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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
6/26

六 半

     六 ハシタ


 なんでか知らないけど、昔から「変な奴」と言われてきた。向こうは別に悪口を言ってるつもりはないんだろうけど、俺は言ってやりたい。それは誉め言葉じゃないんだぞ、って。言われる度に、暗に「お前は俺達と違うから、あっちに行け」と弾かれている感じがした。嫌な気分だ。え?卑屈?そうだね、どうせ俺なんて…。


     *****


 昔から、気になる事があると徹底的にやらないと気が済まなかった。読み始めた本が面白かったら、全巻読み終えるまで眠れない。気に入った食べ物や食べ方があれば、飽きるまで同じものを食べないと気が済まない。何でもそう。そうして欲が増えて行く。知識が欲しい。情報が欲しい。ありとあらゆる物事について欲した。俺は欲張りだ。でも、他の奴と違った所は、どうすればもっとそれを得る事が出来るか努力した所だと思う。持って生まれたちょっとばかりの霊力を増幅させるまじないを徹底的に追及したんだ。

 その結果、水鏡なる技を会得した。霊力で清めた器に霊水を注ぎ、まじないを唱えると離れた所の出来事を見る事が出来る力だ。会得した時、俺は天才だと思った。

 だけど、冷静になって考えたら、それで?って感じだった。この力が何になる?特に使いみちを思いつかなかったので、黙っていた。


 ある時、里で盗難事件が起こった。長の家から、高価な薬が盗まれたんだ。犯人探しが始まった。俺も興味本位で長の家を水鏡で覗いてた。犯人は絶対にもう一度犯行を行う、って思ってたからだ。で、見てしまった。長の右腕の男が薬を盗む所を。だから、里の連中を巻き込んで欲しくなくて、その男にこっそりとバレている事を伝えて、長に謝るように伝えに行ったんだ。

 俺に指摘された男は吃驚した後に言った。

「お前みたいな子供の言うこと、誰も信じる訳ないだろう?」って。

 腹が立った俺は、長に進言に行った。馬鹿だったんだ。世の中を良く分かって無かった。俺が長の家に言った時、その男は既に長の家にいた。そして、俺を指差して言った。

「長、あの者が薬を盗んでいたのです。里の連中も皆、言っているでしょう。変わり者だと。近頃は家にこもりっきりで何やら怪しげなまじないを行っていたようです。大方、それで長の大事な薬を使ったのでしょう。盗みを働くだけでは飽き足らず、その罪を私に擦り付けようとしてきました。とんでもない奴です!その名の通り、半端者なのですよ。」

「な…っ!違うっ!俺じゃない!お前が長の家の朱塗りの箱から、薬を盗るのを俺は見たんだ!」

「ほら…。お聞きになりましたか、長?長の家に上がらなければ知りもしない朱塗りの箱から盗った、とあの者の口からお聞きになったでしょう?さて…、この者はどうして薬の在処を知っているのでしょうねぇ…?」

 意地悪くそう言われた。俺の話は聞いてもらえなかった。警邏隊にとっ捕まった俺は懲罰を受けた。無実の罪でだ。『嘘つきは泥棒の始まり』と言われ、右手の甲に焼き印を入れられた。盗人の証だ。里の皆から蔑まれ、俺は自棄になっていた。

 こんな里にいるのはもう嫌だ!どこか違う場所に行こう!そう思って、僅かな荷物をまとめて里を飛び出した。どこに行く当てもなかったが、とりあえず、この右手の甲にある焼き印の意味が知られていない場所に行きたくて、ひたすら東に向かって歩いた。


 安い木賃宿に泊まった時に、酒盛りをしている奴らの話が耳に飛び込んで来た。

「いや、今年は大番狂わせだった!まさか、少年期の奴が二人も受かるなんて思ってもなかった!しかも、鳥人の方に至っては、ついこの間まで飛べもしなかった落ちこぼれだった、って噂だぜ。おかげで、こっちは大損だ…。」

