インターン
「……よし!」
「良かったね、エマ。おめでとう」
「ありがとう。でもほとんど教えてくれたセドリック達みんなのおかげだよ」
私はもう1度掲示を見る。
50位 エマ・シャーロット
前回は96位だったことを考えると大躍進だ。
そもそもスタートラインは250人中250位だったので、こればっかりは今までの頑張りだなと自分でも嬉しくなる。とはいえ魔法省に就職しようと思うと、やはり成績はまだまだ必要だ。私と同じように忙しかったはずのセドリックは変わらず1位だし、私ももっと頑張らなければと思う。
とはいえ上がったことに変わりはないのだから、少しくらい喜んだって罰は当たらないだろう。
私はその後声を掛けてくれたメンバー(たまたまだがフラッグサバイバルのメンバーが揃った)と一緒にウィーブルでテストの軽い打ち上げのようなものをしていた。あの守銭奴のエドガーがお祝いだと言ってなんでも奢ると言ってくれたので、私たちは遠慮なくどんどん注文した。テーブルにはたくさんのスイーツやドリンクが並んでいる。
エドガーも優しいところがあるんだなと思ったが、その写真をマジグラに上げる彼らを見てそうではないことに気づく。ここには1年生しかいないが、エリカやアルバートは1年生の中ではかなりのマジカルグラマーだし、セドリックやイザナもこの学校のカーストで言えば最上位の人間。彼らの宣伝効果は抜群だろう。よく見ると頼んだ覚えのない新作スイーツまで運ばれてきているし。
エドガーの商売魂に感服しつつ、とはいえ私も美味しいものをタダで食べられるというメリットしかないので、彼の思惑には気が付かないふりをして食事を楽しんだ。
「そう言えば、エマ。魔法省のインターンに参加すると聞いたぞ!俺でよければいつでも筋トレに付き合うからな!」
「あはは……ありがとうイザナ。それにしても耳が早いね。どこで聞いたの?」
「父上が騎士団の仕事で魔法省に行ったときに聞いたらしい!」
あぁ、そう言えばイザナのお父さんは魔法騎士団の団長だったっけ?
良く知らないけど魔法省ともかかわりが深いんだろう。
「エマ、インターンってどういう事?」
セドリックが拗ねたような表情で言う。
確かに魔法省のインターンなど早々行けるものではない。もしかしてセドリックも狙っていたのだろうか。
「論文コンテスト優勝の副賞だったの。エイド先輩に譲ってもらって」
「……そうなんだ」
「魔法省って今は大忙しらしいぜ?エマちゃんどれくらいやるの?」
「1週間の予定なの」
帰ってくる頃には忙しすぎてやつれてるかもな。
なんて笑われる。そんなに忙しいとは思っていなかったけど、宰相家のアルバートが言うのだからおそらく事実なのだろう。魔法省は繁忙期以外暇だって聞いてたのに。
それからテストや先日の総合文化祭についてあれこれ話しているうちにすっかり日が暮れてしまいミニ打ち上げはお開きとなった。
私は部屋に戻ると少しづつ進めていたインターンの準備をする。
インターンは3日後から。それまでに荷物のパッキング以外にも、やれることはやっておかなくては。
まずは魔法省についての基本情報。
そもそも魔法省というのは世界規模の組織で、ここアスカニア王国に本部がある。てっきり国の機関だと思っていたけど、どちらかと言うと元の世界で言う国連のような存在に近いのかも。世界各国に支部を持っていて、今回私がインターンでお世話になるのは魔法省アスカニア本部。インターンは職場体験というよりは、割と本格的に職員たちと仕事をするらしく、エイドの話によるとインターン生に書類は任せられないため場合によっては他国に赴いて仕事をすることになるそう。
幸運なのか不運なのか、全く仕事がないときは待機の職員たちと一緒に魔法省本部でひたすら遊ぶだけらしいが。しかし、忙しいと聞いているので恐らくそんなことはないだろう。
私は出来る限りの準備をしてインターンに備えた。
そして迎えた3日後。
私は学校から馬車を出してもらい、魔法省アスカニア本部まで向かう。
本部までは馬車でおよそ30分。特別遠いと言うわけでも無いが、1週間の間は魔法省の職員寮に止まらせてもらうことになっているので、学校には戻って来ない。
学校の玄関口には多くの人が見送りに来てくれていた。
「エマ氏、頑張ってね」
「エマさん。くれぐれも無理はしないように。貴方はいつも1人で抱え込みすぎる」
そう言って頭を撫でられた。
やっぱりアフターパーティー以降、セドリック以外の攻略対象も距離が近くなっている気がする。そもそもエドガーはこんな顔で笑う人だっただろうか。
「役者にならないのは残念だけど、頑張ってきなさいよ」
「しっかり学んで来いよ」
レヴィやリビウスまで来てくれた。2人は朝から映画の撮影があると聞いていたが、きっと忙しい合間を縫って来てくれたのだろう。私はそんな彼らをはじめとする演劇関係者1人1人とハグをして、行って来ますと伝える。
「エマちゃんと1週間会えないのは流石に寂しいわー。毎日連絡するから返信しろよ?」
アルバートが私の頬にキスをする。
挨拶だとは分かっているけど、流石に照れるし恥ずかしい。
そしてやっぱり距離が近い。私は顔を真っ赤にしながらどうしようとこの後の対応をぐるぐる考えていた。
「毎日連絡なんて無理に決まってるでしょ?インターンだよ?」
「そうだ。俺たちは遊びに行くわけじゃないからな」
セドリックは私からアルバートを引き剥がす。というかその荷物は何?
颯爽と現れたセドリックとルーカスは、手に私と同じようなスーツケースを持っている。
「アンタたち、私たちの貴重な枠をあげたんだからちゃんと勉強して来なさいよ?」
「遊び惚けてたら乗り込むからな」
「ハッ!よく言うぜ。どうせ撮影でキャンセルだった癖に」
レヴィとリビウスの言葉をルーカスが鼻で笑ったように返した。
え?待って。どういう事?
「えっと……話が見えないんですが」
「あぁ、エマには言ってなかったね。僕とルーカスも魔法省にインターンすることになったんだ」
「え?どういう事ー!!??」
また一緒だよエマ。よろしくね。
心底嬉しそうに笑うセドリックに私は、状況が理解できずその場で叫んだ。




