第五十三話
黎慈は開きっぱなしだった寮のドアを閉め、二階にある空き部屋へと向かうことにした。
空き部屋の前についた。
部屋の扉を開けようとするが、びくともしないくらいガッチリと閉められていた。
「和寿、帰ったよ」
黎慈がそう声掛けをすると、ゆっくりと扉が開く。
扉が開くと、衣百合が立っていた。
衣百合は廊下を見渡して確認していた。
「大丈夫…だよね?」
「もちろん」
「良かった…」
衣百合は気が抜けたように黎慈に寄りかかった。
「大丈夫か?」
黎慈が衣百合にそう問いかけると、今の状況に慌てて立ち上がった。
「ああごめん…」
「気にしてないよ」
黎慈の声に安心したのか、表情が緩んだ。
「もしなにかあったらって思ったら、とても気が気じゃなくてさ…」
黎慈は照れくさそうに笑いかける。
だが、黎慈の中にある感情が爆発しそうになっていた。
「ありがとね…でも大丈夫だよ」
黎慈は衣百合が大切な存在になっていることに気がついた。
咄嗟に体を引き寄せる。
胸の鼓動が飛び出しそうなほど高揚している。
「これからは、心配させないようにするよ」
二人の間には特別な雰囲気が流れていった。
「やっと気づいてくれたんだ。私の気持ちに」
衣百合の頬は赤くなっていた。
「…遅くなって、ごめん」
衣百合が首を横に振る。
「ううん、気にしてないよ」
衣百合が黎慈の手にそっと触れる。
物欲しそうな顔で黎慈を見ている。
黎慈はそれに応え、衣百合の手を握る。
二人が感傷に浸っていると、ロビーのドアが開いた音がした。
「おーい、二人ともいるんだろ?」
聞こえてきた声は亮のだった。
二人は触れ合っていた手を瞬時に離す。
「上にいるよ〜」
衣百合が大きな声で亮を呼んだ。
「部屋に戻ってるね」
黎慈は衣百合にそう伝え、亮が来る前に自室に戻った。




