カーライル王国
「わぁ!美味しそう!」
「このパイはプミュールと言ってこの国の郷土料理なんですよ」
私たちが着替えて向かった先は、繁華街にある小さなレストランだった。
そこではカーライルの郷土料理を主としたメニューを提供していて、どれも食べたことのない味付けや製法で目に映るどれもが新鮮だった。プミュールに使われているソースはクリームソースだろうか。たっぷりと敷き詰められたひき肉とも相性抜群で、食べ応えがあるのについついもう一つと手を伸ばしてしまう。
そのまま私たちは前菜からデザートまで、心ゆくまでランチを堪能した。隣の人の飲んでいたお酒は超絶羨ましかったけど。
本当に美味しかったです。店主さんとやさしいお姉さんどうもありがとう。
私たちはそのまま市内の視察を行うことになった。
なにせ来たのはいいがやることがない。夜には権威ある先生が来てくれると言うが、犯人の検討どころがどうやって殺されたのかも分からない以上下手に動くことも出来ないのだ。
と言う訳で、私たちは街に異変がないか繁華街を中心に散策を行った。
あわよくば事件の一端を掴めたらいいなと言うことで、それぞれが単独行動をすることになった。ルーカスとセドリックは強く反対したが、ボスであるヒューゴが言うのだから仕方ない。私も変死体が見つかる危険な地で次期国王を1人にするのはどうかと思うけど。
連絡用のスマホにGPSのような位置が分かる機械を身に着け、各々が夜の待ち合わせ時刻まで好きに動く。1人の方が事件に巻き込まれやすい、と堂々と言い放ったヒューゴに最初は戸惑っていたが、私も折角来たのだから楽しもうと考え歩き出した。
とはいえ仮に魔力持ちが狙われるとしたら、私たちも例外ではない。しかも魔力が強い方がいいともなれば私たち4人は完全にアウトだ。
インターンが始まって早3時間。既に命の危険を感じる状況に、私は就職希望先を間違えているのではないかと自問自答した。これから1週間のうちに何度命の危険に遭遇するのだろうか。私はそんなことを頭の中で呑気に予想していた。
「お嬢ちゃん、お目が高いね。これは貴重な品だよ」
「確かに綺麗ですね」
「そうだろ?これは1点ものだからね。この機を逃すともう買えないよ?」
最初こそ警戒していたが、散策を始めると昼間と言うこともあってか全く危険な様子はなく、私はただの観光を始めていた。繁華街のメインストリートには食品だけでなく様々な旅行者向けの商品を置く露店が立ち並んでいる。私は食べ歩きのスイーツを片手に、そこらをブラブラしていた。
彼らと分かれてから2時間。どこへ行っても出会う気配がない。おそらくみんな真面目に裏路地やスラム街まで調査をしているのだろう。私はこんなに呑気に観光していていいのだろうか。
「折角のインターンだし、ちゃんと仕事するか」
「何だいお嬢ちゃん。ここには仕事で来てるのかい?」
「えぇ、まぁ一応。そう言えば最近変わったこととか場所ってないですか?」
私がそれとなく尋ねると、露店の店主はうーんとうなりながら考え始めた。
「あぁ、そう言えば。変わったことじゃないかもしれんが、最近ここらじゃタロットカードが流行っとるよ」
「タロットカード?」
そう言えばカーライル王国はタロットカードが有名なんだっけ。
「幸運のタロットカードさ。と言っても観光客向けの眉唾物だろうがね。手に入れるとなんでも願いが叶うらしい。お嬢ちゃんもここに滞在している間に手に入れられたらいいね」
そう言って見せられたスマホにはそのカードの写真が映し出されていた。
雪の積もる森に月明かりが差しており、端には女神のような女性が描かれている。奥に描かれているのは神殿だろうか?一つ一つの装飾が細かく素人目で見ても、とても美しいカードだった。
「って……あれ?」
このカード。前にソフィアと総合文化祭の時に見たカードと同じだ。
あまり覚えていないけど、デザインがよく似ている気がする。
「そりゃ残念だったね、お嬢ちゃん」
確かにそれだけいいものなら買っておけば良かったかも。
店主と分かれて細い道を通ると、その先にある橋で子供が騒いでいるのを見つけた。
何だろうと近づいて見てみると、店のパンを盗んだらしい。子供が店主と思われる男にひたすら怒鳴られながらぶたれていた。
2人の子供は兄妹で、兄が妹を庇いながらひたすら痛みに耐えている。しかしその兄の方はもうほとんど力尽きていて、妹を庇う手が緩んでしまっていた。
「何だお前!」
私は咄嗟に子供たちを庇うべく彼らの間に入っていった。
目立つなと言われていたのにやってしまった。考えるより先に体が動いていた。人気が少ないのがせめてもの救いだ。
けれど、間に入ったとて策など無い。魔法の杖を握るが、迂闊に魔法を行使するわけにはもちろんいかない。
「邪魔をするな!」
あ、やばい。ぶたれる。
そう思い、私はぎゅっと目を瞑った。
「……?」
けれど一向に痛みは来ない。
不思議に思って目を開けると、そこには見覚えのある背中が私の前に立っていた。




