第四十九話 変化
黎慈と衣百合は二人で帰ることにした。
ある程度の距離感を保っていた。
身長差はありつつも、側から見ればカップルのそれだっただろう。
「実はさ、ちょっと緊張してるんだよね」
黎慈は、自分にしか見せない衣百合の一面になんとも言えない感情を抱いていた。
信頼の証ではあるのだが、その一面にどう接したらいいか分からなくなっていた。
学校などではしっかり者のイメージがついており、この一面を知っていること自体になぜか動悸がする。
「衣百合も緊張するんだな」
黎慈は一言だけ口から漏れる。
黎慈は衣百合を見ようとはせず、帰り道の道路の奥を見ていた。
よく顔は見えなかったが、顔はぷすくれていた。
「人をなんだと思ってるのさ…」
衣百合は肩をガクッと落としていた。
衣百合は冗談混じりでそう言いつつも、緊張は止まらないようだった。
少し視線を落とすと、手が震えていた。
『何かをしてあげたい。言葉をかけたい』
そうは感じていた。
だが、何を言えばいいか分からない。
手を近づけようとしたが、結局触れ合う直前に手を離した。
「まあ、疲弊しすぎて倒れんなよ」
気持ちを悟らないように、なるべくいつも通り返した。
声の震えも抑えたつもりだった。
必死に普段通りを装う。
「ありがとね」
衣百合のその言葉には、様々な感情が乗っているのを感じた。
これが恋愛的な感情なのかは分からない。
二人は緊張しながらも、寮に帰った。
寮につくと、ロビーにはすでに亮がいた。
亮は二人で帰ってきたのを見て察したのか、すかさずニヤリと笑った。
「ごゆっくり〜」
亮はそう言うと、2階にある自分の部屋に上がっていった。
「あいつ…」
黎慈は亮の言葉に少し苦笑いをしながら、軽くため息をついた。
茶化してくる分、これが亮なりの気遣いなのだろう。
「はあ…あいつ…」
衣百合も黎慈に続いてため息をついた。
「亮って昔からあんな感じなのか?」
黎慈はロビーにあるソファに座った。
「高校より前の亮は知らないけど、一年生の時とは変わってないよ」
「…まあ、確かに変わってないような気がするな…」
「でも、今日はなんかありがとね」
「聞いてもらってスッキリしたよ」
黎慈は少し微笑んだ。
「別に大したことはしてないよ」
肩をすくめた。
「そんなことないよ。黎慈くんは誰かの支えになってると思うよ。今の私みたいにさ」
衣百合もソファーに座りながら頬を赤らめながら、そう答える。
「そう思ってもらえるなら嬉しいよ」
「じゃあ、これからも頼らせてもらうね」
衣百合はそう言った。
頼られるのは悪い気がしない。
「もちろん。いつでもウェルカムだよ」
自然に言葉が出た。
不意に出た言葉に、頬が熱くなった。
衣百合もまさかの言葉に、顔全体が沸騰しそうなほど赤くなっていた。
「じゃ、じゃあ部屋に戻ってるから!」
黎慈は足早にソファーから立ち、自室に戻った。
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