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久しぶりのクリスタルカレッジ

「久しぶりだな。シャーロット」


「エマで良いですよ」


「なになに?知り合い?」


「留学中お世話になったんです」


ノエルと再会の挨拶をしていると、ポートナムが面白がって聞いてきた。

急に動いて少しよろけた彼女を咄嗟にノエルが支えた。


「女性にこんなことを申し上げるのは不躾かと存じますが、流石に痩せすぎではないでしょうか?」


ノエルは遠慮がちに尋ねたが無理もない。

彼女の体はもうほとんど骨と皮だけで、頬もコケてしまっている。稽古中以外は車いすで移動していたのだ。ヒールを履いて急に動けば当然よろける。


「あぁ大丈夫。ちょっと役作りでね」


「役作り?」


「私の役はもうほぼ死にかけヨボヨボのおばあさんだからさ。肉付きいいとおかしいでしょ?魔法薬とか使ったら動きが不自然になるし」


明るくい放つ彼女にノエルは絶句していた。


「そう言えば、シャ……エマも痩せたか?髪の色も」


「染めたの。体重は10キロくらい。ポートナム先輩に比べたら全然ですけど」


信じられないという様子でこちらを見るノエルの表情がなんだか面白くて眺めていると、レヴィが近づいてきた。


「敵に情報与えないの」


「敵?」


「ノエル・リヴィエール。文化祭実行委員兼今回の演劇のキャストよ。そうよね?」


「ご存じでしたか」


当然。とレヴィは鼻を鳴らした。

スタッフたちはノエルの誘導で機材などを稽古場に運ぶ。

各校に稽古用の広めの部屋が与えられ、当日まで自由に使うことが出来るという。


劇場が私たちに割り当てられている時間は夕方なので、午前中は休みということになった。

とは言ってもみんな疲れているので学校見学をしようなどと言う生徒は居らず、みんな学校側が貸し切っているホテルに直行していた。

私も彼らと共にホテルへ向かおうとすると、私が留学中に使っていた部屋はそのまま残っているということで、移動も面倒だったので私は久しぶりの自分の部屋に向かうことにした。


部屋に着くとまだあまり経っていないのになんだか懐かしい気がする。

置いてあるものも持ち帰ったもの以外はほとんどそのままだ。

さっさと寝てしまおうと思っていたが、部屋に戻ると不思議と眠気はすっかり収まっていて、ベットに横になっても眠れなかった。


とはいえ疲れているのは間違いないのでせめて横になるだけでもと思っていたが、なんだか逆に体が痛くなってしまったので、私は少し早めの昼食をとることにした。

部屋を出て食堂へ向かうと、そこには既にたくさんの人がいた。クリスタルカレッジの生徒以外にも早入りした他の学校の生徒たちも多く見受けられる。


私は空いている席に適当に座ってブランチを楽しんでいると、向かいの席に一人の生徒がガタンと座ってきた。


「ノエルの言った通り、痩せたな」


大丈夫なのか?と柄にもなく心配してきたのはクリスタルカレッジ1年生、クリスタル帝国第一皇子のレオン・ベネディクトだ。彼とは交換留学以来連絡も取っておらず、会うのは久しぶりだが、再会の挨拶もそこそこに私のプレートに彼のステーキを乗せてきた。


「いやいや、こんなに食べられないので」


私がステーキを返そうとしても、彼は皿を持ち上げて返さないようにしてくる。

しばらくこの攻防が続いたあと、私が諦めてステーキを自分のプレートに戻すと、彼も皿をテーブルの上に戻した。


「役作りとか言ったか?」


「そうそう。学校対抗の演劇に出ることになったからね。10キロくらい痩せました」


「たかが学校行事だぞ?そんな無理する必要ないだろ」


そんなに勝ちたいのか?

レオンの言うことはもっともだ。実際私もずっとそう思ってたし。

確かに勝ちたい。スポンサーがついて優勝校への副賞はかなり豪華になった。正直私としても喉から手が出るほど欲しい副賞もある。けれど。


「それもあるけど。私の場合は勝ちたいからやってるって言うより、気が付いたらやってたって感じかな?」


「気が付いたら?」


「私の学校の演劇に関わってる人って、そもそもプロみたいな人が多いんです。だからもちろん技術とかもすごいんだけど、それよりも彼らは意識が違うんですよね。一切妥協しないし、ストイックで。だからそれを見てたら私も中途半端なこと出来ないって言うか、その空気に飲み込まれたっていうか」


まぁ体重はこの文化祭が終わればすぐ戻るだろうし、と言うと、レオンは「そうか」とだけ言って去っていった。食べるの早くない?


私はその後もゆっくりとブランチを楽しんでいるとすっかり集合時刻が迫っていた。

減量を始めてから少量でも満足できるようにゆっくり食べていたらすっかり癖になってしまったのだ。


急ぎ目に与えられた稽古場に向かうと、集合時間5分前だというのにほとんど人がいなかった。

集合時間を少し過ぎてからみんなが走ってきたのにはなんだか笑ってしまった。まさかレヴィまで遅刻するなんて。話を聞くと、久しぶりにちゃんとしたベットで眠ったら疲れがどっと来てしまって爆睡していたのだそうだ。遅れてきたキャストやスタッフたちは、みんな揃って「ごぺんなさい」を披露していた。時間内に来ていたエリカは顔を真っ赤にしていたけど。


一通り笑い終わると、真面目な顔に切り替えたレヴィが良く通る声を発しながら手を叩いた。


「ゲネプロまでの最終調整よ。気合い入れていきましょう!」


「「はい!」」



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