「俺も、俺も…。今年は胴元が稼いで終わりだよ!あ~ぁ!来年からは少年期で試験を受ける奴が増えそうだなぁ…。予想が立てにくくなるなぁ…。」

 何の話か気になったので、聞いてみた。

「あぁ?お前も少年期だから気になるのか?今年の六省の試験に、前代未聞の少年期の奴が二人受けに来たそうなんだ。試験を受けるのは青年期からだろって馬鹿にされたらしいんだが、驚いた事に受かっちまったんだよ、そいつら!一人は弓の名手で、もう一人は里にいる時は落ちこぼれだったらしいが、今じゃ六省の一員だそうで…。誰か受かるか賭けてた俺達は大損こいた、って訳だ!」

「なんだ~?小僧も受けたくなっちまったか?だけど、残念!今年の六省の試験はもう終わった!来年にかけるんだな!後は上位の者達に認められる余程の手柄を立てないと入る手段は無いぞ。」

 そう言うと、うははと笑い、また酒を飲みだした。良い事を聞いたと思った。里を出てどこに行けば良いか迷っていたが、六省を目指そう!六省のある都なら、こんな焼き印も目立たない筈。そう思って、以後は都を目指して歩いた。


     *****


 高い山を抜け、川で採った魚を食べていたら、澄んだ歌声が聞こえた。見上げると綺麗な黄色い翼を持った鳥人が飛んでいた。俺を見付けるとすいーっと舞い降りて、木の枝に腰掛けた。

「ごきげんよう~、旅人よ~♪この辺で~、不思議な物を~♪見かけたり~、していませんか~♪」

 声と見た目は綺麗だけど、ヤバい人だと思った。普通に喋れんのかい!とツッコミを入れたくなったが、よくよく考えたら俺も似たようなものだった。だから聞いた。

「不思議な物って、どんな?」

「なんと言いますか~、どぎつい色で~♪異質としか~、言えないものです~♪」

「見てないけど、見たら教える。アンタ、どこの誰?」

「信省の~、金糸雀と~♪申します~、以後よしなに~♪」

 そう言う(歌う?)とまた空へと飛んで行った。信省、って事は六省の一つか。その不思議な物を見付けたら、俺ももしかしたら六省の一員になれるかも!と思って、急いで魚を食った。それから、周辺を見渡しながら歩き出した。さっきの鳥人は見たら分るような事を言っていた。だから、こうしていれば、見付けられるんじゃないかと思って…。キョロキョロしながら山道を歩いていたら、どん!と誰かにぶつかった。

「す、すみません…。」

「こんのボケェ!気をつけろぃ!」

 そう罵られて、端っこに移動する。かなり歩いて夕刻になった。今日も安い宿を探すか、と思って懐に手を入れた時に気付いた。財布が無い!

 思い当たるのは、さっきの男だ…。でも、探し物に夢中で顔も覚えてないし、ぶつかったのはかなり前だ。今から追いかけてももういないだろう…。そう思ったら、溜め息が出た。俺の人生、踏んだり蹴ったりだな…。もう都も近い。暗くなるまで歩いて、せめて都の門の中に入ればこれ以上の物盗りにも会わないか、と思って足が棒になるまで歩いた。


 何とか、閉門前に都に入れた。漸く辿り着いた都は思ってたより地味だった。夜だからか?もっとこう…豪華ケンラーンな感じを想像してた。高い天守を抱く城があって、その周りに六省の面々が住まうという屋敷が並び、そこに市や店もある。程よく整備された庭や広場や鍛錬場もあるみたいだ。

「はぁ…。都はすげー所だな…。でも、物価も高ぇ…。一晩泊まるだけで、こんなにするのか…。こりゃ、財布持ってても、一週間しかおられんかったな…。とりあえず、今日は野宿でもすっか…。」

 そう思って、ちょっとした広場の木の下に腰を下ろした時に、俺の腹の虫が盛大になった。

「なんだ~?すっげー音!お前か?」

 そう言って、暗い中、一人の少年が近付いてきた。

「お前、こんな所で何やってんだ?もう暗くなるから家に帰れよ。」

「でも俺、さっき都に来たばっかりで…。財布をすられて…。一文無しなんだ。だから、どこにも泊まれないし、行く所も無い…。」

「な~んだ!なら、俺っちの部屋に泊めてやんよ!」

 声を掛けて来た少年がズビシ!と自分を親指で差して言った。この辺の住民なのか?

