ラーハ神殿
次の日の早朝。
あの後もう一度眠った私は重い瞼を擦っていた。
体調はもう何ともなく、魔力量も魔力測定器で調べた結果、いつもの値に戻っていた。おそらく眠っている間に回復したのだろう。
馬車で中心部から少し離れたところまで来ると、そこからは歩いて向かう。
早朝の森の空気はとても澄んでいて心地よい。たくさん着こんできたため寒さもあまり感じない。30分もすると森の奥にタロットカードで見たものに似た神殿が見える。
「ここがラーハ神殿だ」
ここは古代魔法都市ラーハの神殿。普段は立ち入り禁止だが、ヒューゴが取った許可により私たちも特別に入らせてもらえることになった。この神殿はまだまだ研究途中で、多くの考古学者や古代魔法学者が研究に来ているが、何故か未だ存在したとされる書庫や遺物は一切見つかっていない。
古代魔法のすべてが眠るとされている地。
ルーカスはよっぽど来たかったのだろう、先ほどから目を輝かせている。
「入り方は……分かっていないんですよね」
ラーハ神殿は魔法省がかけている保護魔法とは別に、建物自体に様々な古代魔法が掛けられている。そしてその多くは現在も解明できておらず、隠されているであろう通路や扉はどこにあるのか分からない。折角来たんだし何の収穫もなしって言うのは避けたいけど。
「エマ、そのカード見せて?」
「あ、うん」
私はセドリックに持っていたタロットカードを渡す。
私の魔力は回復したが、未だカードの中にもしっかり魔力は残っているようでその光は消えていない。
「『月が欠けるとき、我らは目覚めん』か」
「え?」
「古代文字だ。光でカードの隅に浮かび上がってる」
セドリックに対し何を言っているのだろうと疑問を持つとルーカスが補足してくれた。
月が欠けるとき?それって半月とか三日月とかってことなのだろうか。それとも……
「この神殿の壁の装飾の円。これを月だと捉えると……どこか欠けている場所は無いか?」
ヒューゴの言葉を聞いて辺りを見回す。
すると廊下の正面の壁に半円の模様があった。
けれど、もちろんドアノブなどは無いし開きそうな気配すらない。
「魔法で開けますか?」
「やってみろよ。古代魔法は跳ね返りがすごいぞ」
「やめときます」
魔法で開けようと提案したが、ルーカスにバッサリと切られた。
まぁ実力行使で行けたら学者たちもそんな苦労してないか。
何か手がかりはないだろうか。そう思って私はタロットカードを見つめる。
しかし、これといって手がかりになりそうなものは見つからない。
「サリムに連絡するか」
サリムはこの場に同行していなかった。
一刻を争うこの状況で自分が危険な場所へ行っても私たちの足を引っ張るだけだと言って施設にとどまったのだ。確かに危険だとは思うけど、古代魔法に詳しい彼が居ないと、私たちはここからどう動けばいいのかすら分からない。
ヒューゴはスマホを手に取るが、どうやら公共の魔力回路が通っていないのか連絡がつかないらしい。どうしたものか。
一旦戻るという選択肢もあるが、被害者は増え続ける一方だ。できるだけ早く解決しなければ。
私は特に有益な意見を出すことも出来ず、ひたすら入り口と思わしき場所を眺めていた。
そして半ば無意識にその半円を指でなぞった時、私たちは光に包まれた。
「……ここは」
そこはおそらく本当の意味での神殿の内部。ほとんど吹き抜けだった先ほどの建物とは違い、高い天井でしっかりと仕切られた空間。天井はもしかして夜空だろうか。今はもう昼間だと言うのにたくさんの星や月が瞬いている。
「やるじゃねぇか」
ルーカスに頭を撫でられる。セドリックが秒で払いのけたけれど。
見たこともない遺物たち。あちこちに古代呪文が掛けられているのが分かる。
「サリムが居なくても平気だったな。お手柄だ、ミス・シャーロット」
こうして私たちはまだ誰も入ったことのないラーハ神殿の中へと足を踏み入れた。




