モールス信号で本音がダダ漏れ、キャサリンさん。日本海軍気象部所属、タナカさん、アメリカ娘と恋をする。
モールス信号でデレる、キャサリンさん。
「あらっ、キャシー、こちらの男性は誰?」
「……つきあってるの?」
食堂で彼と食事をしていたら、突然声を掛けられた。
同じ通信部のアリサだ。
「ううん、アリサ、違うわ」
私は、少し残念そうに言った。
私の名前は、キャサリン。
身長は、175センチくらい。
彼より10センチくらい背が高いわ。
肩までのフワリとした金髪に、青い瞳、眼鏡をかけている。
白い肌。
豊かな胸部装甲。
通信士の制服。
ガタリッ
彼が立ち上がり、直立不動になった。
黒髪、黒い目。
がっしりした典型的な日本人体型。
ステキッ
私の祖父は日本人よ。
男性の好みは祖母譲りなの。
彼は正に、大和男児、益荒男よっ。
日本語が出来るからといって、強引に彼の世話を引き受けてよかったわ。
「日本海軍気象部所属、タナカ・テツヤ大尉でありますっ」
「先日の超大型台風に巻き込まれ、貴艦に救助されたのでありますっ」
びしっ
彼が敬礼した。
ああっ、
---・- ・-・-- ー・ー・・ (ステキッッ)
私は、食堂のテーブルに指先でモールス信号(ー ツー、・ トン)を打っていた。
本音をモールス信号で打つのは私の癖だ。
彼をうっとりとした目で見上げた。
「うっ、ミスッ、キャサリン……殿っ」
「?」
タナカさんが顔を赤くしていたわ。
「あっ、じゃあ、あなたが噂の遭難者ね」
「そうよ、ゲスト(お客)よ、つき合っていないわ」
・ー ー・ー ー・ー ーー・ー (イマワネ)
また、タナカさんがこちらを見たわ。
食堂の窓の外は青い空、そして白い雲が流れていた。
◆
自分の名前はタナカ・テツヤ。
南極と北極の氷が解けて地表の九割が海になった地球。
それにより大気の状態は荒れに荒れ、超大型台風が発生するようになっていた。
大気の状態を監視するのが、自分の所属する気象部の任務である。
日本海軍飛行艇、”水無月”。
いざとなったら海中に潜水して、台風をやり過ごすことが出来る万能飛行艇だ。
自分は太平洋で任務中だった。
超大型台風から逃げ遅れて、”避難潜水”中にアメリカ軍に救助されたのである。
アメリカ海軍所属、大型飛行艦空母、”エンタープライズ”
救助された艦の名前である。
今、自分を日本に送るために、日本の領海に向かって飛行しているのだ。
到着までに約一カ月かかると聞いた。
自分は日本海軍軍人である。
モールス信号も身につけている。
キャサリン殿おっっ。
本音がダダ漏れだっっ。
◆
「……〇……か?」
うふふ、タナカさんの英語よ。
彼は英語の聞き取りは完璧なのだけど、発音が独特ね。
聞き取りにくい時があるわ。
日本語が出来る私の出番よ。
「ダイジョブですかー?」
「ありがとう、ミス、キャサリン殿」
「納豆はないのだろうか?」
朝食時である。
「まアっ、納豆っ!!」
「大和男児が自分の胆力を周りに示すタメに食べる、腐った豆のことネッ」
「えっ」
「益荒男っぷりを周りに示されるおツモリなのネっ」
---・- ・-・-- ー・ー・・ (ステキッッ)
ーーー・ー ー・ー・・ (スキッッ)
テーブルを指で叩いたわ
「ええっっ」
タナカさんが一瞬へんな顔をした後、真っ赤にしたわ。
残念ながら納豆は無かった。
月のきれいな夜だったわ。
飛行艦、エンタープライズは日本に向けて飛行中よ。
外部通路を歩いていたわ。
プフウ
通路の手すりにもたれて煙草をすっている男性が。
「タナカさん」
「ミス、キャサリン殿」
「何か困ったことはないですか」
自然な感じで彼の横に並んだ。
彼は気をつかって煙草を携帯灰皿に入れたわ。
気遣いがステキッ。
「あっ、船がゆれましたっ」
わざとふらついて彼の腕に、私の豊かな胸部装甲を押し当てたわ。
うふふ、これでどう?!
