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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
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七 金糸雀

    七 金糸雀


 困りました…。情けない事に動けなくなってしまったのです。えぇ、大丈夫。原因は分かっ

ております。翼に被弾致しました。もう夜です。なかなか帰らない私をいつも一緒に行動しているあの子はきっと心配しているに違いありません。こんな事になるのなら、あの子にだけはそっと秘密の仕事を請け負った事を教えておけば良かったです。もう遅いですけどね…。


 はぁ…。

 溜め息が洩れました。きゅうの音ですね。私には、生まれた時からすべてが音楽に聞こえます。自分では普通に喋っているつもりなのですが、傍からは歌っていると思われているようです。仲間だと思われているのか、小鳥達と一緒に歌も歌います。だから…。まだ日が高ければ、小鳥達に助けを求められたのですが…。いいえ、駄目ですね…。鳥人と言えども、小鳥達の言葉を分かる者が私の他におりません。それに、小鳥達は鳥目です。夜ではあまり見えないでしょう…。そうして、残念ながら私は夜の眷属の梟達とは上手く話を出来ないのです。私ももっと精進しなくてはなりませんね…。


 そんな訳で。こうして私は一人、鬱蒼とした山の中で一人倒れているという訳です。まぁ、目的は果たしたので、二日も帰らなければきっと誰かが探しに来てくれると信じて待ちましょう。え?翼が駄目なら、その二本の足で歩いて帰ればいいだろう?って。尤もなご意見ありがとうございます。ですが…。申し訳ないのですが、私のこの足は役立たずで、動きはしないのです。昔、とある儀式の時に贄として差し出してしまったものですから…。その時は翼があれば足など不要と思っておりましたが、こんな時に痛感します。二本足も必要でしたね…。


     *****


 そんな訳で、うつらうつらとしておりました。そうしたら、風に乗って私を呼ぶ微かな声がしたのです。目が覚めました。この声は…。

「カーナーリーアーさーん!」

 いつも元気な桃ですね。少年期でありながら、今年の六省の試験に合格した二人のうちの一人です。一緒に合格し、うちの省に配属された鶸が、大層あの子に懐いています。懐くというより、全身全霊で恋しているように私の目には見えますが、本人が自覚するまでは黙っておきましょう。秘するが花。勝手に人の気持ちを決めつけてはなりませんものね…。

 不思議な事に声がだんだんと近づいてきます。あの子はどうやって、この場所を知ったのでしょう?考えていたら、ザザッと頭上の枝が開いて、青い顔をした鶸が顔を出しました。

「金糸雀さんっ!無事?」

 そして、大きな声で桃を呼びます。しばらくして現れたのは桃とは違う少年でした。

「だ、大丈夫ですか?」

 おや?と思いました。昼に声をかけた少年だったからです。この二人は知り合いなのでしょうか?

