犯人
生徒たちはみな学校に帰り、それぞれが与えられた3日間の休日を思い思いに過ごしていた。
遊びに行く者、帰省をする者、自室で疲れを癒す者とさまざまである。
なのに。
「どうして私はまだクリスタルカレッジにいるんでしょうか……」
「お前が条件に提示したからだろ」
ウィンチェスターアカデミーの生徒たちは今日の朝方、来た時と同じように馬車を使ってウィンチェスターへと戻って行った。けれど、私はまだクリスタルカレッジにいる。何故か。
答えは簡単だ。
それは私がルーカスに劇の作曲家を引き受けてもらう際、引き受けてくれたらクリスタルカレッジの禁書の棚を閲覧させてやるという条件を提示したから。
まぁ約束は約束だし、それに関して異議を唱えるつもりはないけれど。
まさか総合文化祭期間中がこれだけ忙しく、貴重な休日を潰す羽目になるとはさすがの私も予想していなかった。1日中ベットでゴロゴロしていたい。何なら10時間寝たい。
けれどそんな素敵な休日は過去の私によって泡のごとく消え去った。
「どうぞー」
私がカードをかざし扉を開けてやると、ルーカスは分かりやすく目を輝かせた。
まぁ気持ちはわかる。
本棚には貴重な本ががびっしり。窓が無いため少しくらいが、より高級感があるインテリアが置かれていて、まるで純喫茶のような雰囲気に私も最初に来た時は興奮した。
「すごい……ここ全部古代魔法の研究成果だ!」
ルーカスが指さした棚には一面にびっしりと古代魔法に関する文献が並べられている。
この世界において、学校は研究機関の1つでもあり、特に古代魔法の研究が盛んなクリスタル帝国の直轄であるクリスタルカレッジには当然のように大量の文献が保管されている。
ルーカスのような人間からすれば、ここは下手な古代遺跡なんかよりもよっぽどの宝の山だろう。
私もどうせなら何か読んでおこうと思い、気になっていた錬金術の本を手に取る。
基本的にここの本は全て持ち出し不可なので、読みたい本があってもクリスタルカレッジに来る用事でも無ければ中々読むことが出来ない。折角なので前回読み切れなかった本を一気に読んでしまおう。
「お前ら……まさか1日此処にいたのか?」
扉が開くとレオンが驚きあきれた様子でこちらを見ていた。
持っていたスマホで時間を確認すると、時刻はもう夕方を指しており、相当長い時間本を読んでいたことが分かる。
「何か用か?」
「アンタにじゃない」
邪魔をするなといった様子のルーカスが問いかけると、レオンもまためんどくさそうに答えた。
ここにいるのはルーカスとレオンと私のみ。ルーカスに用が無いと言うことは、レオンは私に会いに来たのだろうか。
「行くぞ」
「え!?」
いきなりレオンに腕を掴まれ引っ張られた。
いやいや一言なんか言ってよ。そしたら普通について行くからさ。
皇子って言われて信じられないのはこういうところからだと思う。
「あれ?エイド先輩とエドガー先輩も帰ってなかったんですか?」
連れて来られた部屋にはヨハンとノエル、そして帰ったはずのエイドとエドガーがいた。
皆の顔からするに、何か深刻な事なのだろう。エイドに関しては何か怒っているみたいだし。
「エマさん。この間の論文コンテストの件についてですが……」
まず口を開いたのはエドガーだった。論文コンテストの件。十中八九、コンテスト前にコスモーターの試作品が壊された件だろう。犯人が分かったのだろうか?
「運営委員会が責任をもって調べた結果、あの試作品は魔法によって意図的に壊されていることが分かった。そしてその解析の結果……」
ノエルが何故か気まずそうに言う。
「反魔法派の過激派組織、ヴィムスが使用している特定魔法式と一致することが分かった」
「ヴィムスって……あの時の」
交換留学の時にレオンの暗殺を企てていた組織だ。
魔力格差に苦しむ非魔法師だけでなく、魔法社会において落ちこぼれと蔑まれ苦しんでいる魔法師なども所属しており、魔法さえなければ、世界は平等になると唱え、魔法師を殺害したり魔法学校を襲撃したりしている組織。
でもそんな組織がどうして……
「そりゃヴィムスにとってコスモーターの存在は喜ばしくないだろうね」
「どういうことですか?」
エイドの言っていることが理解できず聞き返す。
「多分ヴィムスの上層部は、ただ魔法をなくしたい。あるいは魔法師を殺したいだけの連中。目的は知らないけど、魔力格差に苦しむ人たちを『魔法さえなければ』と唆すことでそれを達成しようとしてる。だから、彼らの原動力である魔力格差が埋まるようなものはヴィムスにとっては好ましくない」
確かに、魔法が無くても豊かに生きて行けるようになれば、魔法に対しての不満は低くなる。
現状最も不便である移動手段の格差が、魔法師によって解決されるとなれば確かにヴィムスにとっては面白くない話だ。
「問題はどこでその情報を手に入れたかだ」
「発表済みの論文ならともかく、今回は未発表の論文です。データベースをハッキングでもしない限り、外部が知り得るはずはないはず」
「運営委員会のデータベースにハッキングされたような形跡はありませんでした」
「学校のデータベースにもなかったぜ」
「もちろん僕のパソコンにそんなこと出来ないよ」
それぞれが口々に言う。
今の話が全部間違いないとすると、答えは自ずと見えてくる。
「内部に犯人、もしくは内通者がいるということですよね」
「まぁ実際クリスタルカレッジには居たんだ。ウィンチェスターを始め、スターズの中に1人くらいいても不思議でも何ともない」
疑いたくはないけど、それが一番現実的な答えだろう。
「とにかくこのことは既に魔法省に報告済みだ。後の処理はやつらに任せる。お前らもそれでいいな?」
レオンの言葉に私とエイドは静かに頷く。
単なる学生の嫌がらせではなく、反魔法組織が絡んでいる以上、私たちが変に動くよりプロに任せた方がいいのは明らかだ。
私たちは今後の対応について少し聞いた後、すぐにその場を後にした。
皆さま大変申し訳ございません。
こちらインターン編の1話となります。
昨日寝ぼけていたのか編集作業でキリのいい84話目で総合文化祭編を終了させる予定だったのをすっかり忘れて更新してしまいました。
という訳で今日からインターン編始まります!笑
話していたお休みについてですが、嬉しいお言葉をいただき現在執筆状況にも余裕がありますので特に大きな休みは取らないことに致しました。
現在週に1日ほど休んでいますが、もしかすると2日3日更新をお休みするかもしれません。その時は「あぁ大きな休みを取らない分、ちょくちょく休んでるんだな」と温かい目で見ていただければありがたいです。
ブクマ、評価、コメント、レビューなどいただけますと本当に嬉しいです。よろしければ是非よろしくお願いします。
では皆さま突然でしたが総合文化祭編完結です!インターン編始まります!
これからも「ヒロインって案外楽じゃないですよ?」をよろしくお願いします!




