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クイズ

「フハハハハハハッ!! 我こそは魔王ジャアクタビア!!」


 その身体は空を覆い尽くさんばかりの巨体だった。

 頭部は獅子、皮膚は硬い鱗で覆われており、尻尾には機械のようなものが付いている。


 どういう種類の生物かと聞かれたら、一言では答えられない。 

 神々が生体実験により生み出した失敗作が、偶然にも力を手に入れた。


 これが魔王。

 幾多の強者たちの上に君臨する魔族たちの王。


 しかし、なんというオーラだ。

 相手とは距離が離れてるはずなのに、この位置まで気迫が伝わってくる。


 息苦しい。立っているのもやっとだ。


「どうした? 怖気づいて声も出せぬか」


「……くっ」


 何をしているんだ僕は。たかが魔王だろ?

 今まで過酷な修行をこなしてきた。数々の修羅場を潜り抜けて来た。


 自信を持て。それだけの努力はしてきたはずだ。

 この聖剣があれば、ドラゴンだって一人で倒すことができるんだ。


「……僕は勇者フロト!」


 そう言って、僕は魔王に剣を突きつけた。


「お前を倒して、必ずこの世界を救ってみせる!」 


 僕は負けてはならない。

 何故なら、僕は勇者。この世界でただ一人の存在。


 魔王を倒し、人々の希望になる。

 それが僕に与えられた使命だから。


「うおおおおおっ! 魔王! 覚悟しろ!」


 僕は剣を構えると、魔王に突っ込んでいく。


 すると、魔王は笑い出した。


「フハハハハハッ!」


 それから、指を一本立てて、大きな声で言った。


「さて、ここで魔王からクイズです!」


「……え?」


 何? クイズ?

 聞き間違いだろうか。

 今、魔王がクイズって言わなかった?


「それでは第一問」

「ちょっ! ちょっちょっちょっ」


 第一問

 みつおくんのいえには、りんごが30こあります。きのうはりんごを4こ、きょうは3こたべました。このとき、かおるさんのいえには、りんごがなんこのこっているでしょう。


「……なんだこれ」


 文章問題か?

 僕、これ解かないといけないの?

 

「制限時間は30秒です」

「……えっと……りんごが30個で、4個食べたから、そこから4を引いて……」

「残り10秒」

「ちょまっ! 早い! ちょまっ!」

「待たない…5,4,3,2,1」

「23。答えは23個だあ!」


 なんとか答えを捻り出したぞ。

 これで第一問はクリアだ。


「ブブ―ッ! 残念ハズレです」

「……なっ!」


 何、言ってんだこいつ。


「ハズレじゃない。答え合ってるだろ!」

「どうやって導きだした?」

「30-4-3=23」

「そうだな。しかし、それはみつおくんの家にあるりんごの数だ。文章題は最後まで読まないとダメだぞ」


 魔王がもう一度、文章を表示させる。

 最後に、『かおるさん』という謎の人物が登場していることに気づいた。


「この問題ではかおるさんの家にあるリンゴの数について聞いている。だから、答えは『分からない』だ。この問題を読む限りでは、かおるさんの家にあるリンゴの数は分からないわけだからな」


 クソ問題だ――――!


「やれやれ。勇者には失望したよ。6歳児が学校で解くような問題だぞ。きみいくちゅですか~?」


 僕は16歳。6歳より、10多い。


「勇者! おまえの負けだ」


 そう、魔王の言う通り、僕は負けたのだ。

 なんか色々と腑に落ちないが、とにかく負けた。


 何故、クイズが始まったのか。何故、クイズに間違うと負けなのか。

 そもそも、どうして普通にバトルさせてくれないのか。


 言いたいことはたくさんあるが、なんかそういう流れになってしまった。仕方がない。


「はっきり言おう。勇者、おまえはバカだ。バカだから、私に負けたんだ」

「……僕は……バカ」

「そうだ。バカだ。バカ。バカ。バカ。バカ」


 そ、そんなに連呼しなくてもいいだろ!


「勇者フロト。おまえに世界は救えない」


 バカには世界が救えないって?

 確かに、そうかもな。


 でも、僕は赤子のときに神託によって勇者に選ばれた。

 それからは修行、修行、修行。息つく暇もなく戦いを強いられてきたんだ。


 そんな僕に少しでも勉強する時間があっただろうか。いや、あろうはずもない。


「頭の悪い人って、すぐに言い訳ばかりするよね。スキマ時間に勉強すればよかっただろう」

「……スキマなかったし」

「19時に帰宅すれば、そこから2時間は勉強できたよな?」

「……」

「できたよな? そしたら、一日二時間は勉強できた計算になるよな? 土日は休んだとしても、一週間に十時間は勉強できた計算になるよな?」

「……うっせぇわ」


 僕は剣を振り上げた。


「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!」

「何それ? Ado?」

「魔王の癖に説教してんじゃねぇ! 僕にだって、色々と事情があるんだよ!」

「本当は大した事情なんてないくせに。あと私はYOASOBIの方が好きだから」


 もう我慢ならない。

 さっきから好き放題、言いやがって。


 というか、なんでこいつの『俺ルール』に従わなきゃならないんだ。

 この場で、こいつを切り刻めば、僕の勝ちだろう。


 さっさと倒そう。そうしよう。


「うおおおおおっ! 魔王! 死ねええええっ!」


 ――ストン!


 僕は魔王の首を斬り落とすことに、成功した。


「ぎゃあああああああっ!」




 ★




「……はっ」


 気づくと、僕はベッドの上にいた。

 

 どうやら、今のは全て夢だったらしい。


「……ふう。良かった ただの夢オチか」


 ここは師匠の家で、僕はそこに居候している。結構強くなってるとは思うけど、まだまだ修行中の身。

 もちろん、魔王と戦うのもずっと先。その前に、四天王とか色々と倒さないといけないのだ。


「師匠。聞いてください」

「ん? どうした?」


 ガサツなお姉さんっぽい師匠が、僕に向き直った。


「魔王って、クイズを出して来ますかね」

「はあ? 出すわけないだろ。魔王だぞ。大丈夫か?」

「ですよねー」


 本当の魔王さまは、ちゃんとバトルしてくれるようだ。


「だが、ギミックには気を付けた方がいい」

「ギミック?」

「ああ。各地のダンジョンには、冒険者を惑わす仕掛けがあるんだ。たまにボスにも付いてたりする」

「ほへえ~」


 さすが師匠だ。勉強になるな。


 僕は指を一本立てて、大きな声で言った。


「さて、ここで勇者からクイズです」


 第一問 

 みつおくんのうちには


「分からない」

「……な、なんだと……」


 答えが合ってる!

 まだ問題を全部、聞いてないのに!


「ひょっとして、師匠は……天才!」

「おまえ、本当に大丈夫か?」



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