10.濁った反射ー6
……帰り道、通りは学生たちや彼らを家まで送る馬車で騒がしく混雑していた。
ここの臭いはかなり不快だ。カビ、生ゴミ、馬糞、それに蓋のない下水の臭いが混ざり合っているし。
馬車や馬が巻き上げる埃、それに少ない植生のせいで、暑さと湿気が最悪なことになっている。個人的にこの細かいところが嫌いで、歩くのをさらに辛くさせる。
ここから孤児院までの距離は、ていうか、ちょっと長い。歩いて一時間近くかかる。急な坂道も死ぬほど疲れる。でも、こういう時間は嫌いじゃない。人生について考える時間が持てるから。
どうすればもっと強くなれるか?どうすれば認められるか?どうすれば結婚を強制されずに済むか?どうすればもっと女の子らしくなれるか?
そんなことばかり考えてしまう。
『お前はいつも優しい』『いい子だ』『俺は強い』『すぐに戻る』――彼の言葉も頭から離れない。
歩きながらそんなことを繰り返し考えていたら、いつの間にか家に着いていた。
自分の部屋に入ると、朝に焚いたお香の甘い香りがした。すぐに制服を脱ぎ、ドアに鍵をかける。部屋で下着姿になるのは恥ずかしいけど、この方がすごく落ち着く。でも、部屋着に着替えたほうがいいか。
これで、隠し場所から私の大切なノートを取り出せる。ていうか、あのお節介なバカ、アルマリアに見つからないように新しい隠し場所を考えないと。
物語で埋め尽くされたページをめくり、タイトルを読む。『ブラッドステイン』、『好奇心は猫を殺す』、『千の剣の王子と姫』、『レオン』。全部私が考えた話だけど、ほとんど未完だ。いつか終わらせなきゃ。
それでも、新しい話を書き始めたい。授業中にすごいいい話を思いついたんだ。こんな感じ。
『気品ある女騎士の物語
奈落で生まれた高貴な女騎士は、世界の前に立ちはだかる。辱めを受け、自分の価値を見出せなくても、彼女は忍耐強く、自分の内なる力を信じていた。ある日、彼女を信じてくれる人と出会った。その人は他の誰も見なかった彼女の価値を見抜き、自分の屋敷へと連れて行った。王子であるその高貴な男は、彼女を馬に乗せ、剣術を教えた。
しかし、世界は悪霊に荒らされ、とても悲しく空虚だった。高貴な女騎士は、騎士の剣を使い、英雄的な旅に出た。恐ろしい悪魔を倒し、彼女は戦いの女神として称えられた。そしてみんなが彼女の友達になった。彼女を軽蔑し、弱いと見ていた者たちは皆、実は彼女が強力でとても美しいことに気づいて驚いた。彼女はお金持ちの王子様と結婚し、いつまでも幸せに暮らしました』
完璧!ノートを閉じてしっかり隠せば、お風呂に行って体を洗える。
お湯はもう温かいし、今は女子の入浴時間だ。ほとんどの子は外にいるから、一番風呂に入れるし、戻ってくるまでかなり時間がある。最高じゃん。
学校にあるような鏡はこのお風呂にはないけど、水面の反射がまだ気になる。
鏡は好きじゃない。まるでその向こうにもう一つの知らない世界があるみたいで、そして今、目の前に見える私は私のふりをしているけど別の誰かで。
つまらない妄想だって自分でもわかってる、でもどうしてもそういうことをかんがえてしまって気持ち悪くなる。
壁の汚れとか別のものに意識を向けようとしても、目は水面の反射に引き寄せられる。だから水面を叩いて、反射を濁らせ、像を歪ませた。これでいい。
「今日はな〜んて静かな日なんだろ」
伸びをしながら呟くと、その言葉が反響して止まない。私は一匹狼、理解されない存在。でも、ここでこんなに一人ぼっちなのはやっぱり気になる。
シルメリアと一緒にいることが多い子供たちとも、あまり交流しないし。彼女、あの呪いの話どう思ってるんだろ?好きな人とかいるのかな?
感情って理解するのが難しい。いつだってすごく複雑だ。自分の気持ちさえ分からないのに、他人のなんて分かるわけない。
今日セリナが私のことを雇うとか言ってた。ていうか、あの甘やかされたお嬢様、私をお金で買えると思ってるんだ。でも、権力者が好き勝手できるって考えるのは面白い。
だとしたら、それこそ私が必要なものだ。力。力があれば、すべてが可能になる。みんなが私を愛し、私の足元にひれ伏す。
そう、私は世界の女王になるの。まあ冗談だけど、本当になったらいいのに。そして私の『個性』が目覚めた時、それを現実にしてやるんだ。