「ありがとう…。助かる…。」

 そう言って立ち上がった時に、また盛大に腹の虫が鳴いた。あはははと少年が笑った。

「泊まる場所の前にご飯だな!」

 そう言うと、腕を組む。

「こっからだと甚さんのご飯がいっちばん近いけど、急に行ったら怒られるかな~?鶸、悪いんだけど、ちょっとひとっ飛びして聞いてみてくんない?」

「うん…。」

 そう言うと、鶸と呼ばれた少年は飛んで消えた。そんで、すぐ戻ってきた。

「熱烈歓迎、って。」

「よっしゃー!お前、ついてるぜ!甚さんのご飯すげー美味いんだぜ!よっし!早速食いに行こうぜ!」

 そう言うと、傍らのもう一人の少年を置いて、俺の手を掴んで走り出す。でっかい屋敷の門を「お邪魔しま~す!」と叫んでくぐると、勝手知ったるなんとやらといった感じでどんどん奥に入って行く。

 そうして、悪びれもせずに戸口を開けて言った。

「甚さん!ご飯!ご馳走になりに来ました!」

「こんばんは、桃。そっちの子が腹ペコの子かい?」

 杓文字を手にしたすらっとした人がいた。さっき、走り出した時に後ろにいた鳥人の少年は既に着いていた。飛んできたようだ。

「あ。は、初めまして…。急にすみません。俺、半って言います。今日、都に来たばっかりで…。その…財布をすられて一文無しで困っていたら声をかけられて…。」

「それは、災難だったね。まぁ、ご飯でもお食べなさい。少年期はお腹が空くだろう?」

 そう言うと、卓に案内してくれた。上には巻きずしやら、煮物やら、色々あった。

「すっげー!俺っち、甚さんのご飯大好き!いっただきま~す!」

 俺をここに連れて来た桃と呼ばれた少年は手を合わせるとすごい勢いで食べ始めた。向かいに座った鳥人ももそもそ食べ出す。俺も倣った。

「う…美味っ!じゃなくて…。大変美味しいです…。」

 空腹は最大の調味料なんていうけど、そんなの関係ない位美味しかった。箸が止まらない。食べてる最中に赤い髪をした豪快な人が「甚三~、酒あるか~?」とやって来た。

「お!桃。うちの飯は美味いか?」

「あ、緋色様!お邪魔してます!甚さんのご飯はいつでも、すっげー美味いです!俺っち、ここんちの子になってもいい!」

「ハッハー!そりゃあいい!紅んとこが嫌になったらいつでも来い!鶸もな!」

「あ…、ハイ。」

 消え入りそうな声で答える鳥人の少年を見てたら、俺にも声がかかった。

「で、そっちは?」

「半!俺っちの友達!」

 桃と呼ばれた少年がそう言ったから、吃驚した。だって、俺達はさっき会ったばかりなのに…。緋色様と呼ばれた大人が、俺の右手を見て眉をひそめた。

「お前、それ…。」

 しまった!都でもこの焼き印を知っている人がいるんだ、と思って慌てて隠した。その不自然な動きで桃達も気付く。

「どうしたんだ、それ…?」

「火傷…?」

「あ…」

 言葉に詰まる。説明したら、俺は盗人だと思われて追い出されるかも…。口をつぐんだ俺に緋色様と呼ばれた人が顎をしゃくって言った。

「おい、甚三!」

「はいはい…。君、ちょっと手を出して。」

 穏やかな物言いだったので、つい手を出してしまった。甚三と呼ばれた人は俺の右手をとると、俺の右手の甲に自身の右手を重ねた。それから、なにやら唱えだす。

「はい。これでもう大丈夫ですよ…。」

 そう言ってから、右手を離す。右手の甲にあった焼き印は綺麗に消えていた。

「な、なんで…?」

「ん?そっか!お前、今日都に来たばっかだから知らないのか!甚さんこと、この甚三紅様はな、料理の腕は勿論、治癒能力にも優れたすっげー方なんだぞ!恐れ入ったか!」

 何故だが桃が得意そうに言った。鶸がうんうんと頷いている。

「そんな風に言われると照れますね…。」

 甚さんはにこにこしている。

「あ…。そうじゃなくて…。」

 口篭もっていたら、緋色様が言った。

「お前がどんな奴かは目を見りゃ分かる!お前にその焼き印は似つかわしくないから消した!そんだけだ!じゃあな!」

 そう言うと、酒瓶をひっつかんで行ってしまった。

「すみません…。うちの大将はあんなですけど、いい方なんですよ。」

 甚さんが困ったように言う。そんなの…俺にだって分かるよ!俺の話を聞いてもくれなかった長と違って、あの人は目を見ただけで冤罪だって分かってくれたんだ。ちょっと涙が出そうになった。


