事件
魔法ってすごい。
やはり何度目の当たりにしても、自分が使っていたとしてもその気持ちは薄れることを知らない。
「着いたな。ここが魔法省ウィラント支部だ」
「「お疲れ様です!!」」
突然の大きな声に私の意識も覚醒する。
窓の外に気を取られて気が付かなかったが、私たちの周りをたくさんの人が取り囲んでいた。
しかし、魔法省の制服を着ている人はごくわずか。ほとんどの人はデザインの少し違う制服を着ている。
「ヒューゴ様。ありがとうございます」
「いい、気にするな。状況は?」
魔法省の制服を着た男が駆け寄ってきた。
ベノよりも年を取っていて、髪には白髪が混じっている。40代後半と言ったところだろうか。
私は囲まれながら周りの人たちを観察していた。
ほとんどの人が着ている制服は、どちらかと言うと白衣やスーツに近いものだった。私たちのような軍服のようなつくりではなく装飾も少ない。
セドリックに確認してみると、案の定彼らは魔法省職員の中でも研究を行う専門の者と情報収集をはじめとした事務作業を行う者たちであることが分かった。ちなみに私たちが着ている制服は、実務を行う者のための制服で、魔法省の中でも位の高い職種なのだとか。
論文コンテストの副賞なんだから研究職のインターンかと思っていたがそうではないらしい。
「行くぞ。ついてこい」
そう言ったヒューゴの後をついて行くが、周りからの視線は絶えることなく続いていて、ルーカスは口にこそ出さなかったものの、かなりめんどくさそうな顔をしている。
連れて来られたのは扉に会議室と書かれた部屋。
本部の応接室にはもちろん劣るが、こちらの装飾も中々のものだった。
「まずはこれからの仕事内容を説明する。言っておくがここからのことは全て守秘義務が付いて回る。いいな?」
私たちは無言で頷いた。
本部の人手不足にウィラント支部のこの様子。きっと只事ではない。
「まずはこれを見てくれるか?」
そう言って渡されたのは10枚ほどにまとめられた紙の資料。
上から8枚は名前のリストになっていて、それぞれの顔写真や個人情報が載せられている。そして残りの2枚は地図になっていて、所々にマークが入っている。
「それはここ3日間の変死者リストとその場所を記したリストだ」
3日?
私は自分の目を疑った。だって、ここに載っている人たちはざっと見ただけでも50人以上。それが3日の間に変死?
「……どういうことですか?」
「言葉通りだよ。年齢も性別もバラバラでこれと言った持病もない。そんな人たちがこの地ではこの3日間の間に原因不明の病で亡くなっている。魔法省の研究チームを総動員しても原因が分からない」
「ヒューゴ王子。原因が分からないと言っても、これでは……!」
「そうだよセドリック。亡くなった人たちには共通点がある」
その言葉を聞いて私はもう1度リストに目を落とす。
「全員魔力持ち、か」
ルーカスの言葉に私は驚きを隠せなかった。
カーライル王国の首都ウィラント。古くから薬草学や魔法が発展してきた都市で、他の地域や国に比べ魔力持ちは多い。けれど、その割合は人口の約4割にとどまっている。おかしい。
これだけの死者が出ていて全員が魔力持ちだなんて普通に考えればありえない。
「この件はまだ公になっていない。おそらくどこかの組織による計画された犯行だ。相手に気取らせる前に水面下で動く」
私たちはその後、被害者たちを集めた施設へと向かった。
どれも発症時や詳しい症状などは何一つ分かっていない。
今のところ感染症などの疑いはなく、血液を調べても毒の反応は出なかった。
私は保存魔法をかけられた遺体を1つ1つ観察していく。
確かにどの遺体にも特にこれと言った症状は見受けられない。
本当にただ眠っているかのよう。
「エマ。大丈夫?」
セドリックが私を落ち着かせるように頭を撫でる。
傷跡もあざも湿疹も何もない。ただ、魔力はすっからかんになっていて、彼らの死因は魔力欠乏症だと診断できる。けれど、これだけの人数が何の前触れもなく魔力欠乏を起こすなんてありえない。
まるで何かに魔力を吸い取られてしまったかのような。
「おい。これから食事だと」
ヒューゴに言われたのだろう。遠くにいたはずのルーカスが私たちを呼びに来た。
私はモヤモヤと疑問を抱えながら施設を後にした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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いつか読んだ記事にブクマ100件を超えると底辺作家卒業と書いてあるのを見て、なろうで投稿する際の1つの目標にしておりました。本当にありがとうございます。
是非この機会にまだされていない方もよろしければブクマや評価お願いいたします。感想やレビューなどもいただけますと嬉しいです。
これからも「ヒロインって案外楽じゃないですよ?」をよろしくお願いいたします。




