シスター登場①
――どこかの町『コガタウン』
「のどかな所だな……」
季節はもうすぐ夏になるのだが、この町には爽快なそよ風が吹いている。とても過ごしやすい気候であり、近くでは川のせせらぎが聞こえてくる。
ピクニックしたい。僕はそう思った。なんか最近、ダンジョンに潜ってばかりだったので、こういうの久しぶりなのだ。
だが、今回はここに遊びに来たわけではない。
勇者としての大事な用事があってきたのだ。
というのも、僕の寝泊まりしている宿屋に、こんな郵便物が届いていたからである。
「勇者様の仲間にしていただきたく、この手紙を送ることにいたしました。よければ、同封のプレゼントを確認のうえ、御一考いただけないでしょうか」
だいたい、このような内容が書かれていた。
そうなのだ。なんと『僕の仲間になりたい』という奇特な人物が現れたのだ。
知っての通り、僕の仲間は現在二人で、パーティーの基本は四人。一人分の枠が空いている。仲間になりたい者がいれば、十分に余裕がある。
差出人は、エレイン・クラネットとなっており、住所もきっちり書いている。要するに、身元のしっかりした人物であり、レオーネもヴァージルもとても安心した様子だった(僕がバカなので詐欺に引っかかったと思ったらしい)
実際に会ってみて、良さそうなら入れてみれば。そう二人に言われた。僕は勇者で、勇者パーティーのリーダーは僕。最終的な判断は僕に委ねられているのだ。
「ちゃんと使える人物か、きっちり審査しないとね」
名前だけでは判断できないが、女性だろうか。かわいい娘だといいな。すでに娘って決めつけてるけど。
あと、ここまで読んだあなたは、『あれ? あらすじと違うよ?』とか『話が飛んでね?』とか思っただろうが、気にしてはならない。というか、今更だから。
★
「……ふむ。さっぱりだ」
町の中を散策してみるも、先ほどから同じところをグルグル回っているだけだ。
「……おかしいな。地図によると……」
と、地図を回転させてみるが、無理だ。行き方が分からん。
勇者なのに、地図も読めんとは。僕、バカすぎ。
「これじゃあ、同じところを行ってるだけだよな」
今度は、趣向を変えてあっちの道に行ってみよう。
僕は右の道はやめて、左側に行くことにした。
何故なら、人間というものは左右どちらかを選択する場合、無意識に右を選んでしまうもの(誰かの受け売り)。
きっと、この道を作った人間は捻くれ者なのだろう。通行人を引っかけるために、わざと左側を正解にしたのだ。
「そうだ。この左だ。この左の道が良い」
意味不明な納得をして、僕は左に進んだ。
そして、数十分後――。
「迷った――ッ!」
どうやら、道を作った人間は正直者だったらしい。
素直に右を選んでればよかったよ。
「ど、どうしよう。森の中に入ってしまった」
ひょっとして、樹海でしょうか。
このまま行くと、僕は遭難して、みっともなく餓死するんでしょうか。
勇者、××暦〇〇〇年没 (死因:遭難)
ダサすぎる。せめて、戦死させて欲しい。
そのときだった――。
「きゃあああああああっ!」
女性の叫び声が、森中に響き渡った。
「よ、よくあるイベントが発生したぞ」
行かないと。
僕は根が善人なので、こういうとき無意識に体が動いてしまうのだ。
僕が走って駆け付けると、女性が道の真ん中でペタリと座り込んでいた。
服装から考えてシスターと思われる。おそらく、薬草を採取するため、森の中に入っていたのだろう。
そして、その向かいにはモンスターがいる。大きなスライムだ。ドロドロ粘液状の怪物で、めちゃくちゃ強そう。もっとデフォルメして欲しかった。
「状況から考えて襲われてるんだよな」
当然か。なにせ道の側から、あんな怪物が出てきたらびっくりする。腰を抜かして座り込むのも無理はない。この世界では野生のモンスターがいることは少なく、基本はダンジョンの中にいる。だが、稀に遭遇することもあるのだ。
「ウバアアアアッ!」
うばあってなんだ。鳴き声が怖すぎんだろ。
そいつはガバっと巨大な口を開けた。
食べちゃうの? シスターをおいしくいただいちゃうの?
「くっ。仕方ない。『チャージアクション』!」
――キイイイイイイン!
僕の両足が金色に輝いた。
さらに、行動権を消費。
ちなみに、重要な戦闘でなければ、すべてマップアクションのように使用する。
マップアクションとは戦闘以外、どこでも使えるスキルみたいなもの。
行動権の消費とか、考えないで使用していくってことだ。
〈ダッシュ〉〈ダッシュ〉〈ダッシュ〉〈ダッシュ〉
ダッシュを四枚重ねる。
そして、シスターとモンスターの間に割り込むように、高速移動する。
シスターが驚いた顔で、僕を見た。
「あ、あなたは……」
「大丈夫? 助けに来たよ」
僕は優しく微笑みかけると、スライムの方に向き直った。
「ウバアアアアッ!」
ドロドロの粘液をした怪物が、うばうばと鳴いている。ここからでは目元は覗けず、耳も鼻もない。なんでも飲み込みそうな口が異様に印象に残る。
「シスターのことは気になるけど……」
まずはこのモンスターをなんとかしないと。