 そこにガタガタと音をさせて手押し車を引いた桃が現れました。

「向こうに山小屋があったから、ちょっと拝借してきた!金糸雀さん、これに乗って!」

 そう言うと、動けない私を三人がかりで手押し車に乗せてくれました。

「翼を怪我したんだね…。血が出てる…。鶸!甚さんに伝えて!」

 頷いて、今にも飛ぼうとした鶸を引き止めました。

「鶸待って~、それよりも~♪これを蘇芳様に~、渡して下さい~♪でも中は~、見てはなりません~♪」

 そう告げて、今回の任務の目的物が入った小さな袋を鶸に手渡す。

「出来ますか~♪」

「は、はいっ!」

 鶸がしっかりとその袋を腰巻に仕舞い込む。

「蘇芳様に~、伝えれば~♪他の手配も~、してくれる筈~♪」

「わ、分かりました!」

 鶸が頷く。

「俺っちは、行ける所まで金糸雀さんをこれに乗せて運んでく!帰りは一人だけど、行けるな、鶸?」

 そう言われた鶸が両手をぐっと握って頷く。

「金糸雀さんの為、だもん…!」

 そう言って夜空高く飛び上がったあの子は、暗い空に浮かぶ月の様でした。


「よっし!じゃ、狭いけど、半も乗れ。で、金糸雀さんが落ちないように押さえといて。」

 そう言ってから、徐に桃が手押し車を引いて山道を走り始めました。ガタガタとひどく揺れます。喋ったら舌を噛み切ってしまいそうなので、黙って掴まっておりました。一緒に乗せられた少年も「ひぃぃl!」と言いながら、振り落とされないよう必死です。ですが、誰よりも必死なのは桃でした。後ろから見ていても分かります。息を切らし、汗を飛ばして走っています。下り坂とは言え、暗く、足元が悪い中、二人を乗せた手押し車を引いて駆け下りるのは容易ではないでしょう。でも、この子は泣き言を言いません。その時に、自分に出来る精一杯を行うのです。だから、六省の皆様に可愛がられています。きっと皆、桃の事が好きなのでしょうね…。


 桃が息を切らして、山道を駆け下りた所に、鶸から連絡を受けたであろう蘇芳様と深藍様がいらっしゃいました。

「桃。ご苦労であった。後はゆるりと休むが良い。この事は内密にな。」

 深藍様が告げると桃は頷きました。

「金糸雀。失礼する。」

 そう言うと、深藍様は私を背負いました。どうやら治療を受ける場所まで運んで下さるようです。手押し車より乗り心地が良いので助かります。

「お手数を~、おかけします~♪」

「あ、鶸は?」

「今、甚三紅を呼びに行ってもらっている。」

「もう夜遅い。とりあえず、帰って休みなさい。」

 蘇芳様にそう言われて、少年二人は歩いて帰りました。心配です。


          *****


 そっと裏門を開けてもらった桃と半は、出た時同様縄を使って窓から桃の部屋へと戻った。へとへとだった。そのまま、布団の上に倒れ込む。そうして、二人は一分も立たないうちに寝てしまった。


 翌朝。その眠りはどすどすと響く足音で妨げられた。近づく足音で本能的に危機を悟った桃は半を起こす。

「お前はここに隠れてろ!」

 そう言って、急いで半を押し入れに押し込んだ。半の荷物を布団で隠した時、襖の前で声がした。

「桃!いるか?開けるぞ!」

 返事を待たずにスパン!と勢いよく、襖が開けられる。半は、うっすら開いた隙間から様子を伺った。赤い髪を高い位置で結い上げた美丈夫が入ってきた。

「おいこら!お前、昨晩、酒を盗みやがったな!「貰っていきます」って、この書置きは何だ!今日使うから昨日のうちに清めておいたのに、二度手間じゃね~か、この野郎!お前にゃ、酒はまだ早いってのに!まさか、飲んだのか?」

「飲んでませんが、必要だったので拝借致しました。申し訳ございません!」

 桃が畳の上で、土下座していた。

「安い土下座なんざ、いらん。何に使った?」

「そこの器に入れました。」

「ふうん…。もう神気は飛んじまってんな…。何かのまじないでもしたか?お前にそんな器用な真似が出来るとは思わね~が?」

 そう言うと、桃のすぐそばに座り込む。桃は頭を下げたままだ。そこにまた新しい人物が駆け込んできた。

「こら~!桃~!昨日、山の木こり小屋から手押し車勝手に拝借したでしょ~!苦情が来てるよ~!全く、もう~!昨日は一日、省で勤務の筈だったのに、いつの間にそんな悪さをしたんだよ~!平身低頭謝ったこっちの身にもなってよね!」

 腰に手を当て、怒り心頭である。

「それも申し訳ございませんっ!全ては私めの不徳の致すところです。」

「他に言うこた、ね~のか?」

 赤い髪の美丈夫が、桃をつつきながら言う。

「ございません!甘んじて処分を受ける覚悟です。」

 顔を上げずに桃は言う。見ていた半はハラハラした。アイツは馬鹿だと思った。お前と鶸は昨晩、人助けをしたんじゃないか!と言ってやりたかった。褒められても良い筈なのに…。でも、部外者の自分が出て行っても…とも思った。昨晩、内密にな、と言われた事をアイツは守ってるんだ。

