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滅びの姫は愛を知る  作者: 白菊
2/2

2 転生

私は、ハッと目を覚ます。

最後に見たのはあの女(フロレンス)の顔。

私を追放したあの女。

ふざけるなっ!

私を惰弱で虫けらのような人の子に落とすだと!?

私は神界でも最高神に当たる十神の一人、破壊と再生を司る女神ティアラベリアだぞ!?

そんな私が人間に!!

ありえない!あり得てはならない!

あの女への怒りを抑え切れず、私はいつものように、周りへと当たり散らそうと手に力を込める。

そして、あたり一体を焼き払おうとした。


しかしーー

いくら力を込めても周りにはなにも起こらず……

炎さえも現れない。

どういうこと?

そこでやっと気づいた。

私の手が大人の手ではなく、幼子ぐらいの手の大きさだということに。

私は、先程まで二十前後の女の姿をしていたはずだ。

それが幼子サイズにまでなっているということは、私はもう転生してしまったというのか!?

ハッと改めて辺りを見渡すと、私のいる部屋は明らかに先程までいた宮殿の部屋ではない。

白色と青色であしらわれた部屋の内装は、まさに豪華絢爛と言っていいだろう。

私はその部屋の、緻密な刺繍とレースのベッドに寝かされていた。

ここはどこだろう?

先ほどまで抱いていた怒りを忘れ、呆気に取られて私はキョロキョロと周りを見る。

すると、その時。

ガチャリと部屋の扉が開いて、一人の花瓶を持ったメイドが入ってくる。

ちょうど良い。この人間に聞くとしよう。

そう思い、私はベッドから出ようとする。


だが、そのメイドは私が起き上がっているのをみると目を見開いた。

バリィーン!と音がして、メイドが手に持っていた花瓶が落下し割れる。

「お、じょうさま……?」

ポツリとそう呟いたメイドは、まるで、信じられないと言わんばかりに、花瓶には目を向けず、呆然と立ち尽くしている。

なにを驚いている?

しかし、私が口を開く前にメイドは、ぐらりとよろけながらもバタバタと部屋を出ていく。

なんだあいつは。忙しい奴め。


しばらくしてそのメイドは戻ってきた。

……大勢の人間を連れて。

一番先頭を切って走り寄ってきたのは、おそらく貴族であろう、他の者たちより豪華な服装をした男女。そのすぐ後に、あのメイドを含む、大勢の使用人と思われる者がつづく。

「アシュレイ!」

そう叫んだのは、豪華な服装をした男の方。

「目覚めたのね……アシュレイ……ああ、本当に良かった」

呆気に取られる私の手を取り、そう言ったのはもう一人の女だ。

どちらもなぜか、涙ぐんでいる。

今度こそ口を開こうとしたその時だ。


「母上!アシュレイが目覚めたと聞きましたが……」


新たに、バン!と扉を開けて入ってきたのは、目の前の男女にそっくりな少年。

おそらくこの二人の子であろう少年は、ベッドから起き上がった私に目を見開き、駆け寄ってくる。

「良かった!アシュレイ!やっと目覚めてくれたんだね!」

無邪気に微笑む少年は私に笑いかける。

……誰?

いい加減誰か教えてくれないだろうか?

私は一体誰で、ここはどこなのか。

困惑している私に気づいたのか、男の方が、自分を落ち着かせるかのように深呼吸をしたあと、口を開く。。

「ごめんね、驚かせてしまっただろう。初めまして、と言った方がいいかな?僕は、ウィリアムズ・グレアム・モーガン。君の父親だ。そして、君は、アシュレイ・ティアーズ・モーガン。私の娘だ」

そう言って男は、私のことについて話し始めた。

それを要約するとこうだ。

アシュレイ・ティアーズ・モーガンは、トワイゼント王国という国の、東部の守りの要である辺境伯の令嬢として生まれた。

しかし、私は誕生直後から生死の境を彷徨い続け、生まれてからずっと昏睡状態にあったそうだ。

ちなみに現在は六歳。

六年間眠り続けていたらしい。

「本当に、貴女が無事に目覚めてくれて良かったわ」

そう微笑んだのは、サハラシェード・スーリヤ・モーガン。ウィリアムズ(私の父親)の妻で、私の母にあたる人らしい。

サハラシェードは当初、私が目覚めたことにぼろぼろと泣いていた。

今も目がうるうるしているが、その表情(かお)からは、私の回復を心から喜んでいることがわかる。

「これからよろしくね。僕の可愛い妹」

私の手を取り、元気よくぶんぶん振って握手をしてきた少年は、エセルバート・ヴァーカー・モーガン。私の兄にあたる人らしい。


なんで、この人達はーー


「……シイの?…………」

「すまない、聞き取れなかった。なんて言ったんだい?アシュレイ」

私の小さな声が聞き取れなかったようで、ウィリアムズが聞き返してくる。

「な、ぜ……ワタシに……やさシイの?」

言葉を今まで発したことがないからか、少し辿々しくなってしまう。


ただ、これは私が本当に知りたかった事だ。

なんで私に優しく接するのか。

私の目覚めを喜ぶのか。

私には理解できない。

コイツらの考えがわからない。


「それは当然でしょ。私たちは家族なんだから」


サハラシェードの言葉が胸に刺さる。

家族ーー私の触れたことのないもの。

でもどこか心地よいと感じてしまうもの。


「そう……」


でもそれは、ティアラベリア(わたし)に与えられたものではない。

アシュレイという少女に与えられたものだ。


私は、心が冷えていくのを感じた。



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