したようなそんな曖昧な目をして音色はうなずく。
「とりあえず事情を聞いてみるべきかもな」
「なら今日しかないよ、お姉ちゃんいつも忙しいし」
「働いてるのか?」
「うん、大学行きながらだけどね」
「そうか、なら頼む」
「何言ってるの、鏡君が聞くんだよ」
「おい、俺が聞く前提かよ」
「だって私じゃ話にならないし」
「どういう意味だよ」
「もう、行くったら行くの」
「でかいな」
松戸家を初めて見た感想はそれが全てだった、都会の真中にここまで大きい家を建てる親の顔を見てみたい。
「親なにやってんの?」
「お父さんがミュージシャンで、お母さんが作曲家」
「だから音色に響か、音楽大好き一家だな」
「ちなみにお姉ちゃんは歌手、名前は唱合唱の唱って書いて」
「ふーん、お前も何かやってんの?」
「ピアノを少し……かな?」
「じゃあ今度聞かせてくれよ」
「いいよ、これが終わったらね」
「そうと決まれば、さっさと終わらせるか」
「で、私に何か用ですか?」
松戸唱、よく通る声に冷たい視線、音色や響から幼さを取り去ったような大人っぽい女性だ、髪は右に一箇所でお団子にしている。
「……単刀直入に聞く、響に何か言ったのか?」
「響? あなたあの子と知り合いなの?」
「まあ単なるファンさ」
「ファン? 向いていないって言ったのに、まだギターなんて続けてるの、あの子は」
「……やっぱりあんたが原因か」
「それがどうかしたの」
「謝れ」
「は?」
「いいから響に謝れ」
「わけが分からないわ、私はほんとの事を言っただけよ、『あなたには才能がないからギターなんて止めなさい』って」
「あんたがどんだけ才能があったとしても、頑張ってる人間を侮辱する権限はない」
「分かってないわ、この世界じゃ例え才能があったとしても認められないことなんてざらよ、それをあの程度でこの世界に入ってきてもらいたくないの、これもあの子のことを思ってのことよ」
「分かってないのはあんただ、才能があるとかないとかそんなこと関係ない、あいつのギターは確かに俺の心を動かした」
「あなたの感性がおかしいんじゃないの? まだミジンコの方がいい評価できるわ」
「ミジンコに音楽が分かるはずないだろ」
「あなた程度の人間にも音楽を理解することなんてできないと思うけど?」
この部屋入る途中の『心折られないようにね』という音色の言葉の意味が判った気がする。
「…………」
「何か言いなさいよ、あんた頭おかしいんじゃないの、病院で見てもらったら」
「…………」
「人の話し聞きなさいよゴミ虫、耳まで腐ってるんじゃないの」
だんだん彼女の本質が浮き彫りになってきた……。
「…………」
この人も変態だ
「はっきり言ってあなたと話している時間なんて無駄ね」
「……っせぇ」
「何か言った」
「うっせぇって言ったんだよ、さっきから聞いてたらなんだ人をゴミ虫だの腐ってるだの、お前の方が十分腐ってるんだよ、いいから黙って聞いてろ」
「な、なによ」
「俺だっていいものくらい分かる」
「だからなんだってのよ」
「いいから黙って聞いてろ、あいつはだれかに認めてもらいたかったんだ」
「…………」
「あいつは家に帰りたくないって言ってた、あんたの言葉がそういわせたんだ」
「…………」
「あいつのギターは孤独で、誰かに認めてもらいたくて、そんな音が俺に届いた」
「……私に何をしろって言うの」
「あいつを認めてやってほしい、心からでなくたっていい、ただそれだけであいつは報われるんだ」
「……私はほめるの下手よ」
「ああ、それでいい」
「びっくり、お姉ちゃんいいくるめちゃうなんて」
「なんか何言ってたか覚えてねえや」
「お茶でも飲んでってよ」
「いいよ、響が帰ってきたらめんどくさいしな」
「そう、じゃあせめて途中まで送らせて」
「おお」
今日も練習を終え帰宅する、昨日あったあの人は結局来てくれなかった。
「はあ」
私のファン一号。
「あっ音姉ちゃんだ」
暗闇からライトに照らされて確認できた、誰かと話しているみたいだ。
「音ねえ……」
もう一人の姿を確認し、ただ愕然とする、鑢鏡その人だったからだ。
「うそ……」
結局姉に言われて彼は私に近づいたただけだと、しかしそれ以上に私を認めてくれた人を失ってしまった。
「……っ」
何一つ見えない暗闇の中、ただ一人で走り続けた。
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