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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
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五 鶸

     五 鶸


 入省してしばらくはお客さんみたいな扱いだったけど、ここでの生活にも慣れて来たので金糸雀さんと一緒に警邏の仕事に出掛ける事になった。金糸雀さんは基本、高い所にいる。省内にも玄関からは入らない。窓から入る。不思議に思ってたけど、教えてもらった。金糸雀さんの二本の足はもう動かないんだって。昔、贄として差し出したからもう歩けないんだって…。その話を聞いたらなんだか僕が悲しくなっちゃって、涙ぐんだら頭をよしよしされた。

「翼があるから大丈夫ですよ~、鶸は優しいですね~♪」

 だから、僕、金糸雀さんの足をひっぱらないようにしよう!って決めたんだ。夜目を鍛える事にした。金糸雀さんは優しい。何でも嫌な顔一つせずに教えてくれる。僕、金糸雀さんと組めて良かった。空を飛びながら、あちこちの村や里について教えてもらう。警邏の要となる要所だけじゃなくて、美味しい食べ物や名産品、名所。そういうのを僕、部屋に帰ってから帳面にまとめてるんだ。いつか、桃と一緒に旅に行けた時に教えてあげたいと思って。だって、里を逃げ出して桃と一緒に歩いた都までの道中は楽しかった。またいつか、二人であんな風に旅してみたいの。


