チャージアクション(応用編)
――タッタラ迷宮『第6層』
「はあああああっ!」
僕は気合を入れて叫ぶと、
「〈チャージアクション!〉」
勇者の奥義『チャージアクション』(以降はCAと呼ぶ)を発動した。
その効果は、『1~3ターン目の行動権を放棄して、後のターンの行動回数を増やす』というものである。
行動権をチャージして、後になってから使用する。チャージ回数は最大三回。ラスト4ターン目に、四回使用できる。そういう感覚だと思ってくれればいい。
で、ここから本題だが……。
〈ジャンプ〉〈ダッシュ〉〈ダッシュ〉〈ダッシュ)
僕はピョンと飛び跳ねる。だいたい三メートルほど。そして、そこから空中に浮かんだまま、ダッシュを始めた。
シュッ! シュッ! シュッ! 風を切る音がかっこいい。
いわゆる空中ダッシュ。そう、あの空中ダッシュである。
「えええええっ! 僕、空中ダッシュなんてできたの――ッ!」
「って、あなたね。さっき説明したでしょう」
キュオ鳥と戦ったときは、攻撃しかしなかった。
あれを見て、『攻撃を四回してるだけじゃん。何が凄いの?』と思われたかもしれない。
だが、あれはCAの最も代表的な使い方であり、説明書の最初に乗っているようなレベルである。
CAを侮らないで欲しい。
この能力の本当に凄いところは、『好きなアクションを重ねられる』ということだ。
好きなアクションならなんでもだ。
今、あなたが想像したそのアクションでも一向にかまわないのだ。
ここからはそうした応用例をお見せしよう。
〈ガード〉〈ガード〉〈ガード〉〈ガード〉
ガード(防御)が四枚。
最初に言っておくが、防御を四回するわけではない。防御力が強化されるのだ。
二枚で強ガード、三枚でタンク並み。四枚でタンクが強ガードをしたときの防御力に匹敵する。すっげえ硬くなるということだ。
〈眠る〉〈眠る〉〈眠る〉〈眠る〉
少し面白い例。これも四回眠るという意味ではない。よく『睡眠を溜めたい』という話を聞くが、CAならできる。普通に睡眠するよりも回復力がアップする。だいたい二回で15時間、四回で30時間分の回復力。
〈聴く〉〈聴く〉〈聴く〉〈聴く〉
これまた面白い例。聴く能力をアップさせることができる。遠くの物音を聞きたいときに便利。四枚重ねれば、一キロ先の物音も聞こえる。ちなみに、〈見る〉や〈嗅ぐ〉でもできる。それぞれ、視覚と嗅覚がアップする。
〈投げる〉〈投げる〉〈投げる〉〈投げる〉
意外と効果的。投擲能力をアップさせることができる。飛距離は伸びるが、球速は上がらない。命中率を上げたい場合は、一枚目を〈狙う〉にしてみよう。
〈吸い込む〉〈吸い込む〉〈吸い込む〉〈吸い込む〉
何を吸うかにもよりそうだが、最も使われそうなのは『空気』だろうか。先に空気を大量に吸い込んでおき、水に潜る。ガス室に入るみたいな。
★
僕でもわかるCA教室が終わった。
つまり、『アクションを四つ重ねれば、そのアクションが強化されますよ』。こんなシンプルな答えだったのだ。
その結果、僕は一つの結論に行きついた。いや、行き着いてしまったのだった。
「もしや、この『チャージアクション』って、めちゃくちゃチート能力なんじゃ……」
これがあれば、ダンジョン攻略もラクラク行けるし、魔王を倒すことだってできるんじゃ……。
「僕はチート主人公だったんだ」
ここから、チート能力で無双して、大活躍。
モテモテハーレム路線に意向するんだ。
「ねえねえ、レオーネ。ヴァージル。聞いて聞いて」
僕は二人を呼び集めて、額に指を当てた。
「……ふう。やれやれ」
「何? 疲れたの?」
「僕、また何かやっちゃいました?」
「うん。まだ何もやってないわよね」
「この小説がおかしいって、それ面白いって意味だよな」
「いや、頭がおかしいって意味だと思うぜ」
う~ん。今いち決まらないな。
普段、カッコつけてないせいか、あんまりしっくりこない。
「フロトくん。そのチート能力、私のために使って欲しいのだけど」
おお。出番だ。僕はきりっとした顔で、レオーネの頼みを聞いてあげることにした。
「ここにね。お野菜があるんだけど」
ジャガイモやニンジンなどの根菜類である。
「これを全て切るのが、メンド……難しいの。お願い。なんとかしてくれる?」
「なんだそんなことか。僕に任せて」
手元には包丁が一本ある。正直、これ一本で肉も魚も野菜も切ろうなんて無理があるが。
大丈夫。僕には無敵のチート能力、CAがあるのだ。
〈切る〉〈切る〉〈切る〉〈切る〉
――シュバババババッ!(超強化)
野菜が細切れになっていく。ただ細かく切ってるわけではない。火の通りを均一にするために、最適なサイズで均等に切り分けて行く。
「ついでに、このお肉も切って~」
「やれやれ。僕は普通にやってるだけなんだけどな」
手元にある材料は全て切り終えた。
「さすがフロトくん。これからも頼むわね」
褒められた。なんかレオーネに褒められるの新鮮だな。
「お~い。フロト。こっち来てくれよ」
今度はヴァージルか。
「これを今から煮込もうと思うんだが、かったる……難しいんだ。頼む。俺の代わりにやってくれよ、チート主人公」
「よしきた」
この鍋の中身を煮込めばいいんだな。
僕にはお茶の子さいさいだ。
〈煮込む〉〈煮込む〉〈煮込む〉〈煮込む〉
――コトコトコトコト(超強化)
鍋を焦がさないように、適温で丁寧に……。
おお。良い匂いがしてきた。そろそろ完成しそうだ。
「できたわ。完成よ。ビーフシチュー」
みんなで円卓を囲み、早速シチューを食べてみよう。
「すごくおいしいわ」
「まるで店で食うシチューだぜ」
確かに、これ最高だぞ。
ダンジョンでこんなおいしいシチューを食べられるなんて。
「さすがフロトくんね。さすフロ」
「よっ! チート主人公!」
……あれ? なんか自分が求めてたのとは違うような……。
まあ、いいか。