 お腹いっぱいご馳走になってから、お礼を言って桃の部屋を目指す事になった。歩いていたら、大きい屋敷の前でいかにも大人!って人がうろうろしてた。

「鶸!帰りが遅いから心配していました。」

「あ…只今戻りました。ごめんなさい…。甚三紅様の所で夕食をいただいてました…。」

「あぁ…。謝らなくても良いのですよ。桃と一緒だったのですね。金糸雀と一緒では無かったのですか?」

「金糸雀さんとは、午後別行動…」

 消え入りそうな声で答える鶸。

「そうですか。教えてくれてありがとうございます。」

 そう言う大人に桃が声を掛ける。

「ねぇ、黄橡様。明日は鶸もお休みの日だから、今日、俺っちの部屋に泊めてもいい?」

 黄橡様と呼ばれた大人と鶸が吃驚する。

「え?僕も、いいの…?」

 おどおどしてばっかりの鶸が、ぱぁっとすごく嬉しそうな顔になった。それを見た大人が言う。

「構いませんよ。鶸、他の方に迷惑はかけないようにするのですよ。」

「は、はい!あ、僕…枕持ってくる!」

 そう言うと鶸は、文字通りすっ飛んでった。で、一瞬で戻って来た。

「えとえと…。黄橡様、行ってまいります。」

 ぺこりと頭を下げる。その頭を撫でて黄橡様が言う。

「はい、行ってらっしゃい。桃、うちの子をよろしくね。」

「かしこまり~。」

 桃はにかっと笑ってそう言うと、手を振ってずんずん歩き出す。


 そして、これまた大きな屋敷に着いた。

「たっだいま~!」

 大きくそう言って、上がり込む。

「お邪魔します…。」

「お、お、お邪魔します…。」

 想定外のデカい屋敷にビビりながら、俺はキョロキョロしつつ着いて行った。

「お帰りなさい、桃。遅かったね?」

「あ!葡萄エビ様!今日ね、甚さんのご飯ご馳走になってきたんだ~!」

「なんと!羨ましい…。私も今度、お酒を持ってご馳走になりに行きますかね…。」

 そう言って腕組みした大人に、枕を抱えた鶸が挨拶する。

「葡萄様…、こんばんは。お邪魔します…。」

「おや、鶸?桃の所にお泊りかい?やるねぇ~!」

 茶化すように言ってから、俺に気付いた。

「おや?見ない子だね。君は?」

「半!俺っちの友達!今日、こいつも俺っちの部屋に泊めるから!」

 桃は屈託なくそう言った。

「は、半です…。今日、都に着いたものの、財布をすられて一文無しで…」

 ごにょごにょ言ったら頭を撫でられた。

「それは災難だったね。ちょっと待っていなさい。」

 そう言うと、どこかに消えてすぐに戻って来た。手にした皿には、つややかな葡萄が載っていた。

「はい。甚三紅のご飯を食べたならお腹はいっぱいだろうけど、水菓子なら入るだろう?折角のお泊り会なんだから、これを皆でお食べ。」

 にっこり笑って差し出す。

「すっげー!美味そー!葡萄様、ありがとうございます!」

 桃は勢いよく頭を下げる。つられて鶸と俺も倣った。

「どういたしまして…。これからそれでお酒を作る所だったから、飲めない桃には水菓子でと思ってたんだ。じゃあね、お風呂にもちゃんと入るんだよ。湯冷めしないようにね。」

