表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

鳥モンスター


 ――タッタラ迷宮『5階層』


「私たちは手伝わないわよ」

「……え?」


 扉を開ける直前になって、レオーネがなんか言い出した。


「それはどういうこと? もしかして、新人いびりが勇者パーティーの伝統行事とか? もう『お客様』は終わりで、ここから徹底的な新人イジメが始まって……」

「全然違うわ。フロト。あなたさ。自分が何者なのか、分かってる?」

「勇者だけど」

「そう。そして、私とヴァージルは勇者のお供。いわばサポート役」


 ちょっと何を言ってるか分からない、と感じる人のために説明しておくと。

 

 彼らは別に僕がスカウトして仲間に引き入れた、というわけではない。

 神託によって選ばれて、『勇者のお供』になったのである。


 したがって、僕には魔王を倒し、世界を平和にする使命があるように、彼らには彼らの使命がある。

 それがなんなのか僕は知らないが、とにかく僕とは使命が違う。


 すごく簡単に言うと、『最後まで一緒にいてあげられるわけじゃないんだよ』ってこと。

 ラストバトルは僕と魔王との一騎討ちのようになるのだろう。その先を見据えて行動しろと。


「あなたの師匠は立派な人だし、その師匠がここに送り出したんだからあなたには相応の実力があるんだと思う。それに、あなたは素直で真面目だし、これまで頑張ってきたのも分かってるつもり。でも、圧倒的に経験値不足。今のままじゃ、魔王に辿り着く前につまずくわ」


 確かに、レオーネもヴァージルもベテランっぽい空気感を出しているよな。

 対して、僕は新人のペーペー感まるだし。精進せねば。


「うっす。一人で行ってボスの首を取ってくるっす」

「その意気よ。さくっとやっちゃって」


 というわけで、僕は扉を開けて奥に進む。


「キュオオオオオオン」


 モンスターの咆哮がダンジョン内に響き渡る。


「これは……」


 鳥、だろうか。鳥といっても色々いるだろうけど、そいつはやたらと長い尾羽と緑色の体毛を持っている。

 結構、美しい鳥である。ペットとして飼いたい人もいるんじゃなかろうか。


 体長は3メートルほどある。大きいし、確実にモンスターである。


「う~む。しかし……」


 はっきり言うと、これは簡単ではないだろうか。

 

 鳥モンスターと言えば、厄介なのは飛ぶところ。大空をブンブンと飛び回られると、狙いを定めるのが難しくなる。そして、空と大地では距離があるので、遠距離攻撃しか使用できない。

 対して、鳥の方は空から物を落とすだけで脅威になる。常に頭上に気を配らなければ、落下物にぶつかって大ダメージを受けてしまう。


 だが、考えても見て欲しい。ここはダンジョンという名の洞窟。洞窟と言えば狭い。天井が低い。突き抜け構造にでもなっていない限り、せいぜい10メートルが良いところだ。


 飛び回るなんていう芸当は、まず不可能。

 というか、これ設計ミスじゃないか? 狭いダンジョンに鳥を配置って……。


「よし。近づいてみよう……」


 僕はそろりそろりと近づいてみる。

 鳥は動かない。ペタンと座り込んだままだ。


「攻撃してこないな……」


 では、まずは僕のターンってことだな。初撃は何にしようかな。


 頭をつぶ……やめておこう。頭蓋骨って思ったより固いし、成長期の非力な僕では、一撃で粉砕なんていう芸当は無理。武器も剣だし、ヴァージルのような鈍器でもない。


 狙うなら頭より柔らかいところ……首がいい。首を切り落とせば、生物はみんな死ぬ。当たり前だけど。


「けど、頭が下がってるから、首が見えないな」


 どうすんだ僕。


「そうか。あれを使おう」


 僕は左手を前に出すと、ムムムっと力を込めた。

 すると、そこに30センチほどの球体ができた。


 レオーネが言っていた『ピノ』と呼ばれる魔法である。

 ちなみに、光属性。属性の切り替え? んなものできるか!


「よ~し。行くぞ! 〈ピノ〉!」


 僕は鳥に向かって、球体を投げつける。

 と、同時に前方にダッシュ!


 勇者の〈ピノ〉は他の奴より、やたらと輝く。

 間近で見ると、眩しすぎて目を背けてしまうだろう。


「キュオオオッ! キュオオオオッ!」


 予想通り、鳥が頭を動かしだした。


「……よし!」


 頭が上がったおかげで、敵の首が丸見えになった。

 今がチャンス!


「はああああああっ!」


 僕が敵に突っ込むと、


「〈スラッシュ〉!」


 あっ、技名である。

 横や斜めに切るときは、これを叫ぶ。


 ――ズバッ! キィンッ!


 凄まじいエフェクト音と共に、敵の首に赤い線が走る。

 クリーンヒット! 完全に決まったようだ。


 数秒後、ボトリッと音を立てて、鳥の首が地面に落ちる。


「……やれやれ。終わったな」


 頭を潰せば、敵は死ぬ。ヴァージルの教え通り、しっかりと敵の首を落とした。

 これで終わり。

 終わりのはずなのだが……。


「キュオオオオッ! キュオオオオオッ!」

「……おかしいな」


 首を斬られたのに、なんでこいついつまでも鳴いているんだろう。


「……まあ、最初から変だと思ったんだよな。何もしてこないし」


 頭が空っぽな僕でも聞いたことがある。


 何度、首を斬られようと、何度、息絶えようとも復活できる鳥がいると。


「……こいつ、不死鳥か」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