人魚の初恋Ⅲ
「貴方がセレノアですね。僕はリエーレと申します。アイナから話は聞いていますよ。今日は来てくれて本当にありがとう」
そう言って王子はセレノアの手の甲にキスをする。
ライムグリーンを基調としたチュールのドレスに身を包んだセレノア。ビジューやシェルがあしらわれていてその姿はまるで絵本の中の人魚姫のよう。会場中の人間が彼女に魅入られていた。
なのに。
どうして彼は私を見てくれないのでしょう?
セレノアは彼らのダンスを眺めながらずっとそう考えていました。
彼女の話していた馴れ初めは本当なら私が話しているはずなのに。
きっと彼は何か勘違いしているんだわ!
「セレノア?」
ダンスを終えて戻って来たアイナの頭上には美しいティアラが輝いていました。
セレノアは我慢なりません。だって本来なら私と彼が結ばれるはずなのですから。
様子がおかしいと思ったアイナはセレノアを心配して人気のないバルコニーに連れて行きます。
「悔しいの?人魚さん」
どうしてそれを?
セレノアは驚きで目を見開いた。
「嵐が止んですぐ海岸に行ったら誰かが王子を助けていたわ。その誰かは王子に何か声を掛けて海に帰っていったけれど。貴方でしょう?最初に見たときにすぐわかったわ。貴方があの時の人魚だって」
アイナはティアラを手に取って眺めながら意地悪そうに言った。
「声を失ってでも彼に会いたかったのでしょう?ごめんなさいね?」
謝りたかったのよ。
思ってもいないであろう言葉をスラスラと並べ立てる。
黙って聞いていたセレノアはいい加減我慢ならず、近くにあった園芸用のハサミを彼女に向けた。
(許せない)
けれど、彼女は驚くどころが平然と微笑んでいます。
どうしてそんなにも平然としているのか不思議に思ったその時でした。
「脅しているだけ?なら私がやって差し上げるわ」
アイナはセレノアの手からハサミを奪い取り、なんと自分で自分の腕に刺したのです!
悲鳴を上げるアイナにセレノアは驚きで何もできませんでした。
すると、その声を聞きつけたリエーレ王子や衛兵がやってきます。
「アイナ!?何があったんだ!」
「私が悪いんです殿下。セレノアの気に障ることを言ってしまったみたいで……そんなつもりは無かったのですけれど」
(何を言っているの?刺したのは自分でしょう?)
「セレノア。本当に君がやったのかい?」
セレノアは必死で首を横に振ります。けれど、もちろん誰も信じてはくれません。
ねぇやめて。どうして私をそんな目で見るの?
セレノアは何も言うことが出来ず、地下牢へと連れていかれました。
「王太子妃殺害未遂で処刑ですって、セレノア。ふふっ、気分はどう?私は最高よ」
セレノアは黙ったまま彼女は睨みつける。
「そう、話せないんだったわね。いいこと教えてあげるわ。どうして私が貴方をここに連れてきたと思う?私ね、彼に魔法をかけたの。私を大好きになる魔法。素敵でしょう?けれど、彼の心の中には既に貴方がいたの。気を失っていたはずなのに不思議ね。貴方のせいで魔法が上手く効かないのよ。人魚相手なんてどうしようもないと思っていたけど、神様は私が好きみたい。こうやって目の前に現れてくれるなんて……貴方が死ねば私の魔法が完全に発動するわ。彼は心から私を愛するようになる」
じゃあまた後でね。
セレノアは泣きました。
声も出せずに泣きました。心の中では大声で泣いているのに、実際には声は1つも出ていません。
どうして私がこんな目に。こんなはずじゃなかった。私はただ、彼を愛していただけなのに。
パパ、ランドル。ごめんなさい。
声が出ないのを分かっていながら彼女は呟きました。
「……セレノア」
心配した様子のアイナがリエーレと共に地下牢へとやってきた。
「君は……死刑になったよ」
どこか申し訳なさそうな様子で言い切るリエーレとその後ろでニヤリと笑うアイナ。
「私たち友達になれたと思ったのに……」とアイナはわざとらしく彼女の手を私の手に重ねた。
その瞬間、私は彼女の手を掴み、思いっきり引っ搔いた。
「いやァァァ!!」
アイナが突然の痛みに叫び声を上げます。
セレノアはいきなり狂ったように暴れだしました。そしてひたすらリエーレに向かって何かを伝えるように手を伸ばしています。
リエーレはアイナを守りながら、セレノアのあまりの恐ろしさに持っていた銃を使って彼女を打ちました。
「ごめんなさいね」
セレノアが最後に見たのは、怯えたリエーレの顔と優し気に微笑むアイナの顔でした。
キャスト
セレノア エマ・シャーロット
リエーレ王子 セドリック・バートン
ネルマリク国王 レヴィ・ガーデン
ランドル リビウス・ミラー
ナジャリア ポートナム・ターナー
アイナ メリダ・クイーン
ナレーター ジョーダン・ポスト
アンサンブル エリカ・カーソン
エリック・ブルー
マイケル・エルガン
ミシェル・パーチ―
ゼン・ローウェン
ジョン・ポール
衣装監督 メアリ・ウェイター
衣装 アリソン・ベレット
リンジー・ブライト
グレイシー・パーミリー
セシル・ティファニー
メイク オリーブ・ブラッドボーン
スージー・ビクトリア
パトリシア・ステイトン
ヘアメイク ディアンナ・ヴァレンタイン
スキラ・ヴァーノン
アンバー・レルフ
演出監督 イデア・キャメロン
演出助手 アクア・シェナザード
演出 レイチェル・ワイズ
ヴェロニカ・ダン
ニック・バナー
ウッド・ホークス
ガストン・ボーイズ
ハリー・スティーブンソン
照明監督 ジミー・ビール
照明 スミス・フォード
ティム・サマーズ
音響監督 ルーカス・エドワーズ
指揮 ルーカス・エドワーズ
演奏 グレッグ・フォールズ
アンドリュー・アグロン
グレゴリー・コナー
モリス・スプリングス
ナンシー・ハズラック
アリエル・コナー
デイジー・マロニー
振付師 アンズリー・マーガレット
美術監督 バーク・ホーク
美術 ガビー・ヘナー
ランディ・クイントン
ハーマイオニー・ワグナー
カミラ・ダム
トレ―シー・スティール
制作監督 エドガー・ルイス
進行マネージャー セドリック・バートン
アルバート・グレンジャー
エマ・シャーロット
脚本家 レヴィ・ガーデン
舞台監督 レヴィ・ガーデン
そうそうたるメンバーが名前を連ねていることに観客は驚嘆の声を上げる。
私もぼんやりとする気持ちの中で舞台裏からクレジットロールを眺めていた。
カーテンコールの時間になり、再び舞台へ戻るがその拍手はまばらだった。
あれ?もしかして良くなかった?
私たちはそんな不安を抱えながら稽古場に戻った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回クレジットロールの部分がおそらくなろうの設定上、私のやり方では行が揃いませんでした。見にくいかもしれませんがご容赦ください。
そして3万5千PVありがとうございます!ついこの間3万PVだったのですが、こんなにたくさんの方に読んでもらえて幸せです。ぜひついでに評価やブクマのボタンをポチっとお願いします。(また感想をくださると作者が泣いて喜びます)
演劇の内容はこれで終了し、次回からは論文コンテストや結果発表の話になります。
最後になりましたが、これからも『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いします!




