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第14話 王家の行事

 食の祭典二日目も昼に差しかかった頃。

 リムルは、とある場所で大いに戸惑っていた。


「あ、あの……」

「ふふふ、細かいことは気にしないでね!」


 右隣でナミナが微笑んだ。


「そうそう、こんな経験、滅多にできないんだから」


 左隣のユッテが肩を叩く。


「で、ですが、ここって……」


□■


「さぁ、皆さん、こちらですよー」


 エルカに連れられてきたのはパレス・レムリアの大きなテラスの下。そこは、既に大勢の人々で溢れかえっていた。


「よく、この場所が確保できたわね」

「はい。知り合いに取って頂いたのです」

「ほぉ、それはすごいじゃないか」


 中年の男が言った。


「だって、ここは……」


 そのとき、辺りから大きな歓声が沸き上がった。


「皆さん、テラスを御覧下さい!」


 エルカの声にツアー客達はテラスを見上げた。

 そこには、華やかな衣裳を纏った人々が並んでいた。


「皆さん、中央の方が現レムリア国王、レスティアール三世です!」


 どうやら、王族の顔見せのようだ。しかし、管理者により支配される現代では、それは象徴的なものでしかないが……。

 手帳をちらちらと見ながらエルカは続ける。


「えー、その左側にいるのがカスティア王妃。右がナミディア王女……」


 そこで、エルカの声が途切れた。ツアー客達もぽかんとした表情でそちらを見ている。メルフィーはぽつりと呟いた。


「ナミナさん?」


□■


「だから、私なんかが王族の方々と並ぶのは不自然です!」


 リムルは恥ずかしさで顔を真っ赤にして訴えた。


「そんなことはないわ。あの子達は嬉しそうよ」


 王妃の向こう側に並ぶ子供達を見ながらナミナは言った。


「それに、ナミナさんが王女様ってことも聞いていません!」

「うふふ。そんな細かいことは気にしなくていいのよ」

「気にします!」


 さらりと受け流すナミナに、更に顔を真っ赤にして叫ぶリムル。その肩をユッテはぽんっと叩いた。


「ナミナ姉はいつもこんな調子だから、気にしない、気にしない!」

「ユッテさんまで、そんなことを……」

「レムリアでは、王家の行事には国民も参加してもらうのが昔からの習わしなの。今回は急に二名の欠員が出たので私達に声がかかったというわけ。今日はいい日だわ!」


 子供たち同様、ユッテも嬉しそうな笑みを見せる。リムルは大きなため息を吐いた。


 一時間前。

 リムルとユッテは極彩色の世界を駆け抜け、その果てにあった扉を開いた。

 先程と同様に薄暗い部屋。ユッテがその先の鉄の扉を開くと……。


「あ、やっと来たわね。悪いけど、急いでくれる?」


 腕組みをして待ち構えていたのは、中年の眼鏡をかけた女だった。気ぜわしげに要件だけ告げると、リムルの手を引いた。


「あ、あの、何処へ……」


 その問いには答えず、女は部屋の外へとリムルを連れ出した。


「あ、なるほど……そうなんだ!」


 その後から、ユッテは楽しげについて行った。

 それから、半ば強制的に派手な衣装に着替えさせられ、ここにやって来たのだった。あまりにも慌ただしすぎて、リムルは半ばパニック状態であった。


「それでは、皆さんにお配りして下さい」


 ナミナの言葉を合図に、背後に控えていた執事達は大きなバスケットをテラスの列席者へ手渡した。ぼうっとしていたリムルに渡されたそれには、小さな袋に包まれた何かがたくさん入っていた。


「あ、す、すいません!」


 リムルは慌てて頭を下げた。リムルに手渡した、銀髪の初老の男は柔らかな笑みを浮かべ、一礼した。しかし、リムルには少し哀しげな笑みに見えた。どうしたのだろう?


「準備はいいかしら?」


 ナミナの声でリムルは我に返った。きっと何か事情があるのだろう。他人があれこれ詮索するのは失礼だ。リムルはそう解釈した。


「これ、どうするのですか?」

「こうするのよ!」


 ナミナはバスケットの中の袋を一掴みすると、観衆の集まるテラスの外へと投げた。


□■


「あ、始まりました!」


 エルカの声を掻き消す歓声が辺りから沸き上がる。テラスから降ってきた何かに人々は我先にと手を伸ばす。メルフィー達も負けずと手を伸ばし、人波に押しつぶされながらそれを手にした。


「袋の中に何か入ってるみたい。何だろう?」


 しかし、この人混みの中では確かめる術も無い。それならばマスター達の分もと、再び手を伸ばすメルフィーであった。


□■


 ぼうっと見つめるリムルの横で、ナミナは銀髪の男へ言った。


「この子、祭典は初めてなの。一緒に撒いて頂けるかしら?」


 そう言って、ウインクした。男は一瞬ハッとした表情を見せ、そして再び恭しく一礼した。


「かしこまりました。それでは、お嬢様、ご一緒させて頂いてよろしいですかな?」

「あ、ありがとうございます! それでは、よろしくお願いします!」


 そして、二人はテラスの前方へと向かった。


「私達のせいよね。何とかしてあげないと……」


 楽しげに袋を撒くリムルと銀髪の男、サイラスを眺めながら、ユッテは厳しい表情で呟いた。


□■


 三十分後。

 袋の争奪戦を終えたツアー客一行は、再びエルカを先頭に移動を始めていた。

 メルフィーは歩きながら袋を開けた。その中には小さな飴、そして種が一つ入っていた。エルカによると、飴には王宮の菜園でのみ採れる薬草が練りこまれているらしい。舐めてみると、微かに薬草特有の苦みを感じた。

 レムリアは最も時空間と接点の多い都市であり、そこに住む人々の身体にも時空病という形で影響を及ぼしている。この薬草にはその予防効果があり、種は薬草の種だそうだ。レムリアの民に広げたいとの国王の意志によるものらしいが、王宮以外では何故か三年で枯れるのだという。そこで、三年に一度の祭典の一環としてこの行事が続けられているらしい。


「でも、それ以上に」


 エルカは興奮気味に言った。


「ナミナさんが王女様だということが一番びっくりでした!」


 メルフィーは頷いた。今となっては失礼なことだが、初見はただの旅好きなお姉さんにしか見えなかった。


「世継ぎのために世界を見聞していると噂で聞いてたけど、本当だったんだねぇ。偉いねぇ。うちの孫にも見習わせないと」


 老婦人はしきりにナミナを褒めていた。王女と比べられる孫もたまったものではないだろうとメルフィーは苦笑した。

 そうこうしているうちに、一行は石橋を渡り、古びた門の前に辿り着いた。


「それでは、間もなく本日最後の目的地に到着します。ここを外してレムリアは語れません!」


 門をくぐると、エルカは立ち止まった。そこには石造りで三階建ての古びた大きな建物があった。


「皆さん、ようこそ、異世界図書館へ」

今は七月。猛暑の中、エアコンの無い自室で必死に書き上げました。(笑)

実はもっと早い時期に一度書き上げていたのですが、どうにも納得がいかなくて、結局書き直してしまいました。待って下さった皆さん、申し訳ない!


レムリア編は、もう暫く続きます。このペースで五つの世界を書き上げると、完結までの期間が想像できません。(汗)


でも、最後まで書き上げるつもりでいますので、よろしければ今後ともお付き合い下さい!

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