 そんなある日、遂に一泊する少し遠めの警邏に出掛ける事になった。

「鶸、大丈夫か?気を付けて行けよ。」

「うん。金糸雀さんが一緒だから平気!何かお土産持って帰るね!」

「土産なんかいらねーから、怪我せず帰ってこいよ。」

「うん!」

「あ~…。心配だ…。くっそ、俺っちも飛べたら良かったのになぁ…。」

 そんなやりとりをしてる僕達を木の枝に腰掛けた金糸雀さんがニコニコしながら見てた。

「鶸~、そろそろ出ますよ~♪」

「は、はい!じゃ、行って来るね、桃。」

「おう。」

 入省以来、毎日一緒におやつを食べてたけど、今日は出来ない。さみしいな…。だから僕はそっと手を出した。

「桃、ぎゅっってして。」

 桃に手を握ってもらうと安心するから。

「おう!気を付けていってこいよ。」

 桃がぎゅってしてくれる。桃の手はあったかくて、いつも春を感じるの。

「えへへ…。元気出た!僕、頑張ってくるね!」

 桃の温もりが残る左手を握りしめて、僕は空へと飛び立った。


 今までの近距離の警邏と比べて遠距離警邏は体力が削られる。

「ずっと羽ばたこうとせずに~、上手く気流に乗るのです~♪楽ですよ~♪」

 金糸雀さんにコツを教えてもらいながら進んだ。飛びながら前回と異なる気になる箇所がないか、確認しておくべき要となる場所も教わる。覚えなきゃならない事はいっぱいだ。

 そんな訳で、本日の仕事を終えて泊まる宿屋についた時はへとへとだった。

「お疲れ様でした~♪お先にお風呂どうぞ~♪私は~、報告書を~♪」

 お言葉に甘えて先にお風呂に入って、一緒にご飯を食べたら眠くなってすぐに寝てしまった。

 翌朝目覚めたら、既に金糸雀さんは起きてた。

「おはよう~♪先程文が来て~、昨日の報告で~、仕事終了となりました~♪少し遊んで~、帰れますよ~♪」

「ほんとですか!?うわぁ、じゃあ、桃へのお土産を見てもいいですか?」

「勿論~♪」

「何がいいかなぁ…。やっぱり、名産品でしょうか?」

 そう聞いたら、金糸雀さんがにっこり笑った。

「でしたら~、鶸が~、採ってみましょう~♪」

「え?採る?」

 ちんぷんかんぷんな僕を金糸雀さんはとある渓流に案内した。

「もしもし~♪」

 枝に腰掛け、そこにある建物に向かって声をかける。

「あ!金糸雀様!お疲れ様です!」

「いつ見ても聞いてもお美しい!今日は何の御用で?」

 腕と足元をまくった人達が出て来た。

「今日は~、お願いがあって~♪この子に~、あれを~、採らせてもらえませんか~?」

「ああっ!もしや、そっちにいる子が例の前代未聞の子ですかい?いやぁ、噂は聞いてまっせ!」

「は、はいっ!鶸と申します。よ、よろしくお願い致します…。」

 ぺこりと頭を下げる。

「そうかい、そうかい。よろしくな。まぁ、素人じゃ、あまり採れないかもしれないが、頑張りな!入省祝いに、特別に採れた分だけお前さんにやるよ。」

「あ、あの…。僕、何も分からないんですけど…。一体、ここで何が採れるんですか?」

 それを聞いた人達がニカッと笑った。

「砂金だよ!」

「さ、砂金…?」

「そう。こうやって、底にある砂を掬って水中でふるっていくと…稀に砂金が採れる。」

 早速、渓流に入っていった人がお手本を見せてくれる。しばらくふるってから「ほれ、あった!」と叫んだ。僕は走って見に行った。砂粒の中にキラリと光る物があった。「これだよ」とつまんだ砂金が手のひらに載せられる。キラキラしてた。

「すごい…!綺麗…。」

「だろ?欲しかったら、頑張ってふるいな。」

「はい!」

「あ~、でも、その前に、濡れてもいいよう、向こうで作業着に着替えて来い。裾はちゃんとまくって濡れないようにするんだぞ!」

「はい!」


 それから、僕は渓流に入ってひたすらふるいをふるった。最初にお手本を見せてもらった時はすぐに採れたのを見たので簡単だと思ってたのに、全然だった。

「はっはっは!何でも熟練の腕って物があるからなぁ~。まぁ、頑張れ。」

「鶸~、昼には出発しますよ~♪」

「は、はい…!」

 お昼になるまでに砂金を見付けないと、桃へのお土産がなくなっちゃう…!僕は場所を変えてみた。だんだん手と足が冷たくなってきた。それでも、桃に砂金をお土産にしたくて懸命にふるった。今度も無かったから、もう一回。ぐっと蓑を砂底に刺した時に、ざぷんと水が掛かった。

「ぴゃっ!」

「鶸っ!?」

「大丈夫か!?」

 吃驚して転んだ。金糸雀さんが飛んできた。川底に手をついたから、そこにあった砂を掴んで立ち上がった。開いたら、手のひらに光る物があった。

「あっ!見て下さい!光ってる!」

「おっ!やったな!落とすなよ。」

 そぉっと、ふるいにいれてもらってふるった。ちいさな砂金が二つだけ採れた。くしゃみがでた。

「初回で二粒採れたら優秀だ。これは砂金にしては大きい方だし。もう、上がりな。冷えるといけねぇ。小屋の裏に温泉があるから、そこであったまってから着替えな。」

「は、はい…。どうも…ありがとうございます…。」

「私が~、預かっておきますね~♪」

「はい。急いで行ってきます!」

 びしょ濡れになった作業服のまま、裏手に向かう。小さな掘っ立て小屋の中に穴があって、中から湯気が出てた。ぽこぽこ音もしていた。

「すごい…。地面からお湯が出てる…。」

 そっと入った。とろりとしてた。黄色く濁っている湯は不思議な匂いがした。

「これが…温泉。」

 後で桃にも教えてあげようと思った。今日は初めての体験をした。大変だけど、無事に砂金が採れて良かった。これで桃にお土産が出来た。そこで気付いた。着替えを置いたまま来てしまった事を。

「どうしよう…。」

 裸で取りに行くのは嫌だから、濡れたのをまた来て取りに行こう、と思って手にした時に声がした。

「鶸~、着替え忘れてますよ~♪」

 金糸雀さんが届けてくれた。

「ご、ごめんなさい…。お手数かけてすみません…。」

「いいんですよ~♪桃への~、お土産採れて~、良かったですね~♪」

「は、はいっ!!」

「お昼を~、一緒に食べましょう~と誘われたので~、行きましょう~♪」

 着替えてから、僕が温泉に入ってる間に採ったという川魚を焼いたのをご馳走になった。

「俺らも頑張ってますんでね、六省の方々も頑張って下さいよ。」

「はい~♪また来ます~♪」

「ありがとうございました。」

 よぉくお礼を言って別れた。飛びながら金糸雀さんに言った。

「いろんな生活をしている人がいるのですね。」

「ええ。それらを知り~、体験することが大事なのです~♪」

 分かった気がする。百聞は一見に如かず。書物からだけじゃ、得られない知識や体験が沢山あるんだ。世の中って、なんて広いんだろう…。飛べずにあの里にいたままだったら、きっとずっと知らないままだった。