 そこに、更に複数の足音が近づいてきた。

「おぅおう、邪魔すんぜ、紅。」

「おや、皆様お揃いで。如何致しました?」

「そこで土下座している桃君の弁護に来たのですよ。」

 銀縁眼鏡をかけた男が言った。

「少々、事情がありまして…。昨晩、山中で怪我をして動けなくなっていた金糸雀を、桃達が助けてくれたのです。助かりました。酒も手押し車も金糸雀救助の為に使った物です。どうか怒らないでやって下さい、紅。」

「だとよ…。お手柄じゃねぇか。桃、なんで言わねぇ?」

「どんな理由があったにしろ、酒と手押し車を勝手に拝借したのは私である、という事実は変わらないからです。」

 桃は畳に頭をつけたまま言う。

「ふ~ん…。でも、良い行いをしたなら、お前に褒美をやらね~とな!」

 緋色がそう言うと、桃はぱっと顔を上げた。

「でしたら!」

 そう言うと、勢いよく押し入れを開けた。

「なんだぁ?」

 皆が一斉にそちらを向く。

「褒美でしたら、この半に!昨日、財布をすられて一文無しなんです。昨晩、その器に張った酒にまじないを施し、金糸雀様の居場所を特定したのはこの者です!そして、その場所をいち早く蘇芳様にお伝えしたのが鶸でございます!」

 一同の視線を一身に浴びた半はオドオドした。これが…六省の面々か…。纏っている霊力が桁違いだ…。圧倒される。とにかく…何かを言わないと…。

「お!お前、昨日桃と一緒にうちで飯食ってた奴じゃねぇか!」

「は、はい…。ですから!褒美でしたら、既に貰っております。昨日、焼き印を消していただけただけで充分です。」

「緋色…。貴方って人はまた何か勝手な事を…?」

「いや、蘇芳!俺は間違ってねぇ!アイツは無実の罪で焼き印を押されてたんだ。消してやるのが筋、ってモンだ!」

「ですが、確実性を求める為にも記録を精査するのが省の役目なのでは?」

「うっせぇ!俺の見る目は確かだ!」


 そこに、更に足音が聞こえた。

「おはよう、皆の衆。息災かい?」

「邪魔するよ。うちの鶸がこちらにお邪魔していると聞いて寄ってみたのだが…?」

「黄丹様!」

 一同がぴしりと姿勢を正す。

「おや?鶸はいないようだね…。」

 黄丹が室内をぐるりと見回した時に、窓から金糸雀と鶸が現れた。

「昨晩は~、ご迷惑を~♪かけまして~、すみません~♪」

「金糸雀さん!もう大丈夫なの?」

 桃が嬉しそうに言う。

「甚三紅の力で~、直りました~♪心配かけて~、すみません~♪」

「完全回復。一安心…。」

 鶸は眠そうな目をしていた。どうやら一晩中、金糸雀に付き添っていたようだ。それを見た黄丹が言った。

「鶸、昨日はここでお泊り会をしていたのではなかったのかい?」

「お、黄丹様!」

 黄丹に気付いた鶸が慌てて着地する。睡眠不足のせいか、ふらりとよろけた所を桃が支えた。

「大丈夫?」

「あ、ありがと…。」

「ふぅ~む…。黄橡の話では桃と鶸ともう一人でお泊り会、と聞いていたのだが…。どうやら、何かあったようだね…。蘇芳、君が何かを知っているのかい?」

「えぇ…。」

 言葉少なに答える蘇芳に黄丹が告げた。

「ならば、君が責任を持って適切に対処し給え。」

 蘇芳は恭しく一礼すると口を開いた。

「はい。では、桃。君には先ず、木こり小屋への手押し車の返却と謝罪を命ずる。それが終わった後、三日間の登城禁止。謹慎処分だ。」

「…!そんな…っ!待っ…」

 今にも泣きそうに言いかけた鶸の肩に、後ろから東雲がそっと手を置いた。

「大丈夫。蘇芳は鬼ではありません。大人しく最後までお聞きなさい。」

「…は、はい…。」

「そこ!煩いですよ。次いで、鶸。あの暗闇の中での迅速な報告、見事でした。よって、褒美を与える。有給三日。どこで何をするのも自由。そして、半。その力、見事です。財布をすられたという君には金一封とここでの滞在権を与える。以上!」

