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彼女の眼鏡に恋をした  作者: 奈良都翼
鑢鏡の逆襲
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鑢鏡の逆襲その①

「会長が来ていない!?」


 朝一で小雪の教室に走ったがそこに小雪の姿はなかった。


「いつもなら誰よりも早く来てるんだけど……、今日はまだ来てないのよ、何か用があるなら伝えておこうか?」


「いいえ……いいです」


 いてもたってもいられない、そんな気持を胸に残したまま自分の教室へと戻る。


「おい鏡、これ渡してくれって3年の先輩に言われたんだ」


「俺に?」


 博に渡された紙を開く、そこには雑な字の羅列と地図が記されていた。『まだ不満があるなら今日の昼12時までにここに来い、だがお前の身は保障しない 如月修』と。


「少し行ってくる」


「おいもうすぐHR(ホームルーム)が始まるぞ」


 そんな言葉を聞いている暇などはない。




 駅まで走りそこから5駅ほど電車を乗り、そこからは徒歩で記されている場所に向かう。


「こっちか……」


 時刻は10時、地図を見る限り徒歩で一時間ほどでつくだろう。


「ちょっと待てよ」


 振り返ると3人の男が立っていた、一人は少し顔がいいチンピラみたいな奴、そしてもう一人は地味という印象の20代後半ぐらいの男、最後の一人は……シャツインをした太った中年のおっさん。


「何か用か?」


「お前を御嬢の所に行かせるわけにはいかないんだ、ここで大人しく帰ってくれないか?そうすればお前を傷つけずに済むのだが」


 こいつの言動からするにこいつらが刺客だということは理解できた。


「断る」


 チンピラは短くため息をつき、後ろの一人に何かしらの指示をする。


「まったくお前は不幸だよ、この人がどんな人かも知らないで」


「何のことだ?」


 そういうと中年のおっさんが前に出てきた。


「この人は武術の研究をしていてな、とてもじゃないが勝てない。諦めた方がいいぜ、さっさと帰りな」


「だが断る」


「そうか残念だな、お願いします先生」


「任せておけ、準備はバッチリだ」


「準備?」


「予習ならしてきている、そのせいで少々寝不足だがな」


 謎が多い男だ、人を見かけで判断してはいけないという言葉を改めて実感する。


「予習ですか、どのような?」


「『萌えよドラゴン』全シリーズを一気見してきた』


 独特な動きを始める、見たことのないような型だ、まるでアニメのような。


「避けられるかな」


 すると走って距離を縮めてくるおっさん、その顔は本気だ。ゆっくりとした動きだが油断はできない、注意を払いながら避ける。


「はぁ、はぁ、なかなかやるな」


 おっさんは息を荒げ、凄い汗だくだ、まるでさっきの動きに全神経を集中させていたかのように。


「先生、頑張ってください」


「仕方ない、最終奥義を見せてやる」


「さ、最終奥義だと」


 最終奥義とやらをくりだすために再び不思議な型を取る。


「食らえ、真龍昇天拳」


 おっさんは助走をつけ舞い上がった、龍というよりは豚に近い気がするが。


「くっ」


 避けてその軌跡を目で追う、それはゆっくりと地面におり、バランスを崩し地味男にぶつかり、男を道ずれに倒れる。


「先生!?」


 チンピラが近くにより体を揺さぶるが動かない、まさしく真龍昇天(・・)拳。


「くそ、一気に二人をなんてやろうだ」


「俺は何もしていない、強いて言うなら避けただけだ」


「仕方ない俺がやるしかないか」


「来いよ、速攻かたてつけてやる」


「しかし俺も馬鹿ではない、お前の弱点なら知っている眼鏡だろ」


 そういうとポケットから眼鏡を取り出しかける。


「どうだ、これで殴れないだろ」


「……お前は目が悪いのか?」


「いいや両方とも2.0まさしく健康そのもの」


「……いいことを教えてやるよ、俺の嫌いな言葉は一番が眼鏡に対する侮辱で二番目が伊達眼鏡だ」


「つまり……」


「だが俺は眼鏡は殴らない。伊達眼鏡もだ、だから……そこ以外をぶん殴る」


 相手が反撃する暇を与えずに殴りつける。


「お前は眼鏡を侮辱した、しかしお前の眼鏡だけには敬意を払うぜ」


 のびている三人をその場に残し歩き始める、こんなことに時間をとっている暇はない。




 一キロほど歩いた所に仁王立ちの体格のいい男が立っていた。


「お前が鑢鏡か?」


「違います、さようなら」


「そうか、じゃあな」


 そう言って再び歩き始める




 途中の公園に差し掛かったとき。


「待て」


「ん?」


 70歳くらいのおじいさんがいた。


「ここより先に行きたいんだったらわしを倒していけ」


「老人を殴る趣味はないので、それでは」


 走って逃げる、ついてくるようだが無視だ。


「おいこら待て、待てというに、うわぁっ」


 おじいさんは壮絶に倒れた。


「大丈夫か?」


「腕が……」


 腕が青くなって腫れ上がっている、無性に罪悪感にさいなまれる。


「病院にでも連れて行こうか」


 ふと、公園の時計を見ると10時半まだ余裕がある。


「すまんな」




「大丈夫なのか?」


「老人扱いするな、これでもまだ96歳だ」


 予想よりずっと年をとっていることにビックリした。


「そうか、じゃあ俺はもう行くからな」


 と言って病院を後にしようとする。


「どうやら気付いていないようだな」


「ん、何のことだ」


「時間だ、わしは公園の時計に細工をしておいた」


「まさか」


「わしが時(計)を止めた」


 診察室の時計を見ると11時30分。


「やってくれたな、じいさん」


「ここから30分じゃとてもではないが間に合わない、残念だったな」


 すると病院にタクシ-が来て人が降りる、残ったのは空になったタクシー。


「すいません、ここまで行ってもらえませんか?」


 そしてタクシーに乗り込む。


「じゃあな、じいさん」


 タクシーが動き出す。


「この吉田が生まれた時代にこんなものはなかった」




「どれくらいでつきますか?」


「10分もかからないよ」


 警戒しながらサイドミラーを覗き込む、そこにはローラスケートで追ってくる人の姿があった。確かに早いのだろうが、とてもじゃないが車に追いつけるはずがない。


アリーヴェデルチ(さよならだ)


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