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ある日私は落武者を拾った  作者: 落武者mark2
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memory of ochimusya(プロローグ)

息を切らせながら、木が生い茂る山道を行く者がいた。


「はぁはぁ……姫様、味方の城までもう少しだ…頑張れ」


1人の若武者が姫の手を引き進む。

すらりと伸びた背丈に細身だが筋肉質な体つき、清廉な顔とは反対にとてもフランクな物言いをするこの若武者は、名を八神やがみ 清十郎せいじゅうろうという。

戦にて裏切りにあい、落城の最中に姫を連れ僅かな味方と脱出したが、追手の追及は厳しく、1人また1人と仲間は討死していった。

追手が眼下に迫る絶望的な状況の中で、尚も必死の逃走を続けていた。

しかし、それも最後の時が訪れようとしていた。

やがて追手に包囲された2人はやむなく小さな洞穴へと逃げ込んだ。


「姫様、もう完全に囲まれててどこにも逃られないぜ」


なんとしても姫だけは逃そうとしたが、ここまで囲まれては逃げ遂せる確率は万に一つもない。

そんな洞穴の出口から外を見張る清十郎の後ろから声がした。


「そうですか…それなら致し方ありません…」


その声は、血や泥に塗れたこの戦場にはおよそ似つかわしくないとても澄んだ声であった。

腰まで伸びる黒髪に清十郎とは真反対の優雅で品がある物言い、その声の主は優姫ゆうひめという。

清十郎と幼い頃よりともに育ち、他国にもその名が轟く程の美しく可憐な姫である。


「もはやこれまでですね。これでも武士の娘、敵の手に掛かるくらいなら潔くここで自害いたします」


そう話す彼女はとても落ち着いており、顔からは悲壮感や絶望感といったものは感じられず、それを見た清十郎でさえ何かの冗談ではないのかと思うほどであった。


「姫様は怖くないのか?」

「全くと言ったら嘘になるけど、あなたと一緒なら不思議と怖くありませんよ」


思い返せば、身分は違えど幼馴染というものである。

昔の姫様は悪戯好きでよく泣かされたし、城内でかくれんぼをして御屋形様にこっぴどく叱られた。

終わりの時が迫る中で、少しの間ではあるがお互い置かれた状況を忘れ、昔の話に花が咲いた。


「奴らが来たぞ。そろそろだな…俺が敵を食い止め時間を稼ぐからその間に……」


そう言った清十郎はすでに甲冑は壊れて脱ぎ捨て、全身血塗れの満身創痍、手には敵を斬り過ぎて歪んでしまい鞘に戻せなくなった刀が握られている。

さあ敵に向かわんと立ち上がったその時、背後から優しく抱きしめられた。


「清十郎……また逢えますか…?」


一瞬驚いたが、すぐに震えているのが分かった。声もつい先程までの優雅で澄んだ声ではなく、悲しく今にも泣き出しそうな声だ。

気丈に振る舞っていたが、心の中では恐怖と戦っていたのだ。無理もない、命を懸けると決めた自分でさえ完全には恐怖というものが拭い去れない、優姫ならば尚更であろう。背中越しに伝わる温かさを感じ、優姫を守りきれなかった自分自身に情けなさが込み上げてきた。

数秒間の沈黙の後、清十郎が呟く。


「あぁ、逢えるさ。来世のそのまた来世でも、今度は必ず姫を守ってみせる。約束だ……では、御免」


そう別れを告げ、最後の力を振り絞り敵へと向かう清十郎を見届けた後、優姫は洞穴の奥へと消えた。

落武者mark2と申します。


緩く更新していきますのでどうかよろしくお願いします。


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