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私、魔女らしいです  作者: 漣やまと
1/1

魔法と兵器の数奇な共存


 ○、プロローグ




『た、助け―――!』


 無線越しに仲間の脱落を悟る。血と硝煙の匂いが鼻の奥から離れない。各地で爆音と共に煙が上がる。

 私達魔女は最前線にいる。魔導空母から飛んで陸上で戦い、また戻る。を繰り返すことが日課になっている。

 夜の洋上、空母の甲板の上から月を見た。

 イージス艦の上に剣を握った少女が立っているこの異様な戦場は、世界が初めて体験する魔女による戦争。

 倫理観はもう無くなったらしい。志願兵って事にされてるらしいから。志願兵なら仕方ない、その娘が志願しているんだから我々に口出しできない。という人がうようよいることに腹が立つ。

「なっちゃん!」

 元気な鳥が鳴くような声で意識が戻される。私を呼んだのは昔からの友達の夜宵やよいちゃん。

「宵、持ち場が違うでしょ。なんでここにいるの?」

 宵の持ち場は空母の内部なのだ。甲板にいると上官による折檻か、厳しい厳罰があるのだ。

「会いたくて来ちゃった!」

宵は昔から行動力がありすぎて周りの人をよく振り回していた。でも、そんなところがこの戦場で皆の精神的な支えにされてるのかも。皆笑顔を忘れた訳じゃないから。

「すぐ戻らないと少尉に怒られるよ?」

少し考える素振りを見せてから宵が言った。

「それは……ちょっと嫌かも……」

 月明かりが雲の間から差し込む。

「じゃあ、戻るね!千夏ちゃん」

「うん、おやすみ」

「おやすみ!」

 パタパタと自分の持ち場に戻る宵を見て、気持ちを切り替える。そうだ、自分は戦場にいるんだ。大勢の少女を戦場に送り出す、狂気の戦場に………。



 一、初めて戦場を見ました。






 「行ってきます」

 誰もいない家に向けて言う。虚しさがこだまする。

 今日は入学式。とうとう高校生になる。ピアスを開けたりして、ちょっとした高校デビューなんかをしてみた。

 ドアを開けて鍵を閉め、通学路へと向かう。

「なーっちゃん!」

 後ろから衝撃が来た。

「うおっ!……って宵!びっくりしたよ!」

「えへへ、ごめんごめん」

 同じアパートに住んでいて、同じ高校に通う事になった幼馴染は相変わらず元気だ。

「……あ!今日髪の毛ちゃんととかさず来たでしょー!括ってたら良いってもんじゃないよ!」

「あはは、ごめんごめん」

 宵は女の子らしいことには少しうるさい。

「もー!せっかくきれいな色してるのに!……まぁ、ポニーテールもかわいいけどさ……」

 そういう宵は、薄い桃色の髪をきれいに結い上げている。

「それはそうと、ピアス付けてきたー?」

「うん、付けてるよ」

 このピアスは宵に貰った物だ。お揃いがいいと駄々をこね、挙句の果てに勝手に私のピアスを買われてた。

「じゃあ行こっか!」

 宵に促され歩道に出る。

 慣れない通学路を歩く。中学とは真逆の方向にあるのであまり通らない道を歩かなければならない。

「高校の校則、緩くてよかったねー!」

「うん、よかったよかった」

 私達が通うことになる高校は校則が緩く、自由な校風だった。

「ピアスがいいって高校なかなかないよね」

「だから受験頑張ったんでしょ」

「確かに」

 受験を頑張る理由は他にもあるが……。

 宵は勉強できるのにどこか抜けてる。そんなとこが可愛いんだけど、変な人に付いて行きそうでちょっと心配だ。

「ちょっと失礼なこと考えてなーい?」

 時々見せる感の鋭さは何なのか聞きたいところだ。

「いや?全然?」

「そっか、ならいいんだけど……」

 ジト目で見られたがなんとか乗り切ったな……。

「気づいてないかもだけど、顔に出てるよ」

「!?」




「そして、安全で健やかな成長を―――」

 入学式で校長のありがたい話を聞き流しながら、宵と同じクラスだったことに喜ぶ。

「校長の話ながいよねー」

 校長の声だけが響く体育館で、宵が退屈そうな小声で言った。

「見つかったら怒られるよ?」

 そう返すも、

「だってつまらないもーん」

 実につまらなさそうな返事を返すのみ。

「……通学路にショッピングモールあったじゃん?」

「うん」

 食いついた!