     *****


 夕方に六省に帰り着いた。桃が天守の上で手を振ってるのが見えた。

「鶸―っ!おかえり~!!」

 大きく両手をぶんぶん振ってた。

「報告書は後にして~、会って来たらどうですか~♪」

「だ、大丈夫です!すぐに終わらせて行くので!!」

 桃に手を振り返して、省内に入る。

「おっ!おかえり、鶸!無事に任務達成のようだな!」

 すれ違った紅様に声を掛けられた。

「はい!ありがとうございます。」

「無事に帰ってきて何よりだ。お前さんがいない間、うちの桃の元気が無かったからな。これで漸く元に戻る。さっきの「おかえり」も省内に響く大声だからな…。でも、あの野郎がしょげてるよりずっといいわ!」

 あっはっは、と笑いながら紅様が歩いて行った。そしたら、向こうから桃が駆けて来た。

「おかえり、鶸っ!」

「桃!ただいま。」

「おう!無事で良かった。報告書あるんだろ?まとめてる間、待っててもいいか?朝、甚さんが鶸の初遠距離警邏達成祝いにご飯作ってくれるって言ってたから、終わったら一緒に食べに行こっ!」

「ほんと!?うわぁ…楽しみ♪頑張って、すぐに終わらせるね!」

「うん、待ってる。」

 桃が僕を待っててくれるから、頑張って終わらせた。蘇芳様の所に走って持って行ったら「良く出来ました」と褒められた。

「今日は君の為にうちの甚三紅ジンザモミが朝から「腕を振るう」と張り切っていたので、私も今日は早めに上がります。夕飯、楽しみですね。」

 気難しいばかりの方かと思っていた蘇芳様が微笑んだ。

「はい!」って大きく返事をした。それから、外で待っててくれた桃と合流した。

「桃、お待たせ!お土産あるよ!手ぇ出して!」

 僕は懐に入れておいた懐紙をそっと出して開いた。中にある小さな二粒のうちの一つを桃の手のひらに載せる。

「なんだ、これ!?小さいけど、すげー金ぴかだぞ!」

「うん。砂金て言って、本当の金なんだよ。僕が採ったの。」

「えっ!?鶸が?砂金て採れるもんなのか?」

「うん。あのね――」

 僕は歩きながら、今日の出来事を桃に話した。

「はー。大変だったんだな…。そんな大変な思いして採ったのに、俺っちがもらっちゃっていいのか?」

「勿論!桃にお土産にしたくて頑張ったの!初めて採った砂金だから、記念に僕と桃、お揃いで持っていたいの。小さいけど、失くさないでくれると嬉しい…。」

「おう!大事にする」そういうと自分の懐紙に大事そうに包んでしまった。

「お日様の欠片が手に入ったみたいで嬉しいや。」

 お日様の欠片って言い方、なんかいいなぁ。


 そんな事を思いながら義省の屋敷についたら、東雲様が表で待っていた。

「おかえりなさい、鶸。お疲れ様でした。甚三紅が待ってますよ。」

 厨房を覗いたら、笑顔の甚さんがいた。

「鶸、お帰り!疲れたろ?たーんと食って帰んな。ほら、先ずは椀物からだ!」

 綺麗な丸いお麩や海老が入った椀物を皮切りに、食べきれない位のご馳走が出た。

「甚さん…。すっごく嬉しいけど…、僕、こんなに…食べきれないよ…。」

「食べられる分だけ食べればいいさ!残っても、うちの連中がぺろりとたいらげるから心配すんな。」

 食後に水菓子まで切ってもらって、満腹になった。夜道を桃が信省の屋敷まで送ってくれた。

「じゃあな、鶸!今日はゆっくり休めよ!土産ありがとな~!」

 桃がぶんぶん元気に手を振って、走って帰って行った。


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