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ウィラント

「王子が僕たちの指導者、ですか?」


「あぁ、久しぶりだな。セドリック、ルーカス」


その言葉に2人は「はっ」と短く返事をして頭を下げた。

アスカニアの第1王子。私のゲーム内の最推しベン・ヘンダーソンの兄にあたる人物。

まさか彼より先に兄と会うとは。

でもどうしてこんなところに王子が?


「君とは初めましてだね」


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。お初にお目にかかります。ウィンチェスターアカデミー1年生のエマ・シャーロットです」


私は動揺しながらも、最も深いカーテシーをする。

初めて会う王族には最上の礼で挨拶をしなければならない。魔法省にいる彼が本当にヒューゴ王子なのか未だに信じられないが、不敬だと言われても困るのでとりあえず最上の礼をしておく。

練習以外でするのは初めてだが、フラつかなくて良かった。

そう言えばレオンには最上の礼ってしてないかも。まぁ今更か。


「知っているよ。君に会うのを楽しみにしていた」


どうして1国の王子が私のことを?


「論文コンテストの様子を見ていたからね。こうして会えて嬉しいよ」


「いえ、こちらこそ光栄です」


「どうして僕がここで働いているか、気になるかい?」


顔に出ていたのか、彼はこちらの考えを見透かしたような口調で話してくる。


「大した理由はないよ。僕が王位を継ぐのはまだ先だし、万一僕の身に何かあっても弟がいる。社会勉強ってところかな」


「はぁ……」


「だからこうして働いているわけだが、まさか君たちの指導係になるとは思いもしなかったよ」


ハハハと笑うヒューゴの横で、黙って話を聞いていたベノが説明を始めた。

そもそも今は繁忙期で、職員は世界中を飛び回っているのだと言う。そして昨日元々私たちの指導係を務めるはずだった職員が、他国に緊急招集されてしまい本部に残っていたヒューゴに白羽の矢が立ったらしい。


つまり、私たちはこれから1週間、ヒューゴに付いて彼の仕事の見学や手伝いをすることになる。

これはプールで遊んだりは出来ないだろうなと思っていると、ベノの口からさらに予想外のセリフが放たれた。


「ヒューゴには今から北の国での任務に向かってもらうことになったんだよ。よって君たちも彼と一緒に今から北の国に向かってくれ」


え?今から?

インターン生は最初に指定されたインターン先から移動することは無いと聞いていたので、私だけでなくセドリックやルーカスもその瞳に動揺の色を見せる。

けれどその言葉に対し、疑問や反論の言葉を挟ませる間さえ与えずにどんどんと話が進んでいく。


「まだ荷物は持ったままならそのまま向かえるな」


「じゃあ早速魔法陣の手配をしよう」


私たちはどうすることも出来ず、ただただその会話を眺めていた。


「待たせたな。今から行くから着替えてこい。服はこっちで用意した」


10分ほど経ってようやく会話やら連絡やらが終わりどうするのかと思えば、ヒューゴの言葉と共にやってきた召使いのような人たちに連れられ着替えさせられた。

ウィンチェスターアカデミーの制服から着替えたそれは、制服よりもかっちりしていて肩が凝りそうだ。どうやら魔法省の制服のようで、ヒューゴとベノもこれと似たような服を着ていた。


「よし。着替えたな」


応接室に戻ると、既に着替えたセドリックとルーカスがいた。

2人共顔もスタイルも抜群なので、本当に何を着ても様になる。これはきっとソフィアに写真を送ったら言い値で買ってくれるだろう。

そう言えばそろそろちゃんとしたコスメが欲しかったんだよね。レヴィにも言われてしまったし。

賞金やらバイト代やらでお金には困っていないが、突然の収入は嬉しいものだ。

そんな捕らぬ狸の皮算用をしているうちに、気が付けば私たちは応接室から出て建物の奥の部屋にやってきていた。


そこには窓が一切なく、昼間だと言うのにランプが灯されていた。

中心には魔法石を核とした複雑な魔法陣が描かれている。


「これって……」


「おや、知っているのかね」


「以前クリスタルカレッジの図書室で読んだことがあります。本当に実現出来たんですね」


ベノの問いかけに私はそう答えた。

それは以前クリスタルカレッジの禁書の棚で読んだ、人体の空間転移魔法の魔法陣に瓜二つだった。

しかし、その本には理論上は可能でも実際には魔力の消費が激しく実現は不可能だと書かれていたはず。


私の研究内容に似ていたこともあって詳しく調べてみたりもしたが、どれだけ実験を繰り返しても結果は同じだった。


「核となる魔法石にとても希少な魔法石を使っている。実現こそしたが、その希少さや利便さ故にこれが公になれば争いがおこるやもしれん。口外はしないように」


ベノの低い声によって敷かれた箝口令に私たちは頷いた。彼の主張はもっともだ。なぜならこれを使えば、スパイや軍隊をいつでも他国に送ったり、関所に引っかからずに密輸などを行ったりすることが出来てしまう。けれど、それを私はともかく、将来国の中枢を担う彼らが知っていいのだろうか。ヒューゴに関しては次期国王なわけだし。


しかし流石にそれに気づかないベノではない。おそらく何らかの対策をとっているのだろう。

私たちは促されるままに荷物を受け取って、魔法陣の中に入った。

長い呪文が唱えられると魔法陣が魔法石を中心にして輝きだす。


ウィラントへ


次の瞬間、目の前の景色が変わる。

大きな建物の中。目の前の大きな窓の向こうには、一面雪景色が広がっていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 雪国ですね!!これは、、普通に働かされる感じがします。将来のためにも今のうちに覚えちゃえ!!
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