「は~い!」

 元気に返事をして階段を上る。三階の一番端っこが桃の部屋だった。

「じゃ、これ。お前と俺、背丈いっしょ位だから着られるだろ?」

 そう言って、着替えを渡される。

「鶸は?持って来た?」

 こくこくと頷く鶸。枕と一緒に持っていた風呂敷包みを出す。

「じゃ~、風呂行くぞ!」

 

 一階にあった風呂は大きな岩で出来た露天風呂だった。

「ひゃっほー!」

 そう言って、誰もいない露天風呂を桃はバシャバシャと水飛沫を上げて泳いでいた。鶸の背中から翼が生えてるのを間近で見て、俺は吃驚していた。鳥人って、本当に翼が体の一部なんだ…。あまりにジロジロ見てたせいか、鶸が「見ないで…」と消え入りそうな声で言って、ブクブクと湯に顔まで浸かってしまった。

「ご、ごめん…。鳥人を間近で見るの、初めてだったから…。」

 それを聞いた桃が泳ぐのをやめて、こっちに来る。顔まで浸かってる鶸を背中で隠すようにして湯に浸かる。鶸が顔を出してこっちを見た。

「なぁなぁ~、半ってどっから来たの?」

「ずっと西の里から。」

「お~!じゃ、あの山越えてきたんだ!根性あるなぁ、お前!」

 白い歯を見せてそう言うと、俺の背中をばしんと叩いてきた。

「そんな事より…。桃はお金持ちなの?こんなすごいお屋敷に部屋があるなんて!鶸もだよ!何だよ、さっきの人達と知り合いかなんかなの?」

 それを聞いた桃と鶸は顔を見合わせた。

「いや~、俺達が金持ちって訳じゃなくて…。職場の寮なんだよね、ここ…。」

「職場って…。ここは六省がある所だろ…」

 そう言いかけて気付いた。もしかして…。

「今年の六省の試験を少年期で受けに来た前代未聞の二人って、お前ら?!」

「あ~、うん…。そんな風に言われてるんだ、俺達…。」

 照れて頭を掻く桃と桃の後ろにすっかり隠れて小さく頷く鶸がいた。

「す、す、すげー!!!俺、有名人と友達になっちまった!」

「有名人だなんて、そんな…。やらかしてばっかだよ、俺っち…。ま、今後に期待って事で目をかけてもらってる、って感じかな~。」

「そう…。大器晩成…。」

 小さく鶸の声もする。それで思い出した。

「あ!思い出した!俺、今日、鶸みたいな黄色い鳥人を午後見掛けたわ。」

「金糸雀さん?」

 鶸が吃驚して俺を見る。

「あ~…。名前はちょっと度忘れしたけど、歌って喋る人だった。」

「それ!金糸雀さん!間違いない!」

 桃が言う。

「金糸雀さん、まだ帰ってないって…さっき聞いた…。心配…。」

 鶸がしょぼんと言う。何だか助けてあげたくなるというか…。そこで俺は言った。

「じゃあさ!俺が会った場所の近くを探してみようぜ?」

「今から、山に行くのか?」

「うんにゃ!俺の技をお前らに見せてやるよ!」


 そうして、風呂上りに桃の部屋で俺は自分で焼いた深皿を出す。

「ここに、霊水を注ぎたいんだけど…ある?」

「ん~。ちょっと待ってて!」

 桃はそう言うと部屋を出て行った。残される俺と鶸。気になってたから、聞いてみた。

「なぁ。聞いたんだけど、少し前まで飛べなかった落ちこぼれって本当?」

 鶸はビクッとした後、頷いた。

「そう…。僕、飛べるようになったの最近だから…」

 枕を抱えて顔を隠すように、消え入りそうな声で言う。

「あ、ごめん…。さっきもジロジロ見ちゃったけど、その…悪気は無くて…。ただ…すごいなぁ、って。俺も…周りから変だとか、半端者とか言われてばっかりだったから、勝手に親近感を抱いたって言うか…、その…。どうやって、変わったのか教えて欲しいんだ。俺も…出来たら来年、六省の試験受けてみようって思ってるから、参考までに…。」

