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宮廷魔導師選抜試験を記念受験した田舎者  作者: 古野ジョン


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11/12

エレナの助言

 史上初の短答式満点、そして九割超え。それを成し遂げたのが、他でもない自分だという。……何が起こっているのか本当に理解できない。


「満点って……いったいどうやって」

「あんたねえ、こっちが聞きたいわよ!」

「ええっ!?」

「バウアー君、これをご覧」


 後ろにいたヘルマンが、数字が羅列された紙を差し出してきた。どうやら合格者の詳細な成績が掲載されているらしい。


「これは公式に開示されている情報だ。合計点の内訳も載っている」

「へえー……」

「まずお嬢さんの成績。短答式187点、論文式は内容96点の構成135点で計231点。ああ、短答式187点も本来はとんでもない成績だよ」

「内容? 構成?」

「論文式試験は『内容』と『構成』に150点ずつ振り分けられているんだ。前者はそのまんまの意味、後者は論文らしい体裁がとれているかの評価だ」


 論じられている内容とその形式。それぞれの質で成績が決まるというわけだな。


「今回の合格者平均点は短答式137.0点、内容61.2点、構成118.3点だ。合計の平均点は316.6点」

「えっ? 内容も構成も150点ずつあるんだよね?」

「そうなんだけど、内容で採点官たちを納得させるのは難しいからね。対策のしやすい構成で点を稼ぐのが俺たち予備学校生の戦略なんだ」

「なるほど……」


 採点をしているのが魔導師――すなわち魔法の専門家――であることを考えれば、いくら勉強している受験生とはいえ素人の回答が彼らを唸らせることは出来ないのだろう。その代わり、体裁さえ整えれば構成点を貰うことは出来るわけか。


「それで、最低点は?」

「短答式の足切り突破に必要だったのは118点。論文式含めた第一次試験の合格最低点は296点だね」

「六割もなかったんだ……」

「もっと高いと思ってたの? ちなみに同点だった場合は論文式の点数が高い方が上位で、それでも差がつかなければ受験番号の早い方が上位なんだ」

「へえー、そうなんだ」


 などと相槌を打ったところで、ひとつ腑に落ちたことがあった。自分しかぎりぎりに出願する受験生がいなかったのが少し疑問だったのだけど、みんな少しでも有利な条件をとるために若い受験番号を目指していたんだな。なるほど。


「さて、ここからが本題だ。バウアー君、君の成績はかなり驚異的だった」

「と言うのは」

「まず論文式の構成については121点だった。ここは唯一お嬢さんが上回っている」


 合格者の平均点と同じくらい、というわけか。論文を読んだことはあったけど、実際にそれっぽいものを書く機会はほとんどなかったしな。むしろよくそれくらいの点数が貰えたものだ。


「そして短答式が200点。これはすごいよ」

「実は何問か分からない問題があったんだけどね。魔法理論なんかには知らないのもあったし」

「じゃあどうやって解いたの?」

「類推して解いて、あとは勘だね」

「そっかあ。君レベルになると運までいいんだね……おっと、話がそれた」


 ヘルマンはコホンと咳ばらいをした。


「一番すごいのは内容点なんだよ。バウアー君を除いた今年の最高点はお嬢さんの96点で、これも十分に高得点なんだけど」

「うん」

「……君はなんと150点中の147点だ。ほぼ満点に匹敵する数字だよ」


 ……147点? 3点しか落としてないってことか?


「あんたどうやったらそんな点数がとれるわけ!?」

「しっ、知らないって!!」

「あっはっは! お嬢さん、やっぱり予備学校育ちの養殖(・・)じゃ駄目なんだって!」

「魚みたいに言わないでよ!」


 二人がぎゃあぎゃあと言い争う中、俺はただただ呆然とするしかなかった。家の納屋にあったのは古い魔導書ばかりだし、あれらを基に書いたところでそこまで高得点が貰えるとは思っていなかった。王都では魔法がよく使われているから、その中身も当然のように発展していると思っていたが……。


「――まあまあ、落ち着いてよお嬢さん。それでバウアー君、次は第二次試験だよ」

「ああ……」

「あんた、帰るとか抜かしてたけど……流石に受けていくでしょ?」


 まさか……第二次試験に進むとは思わなかったんだよなあ……。エレナとヘルマンには当然受けていくとばかりに思われていそうだが。い、いやいや。いくら第一次試験の成績が良かったからって、次の試験からどうなるかは別だろうしな。


「あの……言いにくいんだけど……」

「何よ」

「……お金が無いんだよね」

「「金ぇ!?」」


 二人そろって目を見開いて、あんぐりと口を開けていた。いや、そうか。逆の立場になったらビックリだよな。自分を押しのけて首席になった奴が帰るとか言い出してんだから、流石に驚くか。


「うん。俺はウルムの外から来ていて、もう宿屋代が払えないんだ」

「はっ、はあ!? あんた、親とかにお金を――」

「両親は『王都見物でもして来い』って送り出してくれただけで……たぶん試験に受かるなんて思ってもいなかったんじゃないかな……」

「じゃあ魔導師試験はついで(・・・)だったってこと!?」

「まあ、言い方を変えればそうかなあ」

「あっはっはっは! 駄目だよお嬢さん、バウアー君に俺たちの常識は通用しないんだって!」


 ヘルマンは本当によく笑うなあ。しかし、金の問題ばかりはどうしようもない。両親は「旅費くらい工面してやる」なんて軽く言っていたけど、実は畑の一部を売り払って路銀を都合してくれてたみたいだし。……俺みたいな穀潰しのために実家が更地になるのだけは避けたいからな。