「やれやれ…。蘇芳、君は言の葉が硬すぎる。でも、素直に言えないのがきっと君なんだろうねぇ…。」

 紫は扇子をパチンと閉じると、少年達に向かって言った。

「聞いたか、雛鳥達!要は三日やるからお泊り会をやり直せ、という事だ!良かったな!」

「――!あ、ありがとうございます。」

「あぁ。だが、先ずは桃。謝罪に行ってこい!」

「は、はいっ!」

 早速玄関に向かおうとする桃を蘇芳が制止して、背後にいた男に声を掛ける。

「青藍。」

「はい。とっくに準備完了。転送します。」

 その瞬間、桃の姿が消えた。吃驚して腰を抜かした半に青藍が言う。

「すごいっしょ!俺の転移術。今頃、手押し車と一緒に桃はもう木こり小屋だよ。十分位したら謝罪も終わるだろうから、今度はここに呼び戻してあげるよ。」

「あ…。で、でしたら、ちゃんと終わるか俺の水鏡で見てみますか?」

「ほぉ…。」

 面白そうに蘇芳が言った。

「それは、是非拝見させていただきたいですね。」

「で、では…。すみませんが、霊水をいただけますか?」

「あぁ。少し待て。」


 そうして、一同に見守られる中、半の水鏡が展開された。器に張った霊水に木こり小屋で平身低頭謝る桃の姿がくっきりと映る。

「大したもんだ…。」

「瓶覗と並ぶ術ですね…。実に得難い…。」

 様々な声が聞こえる。水に映る桃は、最後に木こりと談笑を始めた。木こりが桃の背中を笑いながら叩く。そうして最後に丁寧にお辞儀をした桃が向きを変える。

「ん…。終わったみたいだね。じゃ、こっちに転送~!」

 青藍がそう言って、手を叩くといきなり桃が室内に現れた。

「「…うわっ!!」」

 桃も半も吃驚する。

「お帰り、桃ちん。最後は木こりさんと仲良くなったみたいだけど、何話してたのさ?」

 青藍が面白そうに訊く。

「あ~…。手押し車を拝借するにあたって、地面に大きく「借りていきます。礼省、桃」って書いたのが面白かったみたいで…。「盗むならバレないようにこっそりやれ。堂々とし過ぎている」って言われちゃいました…。」

 そう言って、恥ずかしそうに頭を掻く。

「何だ、そりゃ…。あ~っ!だから、手押し車を勝手に拝借したのが桃だって、名指しで苦情が入ったのか!」

 苦情に最初に対応した薔薇ソウビが腑に落ちた顔をした。

「うん…。でも、後でちゃんと返しに行くつもりでした。使っちゃった紅様のお酒は返せないんですけど…。」

 申し訳なさそうに言う。

「もういいよ。酒の代わりは他にあるけど、仲間の代わりはいない、って僕は知っているからさ。」

 高い位置で赤い髪を結い上げた美丈夫がそう言って笑った。

「何はともあれ、お疲れさん。お前の話も聞かずに叱って悪かったな。」

 そう言って、桃の頭を撫でた。続けて言う。

「半の水鏡も大したモンだ!」

「いえ…。俺みたいな半端者のまじないなんて…。ここにいる皆様に比べたら全然…」

 そこでパチン!と扇子を閉じる音が入った。普段穏やかな紫が少し気色ばんだ声で言う。

「聞き捨てならないね。誰が君を半端者だなんて言ったんだい?」

「紫様…?」

 桃が吃驚して紫を見上げる。

「あ…、俺、半って名前だし、こんなだから…。昔から里の皆に変わり者だとか半端者だとか言われて育ったんで…。」

「なんて、雅を解さない者達なんだ!嘆かわしい…。」

 紫はそこで深い溜め息をついた。

「いいかい、半。良くお聞き。君の名前とその色は、決して中途半端という意味ではない。私の紫は禁色で使えないが、この色を使いたいという人々が使えるようにする為に半分に薄めて作られた「ゆるし色」が君なんだよ。愛されて生まれたのが君なんだ。だから、胸を張るが良い。そして、そんな雅も分からんような里には二度と帰らなくてよろしい!徳省一位の僕が許す。君は今日からうちの省預かりだ。分かったね?」

