女の子
髪の長い女の子、小学生くらいだろうか。見たことのない衣装を見に纏っている。
顔は服で隠れていて見えないが、声の高さ的にも身長的にも子供なのは間違いない。
どうしてこんなところに子供が?
『貴方の髪とっても綺麗ね!』
私たちの疑問を気にも留めず、彼女はセドリックに飛びついた。おそらく彼の白い髪が珍しいのだろう。しゃがんだセドリックの髪を無邪気に撫でている。
あまりにもワシャワシャと撫でているのでそろそろ止めようかと私が動くと、セドリックは手で私を制した。
「小さなレディ。僕はセドリック・バートン、貴方のお名前は?」
セドリックは優しい声で彼女の手を取りそう問いかけた。その紳士的な行動に彼女は「王子様みたい……」と顔を赤くしている。気持ちはわかるけど本物の王子様は貴方の隣にいる人だよ、と思いながら黙ってその様子を見守る。少し経つと彼女はハッとしたように自分の名前を元気に発した。
『リーシェよ!』
「そう。リーシェ、君はどこから来たの?」
その問いにリーシェは不思議そうに首を傾げた。
こんな遺跡の中に女の子が1人なんてありえない。そうでなくともここは森の奥地であり、周辺に村などはない。
『ここに決まっているでしょう?』
「え?」
『ここが私のお家よ』
ふふふと楽しそうに笑う無邪気な彼女。嘘をついているようには見えなかったが、かといって信じることも出来なかった。
「ねぇ、どう思う?セドリック」
私は彼女と手をつなぎながら歩くセドリックに問いかけた。
彼はうーんと言って少し考えた後口を開いた。
「この子の服は刺繍も生地もとても上質なものだし、おそらくどこかの貴族だろう。でもこんな衣装は見たことがない。少なくともカーライル王国にある伝統衣装ではないだろうね」
彼女のドレスには分厚めのしっかりした生地に月や星の刺繍が入っている。見に纏うアクセサリーもかなり上等なものではあるが、このような形やデザインは見たことがない。
「えっと、リーシェちゃん。さっきここは貴方のお家だって言ってたけど、ここには何があるの?」
もし何か特別なものがあれば手がかりになるのではと思い問いかけたが、幼い彼女にはあまり分からなかったようで、部屋や舞踏室のことを楽しそうに話し始めた。
『大きな図書館もあるのよ!とっても広いの!』
「図書館?」
その言葉を聞いた瞬間、私だけでなく後ろで古代呪文の掛けられた遺物を観察していたルーカスやヒューゴまでも顔をこちらに向けた。
古代魔法の祖であるラーハの図書館?間違いなくウルトラスーパー貴重なものであることは間違いない。
「どこにあるの?」
私は出口を探すことなどとうに忘れ、彼女に図書館の場所を訪ねた。
すると彼女は嬉しそうにこっちよと言って空いていたもう片方の手で私の手を掴むと、グイグイと引っ張った。彼女はある壁の前で立ち止まると、聞き取れないほどの声量で何かを唱えた。すると、私たちを取り囲んでいた景色はみるみるうちに移り変わり、気が付けば図書館の中にいた。
「凄い……」
それしか言葉が出なかった。
学校の図書館の3倍はあるであろう広さに加えて、天井には魔法で天体の模型が動いている。そして棚に収められた本は全て、古代呪文に関する本であり、驚くほど保存状態がいい。古代魔法の本は古いものが多く、厳重に管理はされているものの、やけがあったり所々破れてしまったりしていることが多いが、ここにあるものは全て新品のように綺麗な状態のままだ。
きっと先生たちが見たらひっくり返るだろうなぁ。
私は近くにある本を手に取りパラパラとページをめくる。クリスタルカレッジの禁書の棚ですら保管されていなかった魔法の術式について細かく記されている。
私が夢中になって読んでいると、セドリックはあたりを見回してから声を掛けてきた。
「エマ」
「どうしたの?」
「ルーカスとヒューゴ王子が居ない」