「あそこ、ネットで話題のまりもっこりあるらしいよ」

「え?なにそれ?」

 食い気味で答えられた。適当に言ったのがバレたかも。

「なっちゃんネットとか見ないでしょ?」

 失礼な。

「今流行ってるでしょ?」

「マリトッツォだし、だいぶ昔だよ!!古いよ!」

「そこ!喋らない!もう高校生なんだからな!」

 マリトッツォとは何か分からないが、まあいい。それよりも、

 強面の教師に怒られてしまった。

 今日から高校生、か………。

 嫌だな、大人になっていくというのは。

「このままがいいよね」

 宵が突然言った。

「このまま大人にならずに子供のままがいいよね」

 私に対して一度も見せたことの無い悲しい雰囲気を漂わせている事に気づく。

「急にどうしたの?」

 宵の雰囲気が変わった事への不安を紛らわすように尋ねた。

「大丈夫だよ」

 宵は優しい笑顔で答えた。

さっきの強面教師がまた来た。

「おい、何度言ったら―――」

 その時だった。

 突然の爆発音と共に体育館の一角が吹き飛んだ。

何が起こっているのか分からない。爆音で耳が痛い。微かに叫び声と教師の怒号が聞こえて来る。

 街に設置されている大きいスピーカーがなった。

『先程、共和国からの宣戦布告と同時に、ミサイル攻撃がありました。近隣の住民の皆様は直ちに避難してください。』

 共和国?宣戦布告?何もかも飲み込めないまま教師に誘導され、体育館を出た。ここは日本の内陸、しかも首都圏に近いというのにミサイル攻撃?大陸の東側に位置する共和国がなぜそのようなことを?色々な考えが頭をよぎったがそれよりも――

「……宵?」

宵がいない。

「宵っ……うっ!」

 次は校舎に何かが落ちた。それがミサイルであったと理解するのに、そう時間はかからなかった。爆風と熱風で思わず小さく縮こまってしまう。

 初老の教師が私に向かって叫ぶ。

「おい!早く逃げるんだ!」

 そんなこと言ったって、足が竦んで動けない。私、運動神経悪いんだよ!無茶言わないでほしい。

「―――たッ!あしっ……が!」

 声がうまく出ない。恐怖のせいなのかどうかは分からないがまともに動けもしない。

いや、それよりも強い感情が溢れ出る。どんな状況でも、単純明快な感情は出てきやすい。

「なんっ……で!」

 声にならないながらも叫ぶ。

「こんな……!……クソッ!」

 それは、怒り。どうしようもないほどの怒りだ。

ごちゃまぜの感情を怒りが塗りつぶす。

乱暴にクレヨンで殴り描きしたキャンパスを真っ黒のインクが塗りつぶすような。

 そこでやっと気づく。瓦礫の中に混じって同級生の死体があるということに。

「うっ……おえっ!」

 うつ伏せのまま嘔吐した。

血の臭いが鼻の奥を突く。涙を拭い、逃げようとしようとしたその時。


「無様、です、ネ」


 片言の日本語で声を掛けられた。

「……え?」

「あなた、達、ハ、新しい、ことに、弱いデス」

 どこからか声がする。辺りを見回しても体育館の瓦礫と数人の死体があるのみ。

「こっちです、ヨ」

 体育館に空いた穴から、自分よりも年上に見える女性が降りてきた。ゆっくりと、重力が小さくなったみたいに。

カーキの戦闘服らしき物に身を包み、体格に不釣り合いな銃を構えている。

「恐怖で、ナニも、できない。無様、デス。だから、こうして、奪われる。倫理、を守り、すぎて、いル。」

 何の話がちっとも理解できない。

「魔女は、強イ、でス。だから、戦争に、出されル」

 魔女?確かに、重力が小さくなったように降りてきたのも魔女という言葉で片付けてしまえる。しかし、それは御伽噺(おとぎばなし)の中だけであって、とても信じられるものじゃ無い。

 すると、更に数人の女性が降りてくる。もちろん、皆ゆっくりと。羽根が落ちてくるように。

「○○○○○○○○。○○○○。」

 降りてきた内の一人が、私に話しかけてきた女性に話している。聞いたことのある言語。でも、内容は理解できない。

「――――私たちに、投降、しなさイ。そうすれば、捕虜、としての、立場を、保証しマス」

 捕虜?投降?……負けを認めろ、と?捕虜としての生活がどんなものかも知らされていないのに?