頭一個分くらい背の高い私がもたれかかっても、びくともしないわ。
ステキッ。
「キャ、キャサリン殿っ」
顔は真っ赤よ。
二人とも。
「……き、きれいな月ですね」
眼下は広大な太平洋。
海面に月が映る。
まあっ、そんな、いきなりプロポーズされたわ。
まだお付き合いも始まっていないのに。
ー・・・ ・ーー ーーー・ー ー・ー・・ ・・ ・ー・ーー ・・ ーーー・ー (ハヤスギデス)
彼の腕を叩いていたわ。
ポッ
「ん?」(早すぎ?)
「?」
タナカさんが不思議な顔をしていたわ。
※タナカは、”きれいな月ですね”が求婚の意味をあらわす文学作品を読んでいなかった。
あっという間に、一カ月が過ぎてしまったわ。
大型飛行艦空母、”エンタープライズ”は順調に日本の領海まで飛行しているの。
でも、タナカさんが初心で硬派なので、デートには誘えたけど告白までは出来なかったわ。
……プロポーズされたはずなのだけど。
---・- ・-・-- ー・ー・・ (ステキッッ)
ーーー・ー ー・ー・・ (スキッッ)
と何度テーブルにモールス信号を打ったことかっ。
こちらも緊張して何も言えなかったのだけれど。
日本の領海まで到着したわ。
飛行艇、”水無月”に、彼が乗り込んだの。
震電にフロートをつけて、ジェット化したような形と彼が言っていたわ。
「お別れですわ」
少し涙がでたわ。
「うっ、ミス、キャサリン殿」
「ミスター、タナカ、発艦準備、スタンバイ」
「エレベーターアップします」
彼を乗せた飛行艇が空母の甲板にリフトアップされたわ。
艦橋の通信席に戻りましたの。
「ミスタータナカ、発艦許可がでました」
「発艦してください」
私が言いましたわ。
「キャサリン殿……」
名残惜しそうに聞こえたわ。
「……水無月、タナカ機、発艦します」
「今までありがとうございましたっ」
飛行艇、”水無月”が後ろのジェットを下向きに、フロート前部にある小型ジェットを吹かして垂直上昇。
飛行空母、エンタープライズから発艦した。
日本軍の基地に帰るのだ。
「?」
タナカ機が、エンタープライズの艦橋から離れない。
飛行艇のキャノピー越しにタナカさんの顔が見えた。
「えっ」
「タナカ機より入電っ」
モ―ルス信号だ。
・・--・- ---・- ー・ー・・ ー・ー・ー ーー・ ・ー・ー・(ミスキャサリン)
ーー・ー・ ・・ ーー・・ ・・ ・ー・ー・ ー・・ー・(ジブンモ)
ーーー・ー ー・ー・・ (スキ)
ー・ーー ・ー・ ー・ ー・・・(アナタハ)
---・- ・-・-- ー・ー・・ ・ー・ーー ・・ (ステキデス)
えっ、ええええ、タナカさんはモールス信号が出来るの?
全て伝わっていたのっ?!
ボッ
一気に顔が熱くなった。
「うおおおお」
「ついに言ったああ」
「遅すぎるわっ」
「やっとかあああ」
「勝ったああ」
その実、二人が両想いなのは艦内ではバレバレで、いつ告白するか賭けが行われていたぐらいなのだ。
「ほらっ、キャシー」
同僚のアリサがモールス信号器を渡してきた。
「う、うんっ」
・・ー ーーー(ウレシイ)
-・-ー --・-・ー・・ー・(ワタシモ)
ーーー・ー ー・ー・・ (スキデス)
まなじりに涙をためながらモールス信号を打った。
ー・ー・ー ーー・・ー ・・ ーー・ー・ ・ー (サビシイ)
ーー・ーー ・ー ー・ ・ー (アイタイ)
ー・ー ー・ーー・ー・ ー・・ー・ (ワタシモ)
二人は結婚を前提にした遠距離恋愛を続けている。
モールス信号は翻訳アプリを使用。
所詮はその程度なのでご容赦を。
彼女の日本の知識は祖父から。
多分にからかわれていると予想する。