「え、え…!い、いいんですかっ?六省に入るには試験に受からなきゃいけない、って…。」

「そうだよ。来年の試験に受かるまで、君はあくまで預かりの身分だ。それでも良ければ、そこの友と一緒にここにいるが良いさ。僕は同じ色を分けた子には優しくありたいんでね。」

 そう言うといつもの穏やかな微笑みに戻った。

「あ、ありがとうございますっ!俺、きっと来年受かってみせます!」

 大きな声でそう言って、半は深く頭を下げた。

「では、これで一件落着と言う事だね。皆、帰るとしよう。」

 黄丹が皆を促した時に、何かに気付いて立ち止まる。

「そうだ。鶸にこれをやろうと思っていたんだった。」

 そう言って、懐から小箱を差し出した。

「友達と初めてのお泊り会と黄橡から聞いて、久々に作った琥珀糖だよ。皆で食べると良い。」

「あ、ありがとうございます。あ、あの…。今、開けてみてもよろしいですか?」

「あぁ。」

 そっと開けた小箱には、鶸と同じ色で鳥をかたどった物と、桃の花の形と色をした琥珀糖が詰まっていた。

「す、すごい…!宝石みたい…。」

 鶸が言葉を詰まらせる。黄丹が鶸の頭をそっと撫でて言った。

「最年少で入省して以来、毎日頑張っているご褒美だよ。弱い鳥と書いて鶸と読むけど、君は決して弱くはない。昨晩も頑張ったようだね。普段どこか頼りなさげな君が、ここぞという時に持つ強さを私はすごいと思っているから、大事になさい。では、お泊り会を楽しむがいい。またな、少年達。」

 そう言うと大人の集団は帰って行った。


 残された少年達は顔を見合わせた。三人共ほっとした顔をしていた。

「よっし!じゃ、双六でもして遊ぼうぜ!」

「賛成!」

「うん…。」

 ふわぁと欠伸をした鶸を見て、桃が言う。

「でも、その前に…先ずは寝る!起きたら、遊ぼ!沢山寝ても大丈夫!だって、お泊り会は三日間あるんだからさ!」

 そう言うと、桃は大の字に布団に転がった。枕を抱えて鶸が桃の右に来た。横になって桃の右手をぎゅっと握ると小さく言った。

「僕、頑張ったよ…。桃がいつも力をくれるの。ありがとう…。」

「馬っ鹿だな~、鶸。黄丹様も言ってたろ!それは俺の力じゃなくて、お前の実力だよ。」

「ううん…。ありがと…。桃…大好き…」

 そう言うと鶸はすとんと眠りに落ちた。昨晩一睡もしてないのが響いたと見える。

 布団の端っこに転がった半に桃が左手を差し出す。

「ほい。半も手ぇ繋いで寝る?」

「俺はいい!でも、今回の事でお前らの事が少し分かった。」

「ふ~ん…」

 そう言うと大きく欠伸をして桃も眠ってしまった。仲良く手を繋いで寝てしまった二人を見て半は思う。これがこいつらの力の源かもしれない、と。まだ良く分かんないけど、とりあえずいい奴等だ。最年少で試験に受かったのも、今なら分かる気がした。昨晩、窓から押し出された時はどうなる事かと思ったが、結果的に六省に入れたんだと思うと嬉しくなった。俺の人生だって捨てたもんじゃないな…。そう思いながら、半も寝た。


 ※(きゅう)の音=ド。


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