「あ~~もうっ! 仕方のない奴っ!」

「へっ?」

「キーガン・バウアー! ちょっと来なさい!」

「えっ、ちょっ、何?」

「いいから黙って来なさい!」


 エレナに手を引かれるまま、教会の事務所の方へと連れていかれる。そういや、さっき修道女が「合格者は事務所の方へお越しください」なんて叫んでいたっけ。でもなあ、手続きしたところで金はないんだけど……。


「失礼します!」


 事務所に入ると、受付台の向こうで多くの修道女が忙しなく働いていた。そこにゾフィーの姿はない。出願の際に相手をしてもらったのは本当にたまたまだったらしいな。


「あら、アーレントさん。あなたは既に……」

「私じゃないです! この人の合格手続きをお願いします!」

「ええっ!? ちょっ、だから金が無いって……」

「いいから! 早く手続きしなさい!」


 エレナは俺を台の前に突き放した。近くにいた修道女が名簿をぱらぱらとめくり、何かを照合している。


「ええと、受験票を……ああ、あなたですね。左腕を出していただけますか」

「えっ?」

「受験番号を振り直します。魔法で身体に刻んでおくことで、受験票代わりになるんです」

「なんでそんなことを……」

「面倒ごとを避けるためよ。合格者を妬んで受験票を切り刻もうとする奴がいるの」


 ああ、そういうことか。紙の受験票だと紛失なり盗難なりの可能性があるから、受験者の左腕に刻み込んでしまおうというわけか。受験者全員にこの処置をするのは大変だから、第二次試験以降はこの形式で……ということなのだろう。


「では、こちらを」


 修道女が印章のような物を取り出してきたので、それに合わせて左手首を出す。微弱だが魔力を感じるな、これで刻印するんだろう。それにしても……修道女が魔法を使うなんてなかなか奇妙な光景だな。


「失礼します」


 印章が押されて、俺の左手首に「1」という数字が刻まれた。これが新たな受験票というわけか。


「こちらは期間限定の印影です。合格されるか、途中の試験で落第された場合には消えます」

「はあ、なるほど」

「手続きは以上です。第二次試験は一週間後ですから、また教会にお越しください」


 一週間後、と言われてもな。金の問題は解決していないし――


「シスター、この人は『1』番ですよ」

「あっ、そうでした! 失礼しました」

「へっ?」


 エレナの言葉に、修道女がハッとして後ろに下がっていった。何かと思えば、上役らしき修道女と何か会話を交わして……小さな紙を持って再びやってくる。


「お待たせしました。キーガン・バウアー様、こちらが宮廷からの御下賜金です」

「へっ?」

「第一次試験を一位で突破した受験生は、国王陛下から直々に下賜をいただくことが出来る。未来の宮廷魔導師候補としての期待(・・)を込めてね」

「えっと……」


 目の前に差し出されたのは、証書のような紙。国王からの下賜がこんなあっさり渡されることも驚きだが――


「……いっ、一千万ベルク?」


 ……何より金額に驚かされた。一千万ベルク、というのはうちの家族全員が二年は暮らせる額だ。そんなものを、国王陛下から――


「これで分かったでしょ。あんたはもう帰れない」

「えっ?」

「だって、まさか――」


 どうやら、俺はもうただの田舎者ではいられないらしい。この王都で、宮廷魔導師選抜試験という過酷な戦場を進んでいくしかないのだ。そう、なぜならば――


「陛下の一千万ベルクを持ち逃げ(・・・・)なんて、しないわよね?」


 期待(・・)という名の枷を、負わされてしまったからだ。

 お読みいただきありがとうございます。


 ここから先は本筋とそこまで関係がない、データがお好きな方向けの補足情報です(読み飛ばしても問題ありません)。


 第一次試験についてですが、乱数等を活用して100人分の詳細な点数を決め、表計算ソフトを用いて統計をとっています(ですので文章中の平均点などは「本物」のデータです)。

 以下、すべて合格者内のデータです。


(最低点、平均点、最高点の順に)

短答式 118点 137.1点 200点


内容点 31点 61.2点 147点

構成点 101点 118.3点 135点


論文計 151点 179.5点 268点


合計点 296点 316.6点 468点


 合計点について、標準偏差は24.0点でした。(注:あくまで各分野ごとのデータなので、それらの合計が「合計点」カテゴリのデータと一致するとは限りません)


 各登場人物の成績も掲載しておきます。


(短答式/内容/構成/論文計/合計)


キーガン 第1位 200/147/121/268/468

エレナ  第2位 187/96/135/231/418

ヘルマン 第31位 141/70/110/180/321

リーザ  不合格 57/-/-/-/-


 合格者のみのデータではありますが、参考に偏差値も計算してみました。


キーガン 113.2

エレナ  92.3

ヘルマン 51.9

(最下位)41.4


 以上です。

 長々とお付き合いいただきありがとうございました!

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