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油断

「美味しかったー!」


「エマ、あそこにココア売ってるよ」


「飲みたい!」


「ふふ、僕が買ってくるよ。エマはここで待ってて?」


セドリックにそう言われ、私たち3人はレストランの近くにある広場の噴水前で彼を待っていた。

ディナーはコースになっていて、最初から最後まで味はもちろん見た目までとても美しい料理だった。

しかもこの食事、昼のと加えて任務中の食事は全て経費で落ちるらしい。そして散策時に使ったお土産代も。

なんてすばらしい職場なんだ。

命が危険にさらされても、これだけの福利厚生があればホワイト企業と言わざるを得ない。いや、命が危険って段階でホワイトではないのかな?


「しかし、特に有益な情報は得られなかったな」


「俺は被害者の家族や知り合いを訪ねてみたが、誰も亡くなる瞬間は見ていないらしいし特に変わった様子もなかったらしいですよ」


ヒューゴは王子であり年上、さらにこの場では指導係と言うこともあってルーカスは彼に対して敬語を使っているが、違和感満載な敬語は聞いているとついつい笑ってしまう。おかしいな。この間のパーティーではちゃんと使えてたのに。日常生活では使い慣れていないということなのだろうか。


「この後もう1度施設に戻る。さっきサリムが到着したと連絡があったからな」


ヒューゴがそう言うとルーカスは目を輝かせた。

サリムと言えば古代魔法研究の権威であり、現代魔法でも呪いや神経系に強いことで有名だ。多忙な彼だが、この状況を鑑みてヒューゴがこちらに来るようにと連絡を入れていた。

そう言えばルーカスは古代魔法得意なんだっけ?趣味古代遺跡巡りだもんね。


「エマ!お待たせ」


「ありがとうセドリック」


「おいセドリック。俺の分は?」


「無いに決まってるでしょ?」


「よし揃ったな。じゃれ合ってないで行くぞ」


小競り合いを始めそうになった2人をヒューゴが諫めた。

2人は不満そうにしながらも黙って後をついて行く。

その様子が怒られた後の小さな子供のようで可愛かったと言うのは私の胸のうちに秘めておくことにする。


とはいえいつまでも呑気にやっているわけにはいかない。

被害者の共通点で分かっていることがもう一つある。

それは、死者が出るのは必ず夜だという事。つまり、今日も死者が出る可能性が高い。

そしてそれは私たちの誰かかも知れないのだ。

一刻も早く解決しないと。私はもう1度気を引き締めた。


「久しいなサリム」


「お久しぶりですヒューゴ様。……して、後ろの方々は?」


「あぁ、インターン生だよ。ウィンチェスターアカデミーからの」


施設に入ると、杖をついた老人が立っていた。

何処かの民族の長のような風格がある彼こそが、古代魔法研究の権威であるサリム・ゴートンだ。

紹介を受け、私は軽くカーテシーをし自己紹介をした。セドリックも私と同じく無難に済ませていたが、ルーカスだけは今までに見たことのない興奮のしようで、「貴方の論文拝読させていただいた。素晴らしい着眼点だと思います。ところで質問があるのですが……」とノンブレスで詰め寄る様子は、ソフィアのBL本の感想や解釈を伝えに来るファンたちと似ているなと思った。結局ヲタクはどこの世界にも存在するのだろう。私も人の事言えないけど。


「エマ。どうかした?」


「え?どうして?」


「顔赤いよ?体調悪い?」


言われてみれば若干力が入らないような気がしないでもないけど……

でもきっと顔が赤いのはセドリックがおでこで熱を測ろうとしたせい。彼に限らず最近みんな距離が近い。いい加減心臓が持たないからやめて欲しいんだけど……


「大丈夫!全然元気!」


私は親指を立てて笑顔を見せる。

風邪の症状も出ていないし、きっと少し疲れが出ているだけ。

こんな大変な時に倒れて迷惑をかけるわけにはいかない。


「ならいいけど……」


セドリックは心配そうに私の頭を撫でた。

私は反応に困って何とか彼から距離をとろうと、すっかり話し込んでいるルーカスとサリムの方へ駆け寄ろうとした。


「あれ……?」


しかし、踏み出した途端足がもつれ視界が歪む。

私の体はそのまま地面へと吸い込まれていった。

薄れていく意識の中で、セドリックの焦った声が遠くに聞こえた。

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