第6話 ごめんなさい
輝とタケゾーがケンカの後であったのは1週間ほどしてからだった。
久しぶりに幼稚園で会った輝はタケゾーに謝った。
タケゾーはあの時、輝の言った通りお婆さんが亡くなったのはびっくりした。でも、やっぱり輝はいい加減なことを言っていた、具体的に言うと、自分がサファリパークに行かなかったのが悔しくて、タケゾーに意地悪を言うために、おばあちゃんが死ぬ、なんて言い出したのだと思っていた。だから、輝ちゃんは自分に出まかせを言ったことを謝っているのだとタケゾーは思った。
けれど、輝が言ったのは、そう言われたって絶対許さない、とタケゾーが思っていた、嘘をついてごめん、ではなかった。
「オレ、まこちゃんも見えてるって思ってたんだ。」と輝はタケゾー、幼稚園当時の呼び名はまことゃんに言った。「だから、まこちゃんとケンカした日、ママにまこちゃんだって影人間(輝はその時自分が見たモノを影人間と呼んでいた。)を見たはずなんだ、って言った。
ああいうのがくっついてると、ヒトは死ぬでしょ?
なのにまこちゃんはオレを嘘つきだって砂をかけた。
そしたら、ママは、そういうのは、まこちゃん、見えてないって。それから、保育園の先生も見えてないって。
だいたい、みんなが見えてないんだって。」
タケゾーとケンカした理由がわかると、ママは輝のことぎゅっってして、嘘つきって言われて悔しかったね。ママは嘘じゃないこと知ってる。パパも知ってるって、言ってくれた。
あの日すれ違った時、まこちゃんのおばあちゃんは、本人には自覚はなかったかもしれないけど、運命的に最後に息子と孫に会うためにやって来たんだな、ってパパとママにはわかった。
でも、わかっても、パパもママも言わなかったでしょ?
そういうの、言っても何の役にも立たないの。逆に言うと人から憎まれたり嫌われたりする。
もっと前に輝くんにも教えてあげてたらよかったね。
そういうの、小学校に入学する前くらいに伝えなくちゃ、って、そう思ってたんだけどね。
まこちゃんとケンカになっちゃったね。
ごめんね。
言っちゃだめなの。
影人間のこととか、踏切とか道路とかにずっと立ってる人のこととか。
輝くん、見えてるよね。
ママが、知らんぷり、見ちゃダメって言ってるとき、意味わかってるもんね。
でも、パパとママ以外にそれは通じないの。
約束して。お口を閉じてて。
「オレ、まこちゃんに影人間の話をしちゃ、ダメだったんだ。知らなかったんだよ。話しちゃってごめんなさい。」と、輝はぺこりと頭を下げた。