松戸響
「ここか?」
松戸妹を追い、たどり着いたのは駅近くの公園。
「見つけた」
松戸妹を遠目から捕捉した、顔立ちは音色に似ているが目つきが少し鋭い、髪は短く少しとげとげしい。ベンチに座りギターケースを開くと、ギターを弾き始める。
「なかなか、上手いな」
音楽には詳しくは無いが、良いか良くないかの判断くらいなら自分でできる。
「しばらくは聞かせてもらうか」
「なかなか、いいな」
ほんの10分ほどもしないうちに、すっかり彼女のファンになっていた。
「タダ聞きも悪いし、何か差し入れでも……」
ふと自販機が見える。
「これでいいかな?」
さて、自販機の前に来たが、どれを買うべきか迷う。これが他の人へ買うものならなおさらだ、たとえば炭酸、一見若者が好きというイメージを持つが、以外にこれが嫌いな人間は多い。身近な人間で上げれば久美がその例だろう、最近は少しは緩和されたが、昔は一口も飲めなかった。やはり炭酸以外が妥当だろう。次に浮かぶのは果汁系のジュース、ブドウ味やりんご味等バリエーションが多いが、これも好き嫌いが分かれる。お茶、珈琲、紅茶も同じだ、おしるこは……今7月だぞおい。ミネラルウォーターではないのかと考えるのも一つだ、確かに水なら飲めない人間はいないだろう。しかしここで問題が一つ、安っぽいという事だ。他の500mlのジュースが150円なのに対し500mlで130円、わたされたときに『なんだ、こいつケチりあがった』と思われてしまわないか? そうそれが問題、かといって他の飲み物はリスクが高い、選んでもらえばいいじゃないか? って思うだろうが、それは間違いだ、突然飲み物をおごってやるって言われて飛びつくのは、よほどの子供か食いしん坊かぐらいのものだろう、なんだこいつ気持ち悪い、と思われるのが関の山だ。やはりここは慎重にいかなくてはいけない。ならばたくさんかって行ってそこから選ばせればいいと考えるだろう、しかしこれにも問題がある、一つ目は金が掛かる、しかしこれはさほど問題ではない、二つ目は相手に気を使わせるということだ、やはりこちらも相手に気持ち悪いと言う目で見られる。一番いい渡し方としては自分の分を持ちつつ、相手にもう一つを差し出すと言う形だ。ではどうするか、まずは観察だ、相手がどのようなものが好きなのかを、知らない人間ならなおさらだ。この結論に至るまで5分ほど、再び視線を彼女に戻す。
「さて……」
愉快なお兄さんたちに絡まれている、口論をしているようだ、このまま行けば殴り合いに発展しかねない。
「んだと」
遠くからでも聞こえるほどの声を上げる愉快なお兄さんその1、松戸妹の胸倉をつかむ。
「ったく、しかたない」
こういう時なんといえばいいのだろうか? たとえば……。
「その汚い手を離しあがれ」
決まった、どうよ。
「「「「……古」」」」
その場の全員が白い目を向けてくる。
「そんな目で俺を見るなあああああっ」
気づけば手が出ていた、次は足、そして頭、そしてそして……。
「何だよ、三人しかいないのか」
いつの間にか愉快なお兄さんたちは伸びていた。48の殺人技とか、52の関節技とか、3つの最終奥義とか、まだまだバリエーションはあるのに。
「お兄ちゃん、誰?」
「んああ、通りすがりの物好き……かな?」
流石に姉の使いとは言えない。
「まあ、なんつうか……ありがとう」
照れくさそうに感謝の気持ちを伝える、松戸妹。
「んでお譲ちゃん、何でもめてたんだ?」
「別に……」
その言葉を聞くと、さっきと取って代わってそっぽを向いてしまう。
「まあいいや、お譲ちゃんはいつもここでギターを弾いてるのか?」
「まあ、そうだけど」
「中々良かったよ」
松戸妹は驚き表情を浮かべ、その後少し目を潤ませる。
「今……良かったて言ったよな、俺のギター」
「ん、あぁ良かったよ、ファンになったよ」
「お兄ちゃんいい人だな……、こいつらとは違うよ」
伸びている愉快なお兄さんを睨みながら松戸妹はつぶやく。
「ってことは、もめた理由は自分のギターをバカにされたってとこか」
「な、何で分かったんだ」
「いつもこういうことをする人がいるからな」
ふとあの邪悪に満ちた笑顔を思い出す。
「すごいな」
目を輝かせて答える。
「それとお譲ちゃん、飲み物何が好きだ」
「へ?」
「いや、それであれこれ5分くらい無駄にしたからな、答えたくないのならいいよ」
「俺はお茶が好きかな……」
「分かった、ならおごらせてくれ」
「いいよ悪いから……」
「差し入れってやつだ、ファンなら当然だろ?」
「でも……」
「ああ、もう買ってくるからな」
メーカーは……いいや。
「ほら」
「ありがと」
「でもこんな連中がいるんだぜ、ここでやってんの危なくない?」
「家じゃできないしさ……やっぱりこうゆう所で練習するしかないんだ」
どこかさみしそうな表情を見せる松戸妹。
「そっか……、お譲ちゃんも大変なんだな」
「ん~、そのお譲ちゃんってのやめてよ」
「ああ悪いな、名前は?」
「松戸響、お兄ちゃんはなんていうんだ」
「鑢鏡だ、よろしくな響ちゃん」
「よろしく、鏡さ……ん?」
心なしかアクセントの位置が疑問に近い。
「どうかしたか?」
「いや、どこかで聞いたことがあるなって」
自意識過剰かもしれないが、もしかすると音色が家で俺のことを話しているのかもしれない。
「き、気のせいだろ」
「そうかな?」
「それより、帰らないのか? 暗くなるぞ」
時刻は6時もう少しで暗くなる。
「もう少し練習していく、……あの家には帰りたくないしさ」
この口ぶりから察するに、家があまり好きではないだろうか。
「なら付き合うよ」
遅くなってまたああいう連中に絡まれたらめんどくさい、それにそれで響が怪我をしたら音色に申し訳が立たない。
「ありがとう」
その言葉にはもう、恥じらいは残っていなかった。
さて本格的に新章の開始ですね
今回は松戸家の三姉妹を中心に書いていきます
会長には少しおとなしくしていただかないといけないな……
少し残念です
宜しかったらご感想お願いします




