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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
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四 桃

    四 桃


 鶸と二人、少年期でありながら六省の試験に受かった俺っち達は六省で暮らす事になった。残念ながら、俺っちと鶸では省が違う。今日から夜はバラバラだ。鶸がちゃんと眠れるか心配だったけど、鶸を迎えに来た人達が皆優しい色と顔をしてたから大丈夫だと確信できた。

 少年期の者の入省は初めてってんで向こうもちょっと戸惑ってるみたいだけど、色々と模索していく事になった。

「組織に新しい風が吹く事は良い事です。停滞が一番いけませんからね。」

 入省試験の時、俺っちの面接をした銀縁眼鏡の人が言った。えーと…蘇芳様だっけ?人が多いから、先ずは名前と顔を一致させることが最優先事項だ。あとは六省内の探検を鶸と二人でする事になった。向こうは全員俺っち達の事を知ってた。省内にいる少年期の二人組なんて、俺っちと鶸しかいないから、当たり前っちゃ当たり前か。このお仕事拝見みたいなのが、なかなか面白かった。邪魔にならないように仕事を見せてもらうんだけど、霊力の具現化を間近で見るの、ほんとすげー!特に山鳩様!一斉送信の達人と噂で聞いていただけある。目の前にある山程の手紙を一気に鳥の姿に代えて送り出せるんだ。感動!鍛錬の武芸を見るのも面白い。

 霊力ってホント色んな形や力になるんだな~、と思ってた矢先、蘇芳様に呼び出された。

「桃と鶸、入ります。」

 そう言って入室したら、蘇芳様が険しい顔をしていた。他にも沢山の人がいた。俺っちの省で一番偉い紅様や、鶸の省で一番偉い黄丹様もいた。ものものしい雰囲気だった。

「わざわざ呼び出してすまないが、君達に確認したい事があってね。」

「はい…。」

「なんでしょう?」

「実は、先日の試験が終わってからとある鳥人の里から問い合わせがあった。少年期の者が一名行方不明になっている、知らないか?と。」

 俺っちと鶸は顔を見合わせた。鶸は真っ青になって、震え出した。

「その反応…。どうやら、問い合わせの人物は君のようだね、鶸。」

「ま、待ってくれ!じゃない…待って下さいっ!鶸を里に引き渡したりなんかしないでっ!アイツら、鶸を売っぱらうつもりなんだ!」

「…ほう?」

 蘇芳様の眼鏡が光った。

「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

 震える声で、鶸があの夜聞いた会話とここに至るまでを皆に伝える。そこにいた大人達が顔を見合わせた。

「一種、必要悪な面もある置屋だが、まさか人身売買が行われているとはね…。早急に抜き打ち監査を入れるよう、通達を。」

「はい。」

 指示を受けた人が素早く出て行く。蘇芳様がこっちに向き直った。俺っちは鶸を庇うように前に立った。鶸が震える指で俺っちの着物の裾をぎゅっと掴んだ。

「あぁ…、そんなに怖い顔をしなくていいですよ、二人共。確かに少年期の者は里で面倒をみる決まりですが、それは自立する術を持たない者を庇護する為のもの。君達のようにここに入省出来る実力であれば、青年期の大人として扱うという事になった。故に、里への回答は「そちらの里での庇護を必要とするような少年はこちらにはいない」でつっぱねておきました。金糸雀がいた里と違い、鶸がいた里は少々問題があるようだから、抜き打ち監査を入れます。問題があるようなら、即指導に入る。安心して下さい、君達は何も悪いことはしていません。」

「そうだぞ!お前ら胸を張れ!俺ぁ、お前達を気に入ったぞ!」

 短髪赤髪の人が豪快に笑った。えっと…仁省の緋色様だっけ?

「『人買ひ舟は沖を漕ぐ…』と言うが…。まさかこちらの世界でも人買いが行われているとはねぇ…。雅じゃないねぇ。実に…、嘆かわしいよ…!」

 パチンと鳴らして扇を綴じたこの人はムラサキ様だっけ?

「ふふっ。そう考えると鶸の逃亡の先導をした桃は優秀でしたね、ユカリ様。」

「おっ!かけてきたね。流石、緑。」

「…?お前ら、何言ってんだ?」

「『閑吟集』ですよ、緋色。『人買ひ舟は沖を漕ぐ とても売らるる身を ただ静かに漕げよ 船頭殿』の船頭と先導をかけたのです。『船頭多くして船山に登る』とも言いますし、船頭が優れ者かどうかは重要ですよ。」

「あぁ…そっ。俺にゃあ、分かんねぇ…。」

 ボリボリと頭を掻く。

「けど。お前ら、困った事があったら俺らに言えよ!」

「「は、はい…!」」

「鶸よ。嫌な事を思い出させて悪かったね。君の出身地付近は君の警邏の対象にならないように配慮するから安心し給え。」

「あ、ありがとうございます、黄丹様…。」

「では、下がり給え。」

 二人で一礼してから退出した。五歩歩いてから、深い息を吐いた。

「ハァーッ。すっげーキンチョーした!重圧感半端ねぇ~!!でもっ!良かったな、鶸!これでもう大丈夫だ!」

「うんっ!」

 懸念事項から解放された鶸が満面の笑顔で頷いた。金ぴかのお日様みたいに眩しかった。俺っちの手をぎゅっと両手で握りしめると言った。

「桃のおかげ!ありがと!僕、桃大好き!」

「お、おう…。なんたって、俺っち達は一蓮托生だからな!よっし、まだ見てねー所を見に行こうぜ!」

 そう言って、鶸の手を引いて走った。なんか分かんねぇけど顔が火照って…鶸に見られたくなかった。

「待って…!桃…、速いよ~!」

 鶸が後ろで息を切らしながら言ってたけど、振り向けなかったし、速度も落とせなかった。なんでだろう…。ごめんな…。


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