レガリア
「無事で良かった」
「良くねーよ。トラップは多いし、道もデタラメ」
ホントひどい目に遭ったとルーカスはブツブツと文句を言っている。
しかし、2人の近くにセプターは見当たらない。
セドリックは2人にこれまでの事情を説明した。
「大方その犯人が今回の件を引き起こしたんだろう」
ヒューゴの言葉を全員が聞き返した。
確かに可能性は高いけど、決して断言できるほどの証拠ではない。
「君たち知らないのか?」
ヒューゴは私とルーカスの方を見て不思議そうに尋ねた。
私とルーカスは何のことだと首を傾げると、彼はため息をついて呆れたように言った。
「古代ラーハのセプターはいにしえのレガリアのうちの1つだ」
「でもそれはおとぎ話の話で……」
「おとぎ話じゃないと言ったら?」
いにしえのレガリアと言うのはこの世界でも有名なおとぎ話に出て来るもので、古代国家の王家に伝わる秘宝を総称したものだ。全部で5種類あり、セプターと王冠、宝珠にマント、そして宝剣から構成されている。いずれも入手が困難で、それを集めたものはこの世界の正当な君主と認められるという。
「半年前にラニーニャ遺跡から発見され保管されていたマントが盗まれる事件が発生している。その時はただの窃盗事件として扱われていたが、あのマントはレガリアの1つだ。魔法省では最重要案件として現在も調査が続けられている」
今回の事が偶然だとは思えない。
ヒューゴは真剣な表情でそう言った。
「でもレガリアが何で構成されているかの詳しい情報は明らかになっていませんよね?」
「公にはな。しかし、研究の結果そのほとんどが判明している。いくつかはどこにあるか分かっていないが」
「じゃあ犯人はそれを知っている、と」
「そもそもレガリアを集めると何が問題なのです?」
セドリックはヒューゴにそう問いかける。
ヒューゴは顔を歪ませながら口を開いた。
「レガリアはそもそも魔法力の高い宝で構成されている。この世界の正当な君主と認められるというのは、この世界で誰も逆らえないほどの強力な魔力を手にすることが出来るということだ。そうなれば……」
「この世界は壊れる」
ルーカスが珍しく真面目な表情をしている。
おそらく犯人は知識はあるものの、魔力は芳しくないのだろう。幸運のタロットカードを使ってこの神殿に入るための魔力を集めていたと推測することが出来る。
この空間は魔法が作り出した幻影であり、魔力が無ければ入り口を開くことすら出来ないだろうから。多分今日入り口を開いたのは私だ。月をなぞった瞬間魔力が吸い取られる気配がした。
「出口はさっきそれらしきものを見つけた。とりあえず魔法省に戻る」
謁見室を出て行こうとするヒューゴの後をついて行く。
『ねぇ、私も連れて行って』
「え?」
取り残されたリーシェが後ろからそう言った。
私たちは動きを止めて彼女の方を振り返る。
『私なら父様が近くにいれば気配で分かるわ。ねぇお願い、連れて行って』
リーシェは私の服を掴んだ。
きっとこの子にとっては父だけなんだろう。そう思うと私はその手を振り払う事が出来なかった。
「わかった。いいよ」
すると彼女は小さな声でまた何かの呪文を詠唱する。
すると、彼女の姿はサラサラと消え去り、私の手の中には美しいティアラだけが残った。




