鑢鏡の逆襲その②
タクシーを降り、目に飛び込んできたものはまるで城のようなどでかい家。
「さて、行くか」
「来たか、鑢鏡」
門の前に一人の男が立っている。
「ちゃんと来ましたよ、如月先輩」
「はあ」と大きなため息をついてから先輩は口を開いた。
「お前の身は保障はしないと書いておいたはずだが、覚悟はいいよな?」
「先輩の字が汚すぎて読めませんでしたよ」
「そうか、ならここで確認しておく帰る気はあるか?」
「お断りします、先輩に借りを返す用事もありますんで」
すると突然お腹を抱えて笑い出す如月先輩。
「何がおかしいんですか?」
「お前みたいなバカ始めてみたからな、笑わないわけがないだろ」
「ふう」と先輩が息を整えると同時に、周りの空気が一気に凍りつく。
「来い、鏡」
「望む所です」
一気に踏み込んで距離を縮め拳を振り上げる、その軌道は先輩の顔を捉えている。
「甘いな」
ボソリとつぶやくのと同時に先輩は左腕でこちらの拳をはじき、そのまま右手でわき腹を鋭く突かれる、そしてはじいた左手が頬にめり込む。一瞬にして意識を持っていかれそうな攻撃、だが……耐えられない一撃じゃない。
「まだだ」
軌道をずらされた右手を体を左に倒し、無理やり相手の頬に叩き込む。そして倒れそうな体を左足で支え、左手で腹部に一撃を決める。それから左足に力を入れ間合いを一気に開く。
「流石はサッカー部の連中を一人で半壊させただけはある」
「先輩こそサッカー部から逃げ切っただけのことありますよ、どうせならその自慢の逃げ足を見せてください」
皮肉を吐くが、それがせいぜいだった。
「「さて、第二ラウンドだ」」
一撃を決めれば一撃を決められる、俺がよければ相手も避ける。まるで鏡と戦っているような気になってくる。そんな戦いも架橋に入り、いつかの如く俺の体は満身創痍。
「ボロボロだな」
「先輩こそ今にも倒れそうですよ?」
「その前にお前には倒れてもらうぜ」
こうして会話をしていることも辛い。
「最終ラウンドだ」
空振りですら体力を使う、無駄に打撃を与えられない以上ギリギリまで間合いを詰める必要がある。震える足を動かし突っ込む、自分の間合いならば先輩も百パーセントの力を発揮できないはずだ。
「させるか」
左手が迫ってくる、最初に比べればスピードもパワーもおちているような気がする。首をひねり左に流す。
「掛かったな」
しかし同時に視界を奪われる、恐らく右手が迫っているのだろう。とっさに左手を立てる、そしてもう一歩踏み込む。
「ぐっ!?」
ぎしぎしと左手が悲鳴を上げ折れてしまいそうなくらいの衝撃が伝わる、意識が飛びそうだ。
「だけど……」
あの悲しそうな瞳を見せた小雪に何も出来なかった自分、彼女に何もしてあげることの出来なかった自分、もう負けるわけにはいかない。痛い、辛いそんな気持を飲み込み、更にもう一歩を踏み込む。
「オォォォラァァァッ!」
渾身の一撃が先輩の頬を捕らえた。体勢を崩し倒れこむ先輩。
「ハアハア、ったっくこんな気持ちよく負けたのはいつ以来か」
「嘘だ」
「はっ?」
「あんたはどこかで会長……いや小雪にもっと自由になってもらいたいと思っていた、じゃなきゃ俺なんかに負けない」
「深読みすんな、お前が強いだけだ」
「もしかして先輩は……」
「違あああああう、断じて違う、俺が何故あんなおぞましい生物を好きになんなきゃいけないんだ」
「……やっぱりあなたは女性恐怖症なんですね、はっ!? それともあっちの人ですか」
「それも違う、ったく、……俺はな、昔からあいつと一緒だった所謂幼馴染って奴だ、あいつはいつも屋敷から出してもらえなくて、俺が外のことを話してやってたんだ」
「……」
「いつもいいなって目を輝かせてたよ、よほど外の世界に憧れていたのだろうよ、それであいつが自由になれる学校で、あいつは生徒会長をやっている、変体ばかりを集めてな」
「それで?」
「そしてあいつはお前に会った、そりゃもう楽しそうに変な奴を見つけたってな、そしてあの一軒以来お前に信頼を寄せていたんだ、……あいつを頼むぜ」
「やだね」
「はっ?」
「小雪が自由になるだとかヤクザの娘だとかそんなの関係ない、俺は……彼女の眼鏡に恋をしただけだ」
目を丸くしてすぐに笑い出す如月先輩。
「ふっ……はははっ、さすがだよ鑢鏡」
力を込め門を開く、もう後戻りはできない。
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