 そんな理不尽……。

「……舐めんないでよ。あんたたちに負けるのを認めるほど、私はヤワじゃないよ……!」

 突然の理不尽に対しての怒りが言葉になって出てくる。

「糞でも食ってろ!クソ女!!」

 自分でもびっくりする位に汚い言葉が出てきた。

「………わかりました。さようなら」

 私を小さく見たクソ女は銃口を向けてきた。

 「くっ―――!」



「千夏ちゃん」

 懐かしい記憶。

 走馬灯なのか?

「千夏ちゃんはさ、大きくなったら何になりたいの?」

 大きな樹の下、遊び疲れて休んでいる私達の会話。

「………まだわかんないよ」

 いや、なりたいものはあった。でも、言うのは恥ずかしいかったからやめておいた。

「そっか……。あたしはね、誰かを守れるような、つよい人になりたいんだ!」

 無邪気な笑顔で私に語りかける。

「千夏ちゃんがピンチになったら、あたしがぜったいに、駆けつけて救ってみせるの!」

 眩しいくらいの笑顔は私を包み込むようだ。


 なりたいもの、ちゃんと伝えたかったな……。




「グウッ!?」


 自分の身体から何かが出た。いや、放った……?

「なに、これ?」

 自分の手のひらの前に、淡く光る丸い魔法陣のようなものが出ていることに気付いた。でも、スッと直ぐに消えてしまった。

更に、クソ女とその取り巻きが何故か倒れている。

「な、なぜ、です、カ!?」

 クソ女が立ち上がりながら私に言う。

 しかし。

「何か知らないけど、助かったよ。でも、あんたたちが魔女なら、これはもしかしたら魔法ってやつかもね」

 何の魔法かさっぱり分からないが……。

「魔法?あなた、なんかが、使える、ものじゃ、ナイ!」

 そう言い終わると同時、向こうも魔法陣を出して魔法を放った。

「うぐっ!」

 強く殴られたような痛み。直ぐにその場に倒れてしまった。

「ハァ、ハァ、ハァ、………○○○○!」

 取り巻きに向かって何か言い放った。

「……あなた、は我が国に、連れ帰っテ、研究材料に、しマス」

 研究材料?冗談じゃない。なんとかして逃げねば。

「………ううっ」

 さっきの一撃が効いて指一本動かせなくなってしまった。

もう一度今の魔法を放とうとするも、やり方が分からない。

「生身、で、耐えた、事ニハ、褒めて、あげマス。でも、もう遅い、デス」

 今度こそ終わったな―――向こうでどんな事をされるのか考え、絶望し、諦めてしまう。

 制服もボロボロで、悲しみが現れる。それまでは意識しなかった感情が湧き上がる。

 自身の頬を伝う涙の感覚。ああ、自分は泣いているんだ。

何もかもおわった。そう自覚した瞬間、

「グエッ!」

 取り巻きの一人が短い断末魔を響かせ、倒れた。

「なに?なに、をした、のデス、カ!?」

 クソ女が私に向け絶叫する。

 そんな事聞かれてもあんたの攻撃でもう声も出ないよ。

 と、そこでやっと気づく。私に言ったんじゃない。この、目の前の女の子に言ったんだ、と。

 その子は私と同じか一個上くらいの人。

 カジュアルなYシャツにショートパンツ、その上にパイロットジャケットを腕まくりなどで着崩している。

滅茶苦茶に見えて、案外整ったおしゃれな格好だ。

「誰……?」

 思わず疑問がこぼれ落ちる。

「ごめんね。遅くなったよ」

 そう一言だけ答えると、十人以上の武装した軍人の中へ飛び込んだ。

がんばりました

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