総合文化祭
総合文化祭初日。
今日は朝から開会式と開催校クリスタルカレッジの代表生徒によるパレード。
今日は有志の企画のみで、大きな企画は明日以降の開催となる。
とはいえ、初めての催しで一般公開されているため、初日からたくさんの来場者で溢れかえっていた。
「もうウンザリよ。稽古場に戻りましょ」
「そうだな。練習練習」
レヴィをはじめとした演劇部員はプロとして活躍している部員が多いというだけでなく、演劇部の定期公演は学校の広告塔のような役割を果たすほど人気で、部員一人一人にファンがいる。そのため開会式に参加した際、他校の生徒だけでなく一般客にも囲まれてしまった。姿は変わっても、そのオーラは隠しきれないらしい。最初こそ笑顔で対応していた彼らだったが、いつまでも終わらないその会話と減るどころが増えていく人数にだんだんとその顔を曇らせた。
昨日の疲れも相まって、彼らはついに魔法で風を起こして逃げるという行動を起こした。
正直風を起こしたところでなんだと思ったが、年頃の女性にとって髪は命そのものらしい。みんなあまりにも慌てるものだから逆にこっちがびっくりしてしまった。
稽古場に来たはいいが、ほとんどのスタッフたちは文化祭を見て回っているか部屋で寝ているので通しの練習は出来ない。そもそもキャストも揃っていないし。
レヴィは夕方に集まるようみんなに連絡したので、結局この時間は自主練になってしまった。
私も練習をしようかと思ったが、セリフを言おうとした瞬間ある人に呼ばれていたのを思い出して稽古場を出た。
学校の玄関口であるメインストリートにはたくさんの店が出店し大勢の人で賑わっていた。
世界各国の珍しい食べ物や食器、衣服など生徒たちそれぞれが思い思いのものを出店している。
その中にひと際行列の出来ている店がある。店の前には何も置かれておらず、一見すると何を売っているのか分からないお店。
「ソフィア先輩。大盛況ですね」
裏に回って忙しそうな彼女に声を掛ける。
奥にはたくさんの本が積まれており、彼女はひたすらそれらにサインを書いていた。
「エマ。おかげさまでね。写真本当にありがとう」
「いえ……」
近くにある本を手に取りペラペラとめくると、私が提供した写真から着想を得たであろうストーリーが目に入った。小説と呼ぶにはページ数が少ないそれは、所謂『薄い本』と言うやつだ。
シンプルな表紙には短いタイトルと作者名のみ。
彼らの名前こそ出してはいないが、彼らの存在を知っている人なら間違いなく誰かわかるだろう。
良かったら来てと言われていたので訪れてみたが、とても忙しそうだし特に出来ることもなさそうなので、1人で他のところでも回ろうかと思ったが、どうやらキリの良いところまで片付いたらしく、お店のことは手伝いに来てくれた売り子たちに頼んで、私とソフィアは一緒に他の店を回ることになった。
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「これなんですか?」
「タロットカードと言います。1枚1枚北の国の職人が手書きで書いているんですよ」
「凄く細かい紋様……」
雪の積もる森に月明かりが差している。
端に描かれているのは女神だろうか。
メインストリートには世界各地の珍しい品物が販売されており、興奮したソフィアは既に抱えきれないくらいたくさんのものを購入していた。
「お1ついかがですか?」
「そうですね……」
「エマ!探したわ!」
大きな声に驚いて振り向くと、そこには息を切らしたレヴィがいた。
どうしたのかと尋ねると「どうしたじゃないでしょう!?遅刻よ!」と怒鳴られる。
もちろん人がいないところへ移動してから。
時計台に視線を移すと、既に15分ほど連絡されていた時刻を過ぎていた。
「すみません!」
走って稽古場に入るとそう言って大声で謝った。
私以外のキャストやスタッフは皆既に集まっていて、私に視線を集中させる。
「「そこはごぺんなさいでしょー」」
「……へ?」
皆が笑いながら仕方ないなぁといった様子で口を揃える。
「いいのエマ。アンタはいい子よ!大好き!」
ごぺんなさいを言わなかった私にエリカは大喜びだ。
そう言えば誰かが言うたびに怒ってたな。
「始めるわよー」
そんな緩い空気の中始まった稽古だが、これが最後の練習。
当日は練習禁止だし、みんなの体力を考えてもそう何度も出来るものでもない。
これが最後。
私は覚悟を決めて魔法薬を飲み込んだ。