 上手く言えなかったけど、何とか言いたい事は伝えられたと思う。鶸は顔を上げて言った。

「桃が…」

 そう言った時、勢いよくスパン!と襖が開いた。

「霊水無かったから、清めてあった酒持ってきた!」

 そう言って、竹筒を見せる。そうして、早速器に注いだ。

「…くさっ!」

 顔を背ける桃。コイツ…。なら、なんで持って来た…。酒でやった事はないけど、清めてあるなら霊水と同じようなもんだし、いけるかと思ってまじないを唱え始める。器を覗き込む桃と鶸。ぼんやりと山の風景が映し出される。

「すっげー!何これ!?半、すっげー!」

 桃は興奮している。まぁ、褒められて悪い気はしないから教えた。

「俺の特技の水鏡だ。霊力で、見たい場所を見られる。」

「……。」

 鶸はじっと覗き込んでいる。俺も集中した。山の風景が徐々にくっきりと映し出される。

「明度良好…。ここ知ってる…。」

 鶸が言う。俺は、説明しながら、映し出す場所を少しずつずらしていく。

「ここで、魚を食ってる時に会った。探し物してたみたい。」

「探し物?鶸、何か聞いてる?」

 桃に問われて、首を振る鶸。

「ふぅん…。」

 少しずつ場所を変えてた時に、鶸が叫んだ。

「そこ!」

「「どこ?」」

 俺達は聞き返す。

「戻して!」

 鶸に言われるがまま、さっき映していた場所に戻す。鬱蒼とした木々を指差して鶸が言った。

「金糸雀さん、ここ!」

「………。」

 そう言われても、俺には分らなかった。葉っぱしか見えない…。でも、鶸は譲らない。

「存在確認!救助要請!!」

 スックと立ち上がった鶸を桃が引き止めた。

「待て、鶸。大人に知らせる気か?」

 こくりと頷く鶸に桃も立ち上がって言った。

大事おおごとにするな。さっき、信省の前で黄橡様に会った時、黄橡様はお前に居場所を尋ねただけだった。本当に捜索しているのなら、もっと大々的に探してる。でも、義省で飯を食ってる時も、そんな雰囲気はなかった。だから…、きっと金糸雀さんは内密に動いてるんだ。それなのに俺達が騒いでしまったら、金糸雀さんの努力が無駄になる。いつも一緒にいる鶸なら、分かるな?」

 鶸はコクっと頷くと、桃の右手をぎゅっと握った。

「イチレンタクショー…?」

「おうよ!」

 桃はそう言うと、こっちを見た。

「半も一緒に来いよ!俺っち達が出来る奴だって見せつけてやろうぜ!」

「え…?ええっ!」

 戸惑う俺の目の前で二人は着替えだす。さっきまでオドオドしてた鶸が、別人みたいにてきぱきしてた。「ほら!」と俺にも服が渡されたので、慌てて着替える。桃は押し入れを開けると、天袋から縄を取り出し、腰にぐるぐると巻いた。

「よっし!」

 それから、何やら書きつけると、窓を開けた。

「行くぞ、半!」

「行くって…。まさか窓から…?」

「うん!もう玄関締まってるし、見つかったら怒られる。ほら、今、縄を垂らすからそれをつたって降りろ。」

「ひぃぃ…。ここ、三階なんだけど…。」

「大丈夫だって!天守より低い!ほれほれ…。」

 ぐいぐい押されて、窓の外に追いやられる。高い所は苦手だ…。震えてたら、鶸の声がした。

「安全保障。絶対守護!」

 胸の前でぐっと両手を握って、宙に浮いてる鶸が俺を見ていた。

 何だよ…。さっきまで守ってもらわなきゃ何も出来ないみたいな雰囲気だった奴が、何、急に頼もしい奴になってんだよ!桃だって、ただのお調子者だと思ってたのに…。全く…!お前ら全然、分っかんねえよ!でもさ、知りたい、って思っちまったんだ。この前代未聞の二人の事を。だったら、怖いなんて言ってないで、行くっきゃないよな!

 俺は縄を伝って下に降りた。桃も素早く降りて来た。


「こっち!」

 桃が俺の手を掴んで夜の闇を走り出す。鶸が飛んで着いてくる。二人に手伝ってもらって、俺は都の門も飛び越えた。

 そうして、都の外に出た俺達三人は水鏡で見た場所へと急ぎ向かったんだ。


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